かの有名なシェイクスピアの悲劇『ハムレット』を“ルネサンス音楽劇”として立ち上げる舞台が、2025年9月に上演されます。タイトルロールに挑むのは、若手歌舞伎俳優として活躍する片岡千之助さんです。

イギリスと日本の伝統が重なる舞台

ウィリアム・シェイクスピアは今から400年以上も前、エリザベス1世の統治下で活躍したイギリスの劇作家です。

1558年から1603年まで続いたエリザベス朝時代にはさまざまな文化が繁栄し、特に演劇界においてはイギリス・ルネサンス演劇が開花。ロンドンには次々と劇場が作られ、貴族から市民に至るまで階級を問わず、観劇が娯楽として親しまれるようになりました。『リア王』『マクベス』『オセロ』と並ぶシェイクスピアの四大悲劇『ハムレット』が執筆されたのも、17世紀初頭といわれています。

その頃の日本はちょうど江戸時代の初めにあたり、出雲阿国が京都で始めた「かぶき踊り」が大流行。庶民だけでなく貴族や武士にも受け入れられるなかで、現在の歌舞伎へと発展していきます。

つまり、イギリスの演劇と日本の歌舞伎は発祥の国こそ違えど、ほぼ同時期に社会に広がっていった芸術だといえるでしょう。

このように日本とのつながりを感じられるシェイクスピア作品の『ハムレット』は、多様な解釈のもとで繰り返し上演されてきました。そして来たる2025年9月、“ルネサンス音楽劇”という演出によって新たな舞台の幕が開きます。

<あらすじ>
デンマーク王が急死した──。
王の死後あわただしく王の弟クローディアスが、王妃ガートルードと結婚し、デンマーク王の座に就いた。
王子のハムレットは父の死と、母の早急な再婚に思い悩む。無二の親友ホレイショーから亡き父の亡霊が城砦に現れると聞き、ハムレットはホレイショー、衛兵のマーセラスらと亡霊に会いに行き、父がクローディアスに毒殺されたことを知る。
復讐を誓ったハムレットは、狂気を装う。
母のガートルードは心配のあまり学友のローゼンクランツとギルデンスターンを呼び、様子を伺わせることにする。
一方、宰相ポローニアスは、ハムレットの狂気の原因を自分の娘オフィーリアの実らぬ恋ゆえだと思い込み、ハムレットとガートルードとの会話を盗み聞きするため、王妃の居間に忍び込むが、その人影をクローディアスだと思ったハムレットは誤ってポローニアスを刺殺してしまう。
ハムレットを慕うオフィーリアは、ハムレットの乱心、父の突然の死という悲しみが重なり狂気となり、その後溺死してしまう。
その葬儀に偶然出くわしたハムレットは、オフィーリアの兄レアティーズとつかみ合いとなる。
一旦引き離されたレアティーズはクローディアスに説得され、父と妹の仇をとろうと、ハムレットに対して怒りを燃やし、ついに二人の剣の試合が始まる…。

多彩なジャンルの俳優陣が集結

ルネサンス音楽劇『ハムレット』では、歌舞伎俳優の片岡千之助さんが初めてシェイクスピア作品の主演を務めます。

片岡千之助さんは十五代目 片岡仁左衛門、初代 片岡孝太郎に連なる松嶋屋の系譜で、2004年に4歳で初舞台を踏みました。歌舞伎役者として研鑽を積む一方、映像作品や現代劇舞台にも出演。2024年には大河ドラマ「光る君へ」での演技も話題となりました。現在は大学に復学し、より多角的な視点から表現の手法を追求しています。

実は、千之助さんと『ハムレット』には、祖父の仁左衛門さんが何度も主役を演じたという縁があるんです。祖父から孫へ、世代を超えて受け継がれるハムレット役に千之助さんがどのようにアプローチするのか、ますます期待が高まります。

脇を固める俳優陣も、ミュージカルや舞台で活躍する方ばかり。

ハムレットに恋するオフィーリア役は、宝塚歌劇団出身の元花組トップ娘役であり、2025年8月にはミュージカル『コレット』に出演する花乃まりあさん。

また、宝塚歌劇団の元雪組トップ娘役で花乃さんとは同期の間柄である朝月希和さんが、ハムレットの母・王妃ガートルード役に。2022年の退団後も、ミュージカル『シェルブールの雨傘』や『王様と私』、音楽劇『ライム・ライト』など俳優としての活躍が光ります。

さらにオフィーリアの兄・レアティーズ役には、『Endless SHOCK』をはじめ舞台作品への出演を重ねる若手俳優の高田翔さんがキャスティング。

そして、俳優活動に留まらず、演出や脚本を手掛けた経験もある山本一慶さんがハムレットの親友であるホレイショー役を演じます。ちなみに、2026年1月の楽劇『フィガロ』では朝月さんと再び共演する予定です。

ハムレットを苦悩させる最大の要因といえば、叔父・クローディアスでしょう。この役を演じるのは、劇団四季で数多くの舞台を主演した福井晶一さんです。退団以降もミュージカルや舞台を中心に精力的に活動を続け、2013年の新演出版『レ・ミゼラブル』ではジャン・バルジャンとジャベールの2役を担当。特に2021年まで演じたジャン・バルジャン役で高い評価を得ました。ミュージカル界を支える実力派俳優の演技も見逃せません。

そのほか、WAHAHA本舗所属の我 膳導(われ ぜんどう)さんが宰相・ポローニアス役と墓掘りを兼任。ハムレットの学友2人のうち、ローゼンクランツ役で岩崎MARK雄大さん、ギルデンスターン役で書川勇輝さん、また衛兵のマーセラス役で和田裕太さんが出演します。

シェイクスピアの時代を体感できる演出

“ルネサンス音楽劇”を掲げる本作では、音楽による演出にこだわっているところも特長のひとつ。

今回、演出を手掛ける彌勒 忠史(みろく ただし)さんは、中世から現代音楽に至るまで幅広い分野に精通する声楽家です。国内外のオペラ・コンサートにおいて多数の受賞歴を持つだけでなく、「題名のない音楽会」といったテレビ番組にも出演し、声楽の普及に努めています。

そして、ルネサンス音楽やバロック音楽を象徴する3つの楽器を用い、『ハムレット』の原作が初演された当時の楽曲を生演奏で届けます。

そのうちのひとつ、リュートは15世紀から17世紀を中心にヨーロッパで流行した弦楽器で、特にバロック時代には独奏楽器としても人気を博しました。リコーダーはルネサンス時代になって現在の形が完成し、17世紀から18世紀半ばにかけて全盛期を迎えたそうです。また、ヴィオラ・ダ・ガンバとはバイオリンやヴィオラなど擦弦楽器の一種。脚で支えて演奏し、主にルネサンス・バロック時代における宮廷音楽や教会音楽で活用されました。

それぞれの演奏を担当するのは、リュートの高本一郎さん、リコーダーの織田優子さん、ヴィオラ・ダ・ガンバの頼田麗さん。楽器のスペシャリストたちが奏でる音によって、さらに物語の世界観に没入できるのではないでしょうか。

ルネサンス音楽劇『ハムレット』は2025年9月3日(水)から9日(火)まで東京の新国立劇場 小劇場にて、9月13日(土)から15日(月・祝)まで京都の先斗町歌舞練場にて上演されます。公演に関する詳細は公式HPをご確認ください。

もこ

歌舞伎にミュージカル、オペラ、古典音楽などさまざまな芸術が共鳴して生まれる新しい『ハムレット』をぜひ五感で味わってください!