ヘルマン・ヘッセの小説をもとにした舞台『シッダールタ』が、2025年11月より世田谷パブリックシアターで開幕。演出に白井晃さん、主演に草彅剛さんを迎え、演劇界を牽引する実力派のスタッフ・キャストが一丸となって名作に挑みます。

ヘルマン・ヘッセの名作小説を舞台化

舞台『シッダールタ』の原作は、ドイツの作家ヘルマン・ヘッセの同名小説です。

牧師の家庭に生まれたヘルマン・ヘッセは、神学校に入るも馴染めずに退学した後、紆余曲折を経て作家として成功しました。主な著作に『車輪の下で』『デーミアン』などがあり、1946年にはノーベル文学賞を受賞しています。一方で、2つの世界大戦を経験した人生において平和主義を唱え、世間から非難されながらも人間の精神の幸福を探求する作品を書き続けました。

そんなヘッセが30代の頃にインドを訪れたことをきっかけに東洋思想と出会い、1922年に小説『シッダールタ』を発表。古代インドの宗教家が悟りに至るまでの姿を描くなかで、「自我が向かう先、そして人間の存在とは何か」という哲学的なテーマと向き合っています。

そして今回、作品創造・発信型の公共劇場である世田谷パブリックシアターで2025年に上演されるメインプログラムのひとつとして、『シッダールタ』の舞台化が実現しました。

<ストーリー>
ひとりの男(草彅剛)が、世界の混沌の中で自身を見失い佇んでいる。友人のデーミアン(鈴木仁)は行動を促すが、彼は歩き出す道を見出せない。同僚のエヴァ(瀧内公美)の支えを受けながら思索の森に足を踏み入れ、やがて彼はシッダールタとなる。
古代インドに生まれたシッダールタ(草彅剛)は、最高位のバラモン階級の子として生きている。その生活に疑問を抱き、より深い叡智を求めて、家を飛び出す。シッダールタについてきたのは、彼に魅了されている青年ゴーヴィンダ(杉野遥亮)ただひとりだった。しかしシッダールタは、修行の意味に疑問を抱き、修行の道を突き進むゴーヴィンダとも袂を分かち、俗世に下野する。やがてシッダールタは、美貌と知性と教養で確固たる地位を築いた高級娼婦・カマラー(瀧内公美)と出会い、性愛による快楽を体験する。さらには商売で富を得ることで、所有欲を満たす経験を覚えるが、それでも本質が満たされることはなく苦悩する。やがて彼は川で渡し守のヴァズデーヴァ(ノゾエ征爾)と出会い、彼の世界観に導かれていく。川の流れの中、シッダールタは別れたカマラー、自らの息子(中沢元紀)、かつて袂を分かったゴーヴィンダらと再会を果たし、自らにさらに深く問いかける。
出会いと別れを繰り返し、この世界に絶望し、人生に迷っていたシッダールタが、悟りの境地にたどり着いた時に見えた景色とは──。その音とは──。

劇作・演出・音楽の精鋭が物語に見出す応えとは

舞台『シッダールタ』の演出を手掛けるのは、ストレートプレイから音楽劇、ミュージカル、オペラに至るまで幅広いジャンルの作品に携わってきた演出家・俳優の白井晃さんです。白井さんは2022年に世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任し、2024年からは主催公演のプログラムも作成する立場に。2025年度の公演ラインナップでは「わたしは、この世界にどう生きるか」というテーマを掲げており、その問いに対するひとつの応えを本作の中に見出そうとしています。

そして、白井さんと初めてタッグを組んで脚本を担当するのが、劇作家・脚本家の長田育恵さん。2009年に旗揚げした劇団「てがみ座」の全公演に加え、近年は外部の舞台や映像作品でも脚本を執筆しています。また、2023年にはNHKの連続テレビ小説「らんまん」の脚本が評価され、令和5年度文化庁芸術選奨新人賞を受賞しました。原作の壮大な世界観をベースに、作家自身の思索も道しるべとしながら、観客が「今を生きること」について考えるきっかけとなる物語を紡ぎます。

