2022年に開幕し、ロングラン上演4年目を迎えた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。「ハリー・ポッター」シリーズの大ファンであり、ハーマイオニー・グレンジャー役を演じる松井玲奈さんにお話を伺いました。
ホグワーツの入学許可証を、待ち侘びていた

−松井さんは「ハリー・ポッター」シリーズの大ファンだそうですね。
「本を読むのが好きだった私に母が小説第1巻「ハリー・ポッターと賢者の石」を勧めてくれて、こんなに分厚い本を読みきれるだろうか?と心配しながら手に取ったのを覚えています。読み進めていくとあっという間に夢中になって、そこからは新巻が出るたびに本屋さんで予約して、発売日には本屋さんが開いたらすぐに買いに行ってねと母にお願いしていました。
3歳上の兄もハリポタが大好きだったので、毎回どちらが先に読むか喧嘩になるんです。「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」では上下巻に分かれていたので、兄との喧嘩に負けて下巻から読んだ思い出があります(笑)。常に本を持ち歩くくらい、大好きな作品でした」
−ご自身が出演することになると想像していましたか?
「ハーマイオニーになりたいという憧れはありましたし、ホグワーツの入学許可証が自分のところに来るように願っていましたが、ハーマイオニーになれるなんて想像もしていなかったです。なので舞台が上演されると決まった時は、どこかで私にチャンスが巡ってきたりしないだろうか、と思っていました。実際にオーディションのお話をいただいた時は嬉しかったです。
ただ、ロングラン公演というものに挑戦したことがなかったので、本当にできるだろうかという不安もありました。でもオーディションを受けてみないことには夢に手が届きませんし、まずは受けてみて、もし受かったら全身全霊で演じたいと思いオーディションに臨みました」
−『ハリー・ポッターと呪いの子』に対してはどのような印象を持たれていましたか。
「脚本が発売された時にすぐに読んで、ラストの展開、“呪いの子”というタイトルに隠された秘密がわかったときには鳥肌が立ちました。実際に舞台で上演されているのを観た時は、日本のエンターテイメントの最高峰がここにあると感じましたし、魔法の演出がどうなっているんだろうと気になりました。あまりにも照明が美しすぎて、舞台上から見る景色はどんな景色なんだろうと、羨ましい気持ちもありました。2年目、3年目も観劇していて、キャストが変わると同じ脚本でもキャラクターの浮かび上がり方が違ったり、刺さる台詞が違ったりして、小さな変化を楽しめる作品でもあるなと感じました」
ハーマイオニーの聡明さと仲間思いのキャラクターを大切に

−ハーマイオニーを演じるにあたって、どんなことを大切に、役作りを進められましたか。
「自分が子どもの頃から思っていた芯があって、聡明で、仲間思い、誰かのために動ける人であるというハーマイオニー像は絶対に大切にしたいと思っていました。そういう彼女の素晴らしさを大事にしながら、本作では魔法大臣という役割が加わったので、どうしたら魔法大臣としての威厳が見えるだろうかというところを試行錯誤しながら、お稽古に臨みました。本作には小説・映画で描かれてきたシーンとリンクする場面も多いので、小説を読み返したり、映画を見返したりして、この場面でハーマイオニーはどんなことを感じていたんだろう?ということを何度も考えました」
−ハーマイオニーは本作では魔法大臣になっていて、キャリアを築いた女性としての姿が描かれていますね。
「彼女自身は魔法大臣という仕事に対してプレッシャーを感じていて、実績を証明しなければいけないと感じています。実際に演じていると、周囲を引っ張っていくというのは凄くエネルギーがいることだなと実感します。その分、家庭が疎かになってしまって、上手くバランスが取れていないからこそ、ハリーやロンと過ごしているときは、彼女の迷いや弱さが垣間見えるように、お芝居をしていけたら良いなと思います」
−ご自身とハーマイオニーとの共通点はありますか。
「本が好きなところや、興味があることに対して凄く楽しむところ、真っ直ぐに突き進んでいくところが似ていると思います。先の先まで考えて心配になってしまったり、対策を考えたりするところも似ています。脚本を読んでいる中で、彼女の考えが理解できないところはなかったです。自分と近しいところにいたキャラクターだと思いますし、やっぱり好きなキャラクターなので演じていて凄く楽しいです。原作好きの方には、“この部分は原作のハーマイオニーっぽいな”と思ってもらいたいですし、映画を見てきた方たちには“この部分は映画のハーマイオニーを感じる”と思ってもらえたらいいなと思いながら、オタク魂を時々出しながら演じています」

