沖縄本土復帰50年を記念し、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース作品として2022年12月に初演。沖縄市出身の劇作家・兼島拓也さんが書き下ろし。沖縄に出自を持つ田中麻衣子さんが演出を担当。第30回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞し、第26回鶴屋南北戯曲賞ノミネート、第67回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれるなど大きな話題を呼びました。そんな話題作が今年5月より再演、6月には沖縄でも上演されます。

1964年に起きた「米兵殺傷事件」を起点に展開する沖縄の物語

本作は、アメリカ占領下の沖縄で起こった1964年の米兵殺傷事件を基に書かれたノンフィクション「逆転」(伊佐千尋著、新潮社・岩波書店刊)に着想を得て創作。執筆において、現代を生きる東京の若者たち、基地問題の専門家、同じ基地の町・横須賀に暮らす人たちなどにヒアリングも実施しながら、田中さんと推敲が重ねられました。

雑誌記者の浅野は特集として、60年前の沖縄で起きた米兵殺傷事件について調べていました。その中で妻・知華の祖父である佐久本が事件の容疑者だったことを知ります。事件に関する調査を進めるうちに、次第に沖縄の過去と現在が渾然となった不可解な状況下にいざなわれていき、「沖縄の物語」が育んできた「決まり」の中に自分自身も飲み込まれていきます…。

撮影:引地信彦

沖縄出身の劇作家・演出家・俳優陣が今作の世界へ誘う

物語が進むにつれ、米軍基地と生活が隣接している沖縄で活動する兼島さんの「沖縄は日本のバックヤードではないのか」「沖縄の犠牲の上に成り立っている日本という国」という想いが感じられ、本作を観ている間に沖縄の複雑性や日本自体の在り方を直視させられます。

田中さんの演出は、内地からやってきた主人公・浅野が事態に巻き込まれる様子を通して、内地の人間が沖縄で起きている物語を今まで知らずに生きてきてしまった、見ないふりをしてしまった、どうしようもないあきらめにも似た状況をそのまま舞台上で観劇する私たちに突きつけます。

初演時、出演者の半数が沖縄出身の俳優陣だったことで台詞の一つ一つがより物語の没入感を高めていました。今回もあめくみちこさんをはじめとした、蔵下穂波さん、神田青さんという沖縄出身の俳優陣の他、前田一世さん、小川ゲンさん、魏涼子さんが初演から続投します。また主人公・浅野役には、「阿佐ヶ谷スパイダース」のメンバーとしても活躍し、独特の存在感を放つ中山祐一朗さん。物語の重要な鍵を握る佐久本役には、第40回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、映画やドラマでも幅広く活躍する沖縄出身の佐久本宝さんが演じます。

本作は5月24日(金)から6月2日(日)までKAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>にて上演。その後、京都、福岡県久留米と巡演し、6月22日(土)より沖縄公演が行われ、沖縄慰霊の日である6月23日(日)に大千秋楽を迎えます。初日24日(金)の19時公演では兼島さん、田中さん、KAAT神奈川芸術劇場で芸術監督を務める長塚圭史さんのアフタートークも行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。

おむ

「ライカム」とはかつて沖縄本島中部の北中城村比嘉地区に置かれていた琉球米軍司令部。今は地名として残っており、物語の中にも登場する米軍関係者専用のゴルフ場の跡地には、ショッピングモールが建ち、地元民や観光客も訪れるスポットになっています。 人気の観光スポットとして有名な沖縄ですが、「ライカム」のようにそこで起きた歴史が必ずあり、これまで読もうとされなかった沖縄の物語を、沖縄の人々から今を生きる私たちが鋭く問われていると感じさせます。