さらに、アーティスト、作曲家、編曲家、演奏家と多彩な顔を持ち、ボーダーレスに活動する三宅純さんを音楽担当に迎えます。

舞台を支える実力派の俳優陣

主演は、役にはまった演技と確かな存在感で見る人を惹きつける草彅剛さん。実在する宗教家であり釈迦とも称される仏教の始祖ブッダと同じ名を持つ青年シッダールタと、「現代を生きるヘッセ」に重なる“ひとりの男”の2役を演じます。

草彅さんは2023年の舞台『シラの恋文』や2024年の『ヴェニスの商人』、2025年に公開されたNetflixオリジナル映画『新幹線大爆破』でも主演を務め、高い演技力を発揮。第48回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞した2024年公開の映画『碁盤斬り』は、イタリアの映画祭「RED LINE INTERNATIONAL FILM FESTIVAL」のコンペティション部門にて最優秀長編作品賞を獲得しました。

また演出の白井さんとのタッグは、2018年に日本で初演された『バリーターク』、2020年と2021年再演の舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』に続く3作目。これまで築いてきた信頼関係のもと、難しい役柄に挑戦します。

シッダールタの生涯の友となるゴーヴィンダを演じるのは、杉野遥亮さん。直近では、9月11日に最終回が放映されたドラマ「しあわせな結婚」でキーパーソンとして話題を集め、10月17日には映画『ストロベリームーン』の公開も控えています。実は本作が2回目の舞台出演だそうで、2023年放送のドラマ『罠の戦争』以来となる草彅さんとの共演にも注目です。

シッダールタと深い関係で結ばれるカマラー役には、瀧内公美さん。2021年に主演を務めた映画『由宇子の天秤』では第31回日本映画批評家大賞主演女優賞をはじめ国内外で多くの賞を受賞し、現在大ヒット中の映画『国宝』にも出演しています。シッダールタにとって大きな存在となる女性をどのように演じるのか、期待が高まります。

そして、ドラマや映画を中心に活動し、2026年公開予定の映画『時には懺悔を』にも出演する若手俳優の鈴木仁さんが、“ひとりの男”の友人であるデーミアン役に。

一方、シッダールタを取り巻く人々のうち、彼の息子をNHK連続テレビ小説『あんぱん』の主人公の弟役で朝ドラ初出演を果たした中沢元紀さんが演じます。

また、シッダールタの父役である松澤一之さんは、2024年に白井さんが上演台本・演出を手掛けた世田谷パブリックシアター主催公演『セツアンの善人』に出演していました。

シッダールタに商売を教える商人のカーマスワーミ役には、多様なキャラクターを演じ分け、白井さん演出による2024年の舞台「エウディリケ」にも参加していた有川マコトさん。

さらに、古代インドの大河で渡し守をするヴァズデーヴァ役として、ノゾエ征爾さんが登場。主宰する劇団「はえぎわ」にて作・演出だけでなく出演までマルチに担いながら、舞台『そよ風と魔女たちとマクベスと』など外部での活動も精力的に行っています。

そのほか、池岡亮介さんに山本直寛さん、斉藤悠さん、ワタナベケイスケさん、中山義紘さんなど実力派の俳優が一挙に集結。カンパニーにはダンサーたちも加わり、『シッダールタ』の世界観を創り上げていきます。

舞台『シッダールタ』は、2025年11月15日(土)から12月27日(土)まで東京・世田谷パブリックシアターにて上演。その後、2026年1月10日(土)から1月18日(日)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで兵庫公演を行います。

なお東京公演の期間中には、作品についてより深く知ることができる関連企画も実施予定です。12月14日(日)に終演後の舞台を見学できるバックステージツアー、12月21日(日)に演出家の白井さんを講師とする「上演作品をめぐるレクチャー」が開催されます。このほか、舞台に関する情報は公式HPをご確認ください。

もこ

筆者は、『シッダールタ』の物語を通して「自分はどうやって生きていきたいのか」と自らを見つめ直してみたくなりました。これこそ演劇の持つ力なのかもしれません。