皆さんは「アングラ演劇」をご存知ですか?「難しそうだし挑戦しづらい」なんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、そんな深くて謎めいた世界を深掘り。知られざる魅力に迫ります。
前衛的で実験的。社会現象を巻き起こす強ジャンル
ストレートプレイ、ミュージカル、2.5次元、宝塚歌劇団のショーや大衆演劇。一口に「演劇」と言っても形態は様々です。例えば下北沢で人気の小劇場での演劇と、大きな劇場での壮大な商業演劇、内容は全く違うけれど、どちらも「演劇」。
きっと「普段はミュージカルばかり観ている」「原作が好きだから2.5次元にハマっている」など、演劇の中でもさらに絞り込んだジャンルに没頭している方も多いはずです。
そんな幅広く奥行きのある演劇の世界で、一際異彩を放つのがアンダーグラウンド演劇___通称「アングラ演劇」。真の演劇好き・観劇上級者向けの作品と思われがちなこのジャンル。難しそうだから、と距離を置く人がいるのも事実ですが、一体どのような演劇なのでしょうか。
時は1960年代。移動式のテント劇場や街中のゲリラ公演など、前衛的な小劇場演劇が一大ブームとなりました。人気劇団同士の対立や警察も出動する暴力事件など、過激なトピックで度々世間を賑わす彼らの活動は、良くも悪くも注目の的です。
アンダーグラウンド=反体制的、前衛的、実験的。マスコミはこのムーヴメントを「アングラ演劇」と名付け、それは徐々に世間に浸透していきました。
この運動が生まれた根底には反体制運動(政府に抗議する運動)や反商業主義(利益重視の生き方に反対する運動)の思想があり、1960年代の学生運動や市民運動の内容とも通じるところがあります。また、公演ポスターや舞台美術という形で現代美術を取り入れたり、ジャズ、ロック、ポップミュージックを使ったりと、とにかく新しいことに挑戦する活動的な世界でもありました。
ここで「反体制?反商業?難しい!」と感じてしまう方もいるのでは、と思いますが、砕いて考えると「とにかく、自分の気持ちを色んなやり方で伝えたい!」という演劇人が集まって生まれたアツいジャンル、とも言えます。
唐十郎さん率いる「状況劇場」や寺山修司さんの「天井桟敷」。才気あふれる劇作家たちが牽引したこのジャンルは、今もなお様々な劇団・役者によって語り継がれています。
意外に感じるかもしれませんが、現在テレビメディアや商業演劇界で活躍されている役者さんの中にも、アングラ演劇の劇団で活動していた方や学生時代にアングラの世界を学んでいた方がかなり多くいらっしゃいます。
映像作品で活躍し、バイプレイヤーとしても絶妙な存在感を放つ佐野史郎さんや六平直政さん、小林薫さんや渡辺いっけいさんは「状況劇場」出身。
他にも風間杜夫さんや木野花さんなど……挙げ出すときりがありませんが、実はアングラ演劇の血が流れる役者さんはたくさん存在していて、様々なフィールドで活躍しているのです。
そう思うと、「アングラ演劇」、少し身近に感じてきませんか?
現代でアングラを観るには?人気劇団が多数
前述の「状況劇場」や「天井桟敷」を筆頭にアングラ演劇が盛り上がりを見せていた当時から考えると、現在そのブームは落ち着いているようにも見えます。
しかし、実際はそんなこともないのです。カリスマ的魅力を誇った唐さんや寺山さんの意志を継ぎ、アングラ演劇を守り続けている劇団は全国に多数。根強いファンもたくさんいます。
特に有名なものだと、「状況劇場」が改組した「唐組」、「状況劇場」出身の金守珍さんが代表の「新宿梁山泊」、「早稲田小劇場」が変化して生まれた「SCOT」など。
「唐組」はその名の通り唐十郎さんの戯曲・劇世界を研究し続けている劇団です。お馴染みの“紅テント”を引っ提げ、現在も神社や公園などで公演を行なっています。
「新宿梁山泊」もかなり活動的。 “紫テント”で唐作品を上演しています。最近だとSUPER EIGHTの安田章大さんが主演を務めたことで話題となりましたね。
「SCOT」は、鈴木忠志さんが代表。アングラ演劇の大旋風真っ只中で「早稲田小劇場」を創設した彼は、アングラ演劇と向き合いながら独自の演劇メソッドを極めました。
この時代でも確かに愛され続けているアングラ演劇。ここまでその成り立ちや劇団をご紹介してきましたが、結局のところ一番気になるのは公演の詳しい内容ですよね。
【反体制的、前衛的、実験的】な演劇とは、一体何なのか。……しかしこれは「まずは一回観てほしい」としかお伝えできません。
アングラ演劇にはファンタジー要素が強い作品も多いです。たとえば唐作品であれば、アパートの四畳半がいきなり大海原になったり、はるか中国大陸まで飛んでいったり。そして難しい言い回しとよく分からない言葉の羅列に、謎の感動シーン。特に解釈に正解はなく、観劇後に「あれはどんな意味だったのかな」と各々が考えて、なんとなく腑に落ちる答えが見つかったらそれでOK。
それゆえ、この独特な世界観に入り込めず、感想が「難しい」で終わってしまう方もいます。ですがそんな中でも、心のどこかに何か引っ掛かる言葉やシーンがあったのならば、それはそれで、作品として “大成功”なのです。
観劇のハードルが高いなんてことはありません。皆さんもぜひ、生のアングラ世界を体感してみてくださいね。

今まで挑戦してこなかった方も、食わず嫌い、克服してみませんか?