−本番の舞台に立ってみていかがでしたか。
「お客様が驚いたり、涙ぐんだり、息を呑んだりする瞬間が伝わってくるので、劇場に風が起きているような感覚に陥りました。魔法もお芝居も、客席にいる方達が驚いたり反応したりしてくれることで初めて完成するんだなと日々感じています。またキャストが変わると受け取るものも、私が投げかけるものも変わるので、そういった演技の変化も楽しいです。同じキャストでも、その日の公演によって違うこともあります。ハーマイオニーが一生懸命状況を説明しているのに、ロンやハリーは全然聞いていなかったり、聞いているふりをしていたり、急に目が合う日もあったり。そういう些細な変化をしっかりキャッチして、お芝居に生かしていけるようにしたいと思います」
−演じていてグッとくるシーンはありますか。
「ハリーが危ない決断をしなければいけない時、ハーマイオニーは常にハリーの味方なので、できる限り協力して彼が望むことを叶えようとします。こういうふうにやったらできるかもしれない、と言いながらみんなの顔を見渡した時に、ジニーが凄く不安そうな顔でハリーを見ていたんです。もしかしたらハリーにとんでもないことが起こってしまうかもしれない、と心配する愛情の眼差しを見た時、グッと込み上げてくるものがありました」
人生で一度、特別な体験だったと思ってもらえるように

−松井さんは『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターでもイギリスを訪れ、映画のロケ地やモデルとなった場所を訪れていましたね。どんなことを感じられましたか。
「ホグワーツ特急のモデルになった列車に乗らせていただいて、ハリーたちはこういう場所で出会ったのかな、こうやってホグワーツに向かったのかなと想像する体験ができたのは本当に貴重なことでした。ダイアゴン横丁のモデルになった場所にも行かせていただいて、イギリスはどこを巡っても、ハリー・ポッターがここにいたのかもしれない、という息遣いを感じられるのが凄く楽しかったです。
また先日はロンドン公演を観に行かせていただいて、「ハリー・ポッター」は本当に国民的な作品なんだなということを実感しました。例えばネビルの名前が出ただけで笑いが起こったり、アンブリッジが痛い目に遭うと歓声が起こったり、みんながこの作品を愛していて、文化として根付いていることを感じたんです。出演している俳優の皆さんもお客さんの反応を感じて全身で応えているのが印象的で、私もアグレッシブな気持ちで舞台に立ちたいと感じました」
−日本では4年目のロングラン公演となりました。松井さんはこれまでも毎年本作を観られてきたとのことですが、見え方の変化はありますか。
「キャストが変わると物語の見え方が変わるのが面白いところだなと思います。特にアルバスとスコーピウスのペアが変わると物語の色が変わるなと思っています。本人たちはそんな事ないと言うかもしれないですが、4年目キャストとして入ってきた原嶋元久さんと大久保樹さんは、これまで観てきたペアより根っからの明るさや、2人の世界観が確立されている印象があります。2人でいるからこそ出るエネルギーが台詞にもある“闇の中の光”になっているなと感じました。アルバスとスコーピウスの組み合わせによって変化していくのを舞台裏で観るのが凄く楽しいです」
−演じている中で、刺さる台詞はありますか。
「ダンブルドアの台詞はやっぱり年々沁みます。“どんな輝かしい幸福な瞬間にも、あの一滴の毒がある−痛みが再びやってくることがわかっているという毒が”という台詞がとても刺さって、市村正親さんが稽古場でこの台詞を言うときは私だけでなく、みんなが目を離せなくなっていました。こういう説得力のある、吸引力のあるお芝居ができる人になりたいなと思いました。間宮啓行さんが演じるダンブルドアもとっても素敵で、ステージ上で光を操っているだけで涙が出てきてしまうくらいです」
−初めてのロングラン公演が始まって、いかがですか。
「ハーマイオニー役はトリプルキャストなので、意外に出演できる公演数というのは限られているんですよね。そうやって考えると、あとこれだけしかハーマイオニーを演じることができない、とカウントダウンが始まっていて、すでに寂しい気持ちになっています。だからこそ1回1回を大切にしたいですし、お客様の中には人生で一度しか『ハリー・ポッターと呪いの子』を観ない人もたくさんいると思うんです。そういう方たちに、何か特別な体験だったと思っていただけるようなお芝居、そして作品を届けたいなというのを感じています」

−気になっているものの、まだ本作を観られていないという人にもメッセージをお願いします。
「これまでの「ハリー・ポッター」を知らないで観にきていただいても全く問題ないと思っています。この作品はいろいろな愛の形を描いた物語だと思うので、まずその愛を受け取りに来てもらえたら嬉しいです。目の前で繰り広げられる魔法の数々に驚いていただいて、その驚きの波に乗って物語の最後まで一緒に走っていただけたら嬉しいなと思います。それで「ハリー・ポッター」って面白いなと思ったら、家に帰ってから小説を読んだり、映画を観るというのも素敵だと思うんです。そうすると後から“この作品のこの部分と繋がっていたんだ”と気づくこともあると思います。ぜひ劇場に足を運んでみていただきたいです」
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアターにてロングラン上演中。公式HPはこちら

松井さんとは同い年で、「ハリー・ポッター」シリーズの本を夢中で読んできたという共通点があったので(ホグワーツの入学許可証を待っていたお話を聞いて、「同じです!!」と大興奮でした)、勝手にハーマイオニー役を演じられていることを嬉しく感じながらお話を伺いました。言葉の節々から作品への、ハーマイオニーへの愛情が伝わってくるインタビューとなりました!