誰もが文化芸術を楽しみ、参加できる社会を目指す「オールウェルカムTOKYO」プロジェクト。その一環として上演されるのが、舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』です。振付家・ダンサーの森山開次さんを中心に、障害の有無やキャリアの垣根を超えて、23人の表現者が集結します。身体から生まれる多様な表現を交錯させながら、新たな舞踏を切り開きます。東京2020パラリンピック開会式で刻まれた記憶を未来へと走らせる本作は、観る者に「違いが共存することの力」を体感させてくれるでしょう。
舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』のストーリー
ある街に、詩人がいました
詩人は、不思議な音が響く蒸気機関車に出会います。
列車に乗り、導かれるように旅に出ます。
色々な音を響かせ煌めかせ、詩を拾い繋ぎ、舞い走る列車。
列車は、さまざまな乗客を乗せ、旅をします。
そして、さまざまな風景を走ります。
詩人は心を澄ませ、世界を見聞きし、詩を綴り、踊り巡ります。
ラテン語の「ムジカ」は「音楽」の語源、遥昔、広く豊かな芸術を内包した言葉。
この舞台、この列車は、「詩」と「音」と「舞」が織りなす「ムジカ」を響かせます。
森山開次さんの創作ノート『不思議な蒸気機関車「ムジカ」の旅』より
森山開次を中心に切り開く、新たな舞踏作品
舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』は、振付家・ダンサーとして唯一無二の存在感を放つ森山開次さんを中心に創り上げられるオリジナル舞踏作品です。
これまで森山さんは、身体表現を通して「まだ見ぬ世界」を描き続けてきました。本作では「TRAIN」をモチーフに、不思議な音色を奏でる蒸気機関車「ムジカ」と、多彩な乗客による冒険譚を展開し、観客を未知の旅へと誘います。
制作陣として、音楽家の蓮沼執太さんと、劇作家・演出家の三浦直之さんも名を連ねます。
蓮沼さんは実験性と親しみやすさを兼ね備えた独自のサウンドを書き下ろし、イトケンさん、三浦千明さん、宮坂遼太郎さんとともに生演奏を披露する予定です。そして三浦さんは、日常をパッチワークのように紡ぐ言葉で、森山さんの想像力を心に届く物語へと結晶化させます。
上演を控え、森山さんは次のようにコメントしました。
思いきり空気を吸い込んで、
思いきり蒸気を吐き出し踊る。
私たちはどんなSLを走らせ、どこへ行けるのだろう。
いろんな光や音と出逢いながら、
レールなき道を心と体を揺らして踊り繋いでゆく。
歓喜の汽笛を高らかに響かせて、
まだ見ぬ世界を駆け抜けたい。
こうした言葉の通り、本作は身体・音楽・言葉が響き合い、既存の舞踏を超えて広がっていく試みです。表現者たちとともに、単なる舞台作品ではなく、観る者の感覚を揺さぶる「旅」そのものを作り上げます。舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』を観た後、わたしたちは「まだ見ぬ自分」や「多様な他者」に思いを馳せるのではないでしょうか。
23人23色──障害の有無を超えた表現の結集
多様なバックグラウンドをもつ出演者23名が、本作の大きな魅力です。
東京2020パラリンピック開会式で「片翼の小さな飛行機」を演じた和合由依さん。爽やかな好青年から狂気的なキャラクターまで演じ分ける岡山天音さん。透明感あふれる歌声で知られる坂本美雨さん。ろう者俳優として手話表現を活かすKAZUKIさん。モノマネをきっかけに、多くの人に親しまれているはるな愛さん。ジャンルも年齢も、障害の有無も異なる顔ぶれが、ひとつのステージを共有します。
さらに、義足のダンサーとして世界的に知られる大前光市さん。聴覚障害を持ちながら俳優・ダンサーとして活躍する梶本瑞希さん。コンテンポラリーダンサーや一輪車アーティスト、僧侶兼ダンサーなど、個性豊かなキャストが参加予定です。舞台手話通訳者であり俳優としても活動する田中結夏さんのように、表現とアクセシビリティを両立する存在も加わり、舞台の可能性を大きく広げています。
それぞれが歩んできた人生や身体の特性は異なりますが、森山さんの振付・演出のもとで一体となり、身体で語り合う表現へと昇華されます。そこでは「違い」は障害ではなく、むしろ作品を豊かにする源泉になります。23人23色の個性が交錯し、上演後は心に鮮烈な印象を残すことでしょう。
『TRAIN TRAIN TRAIN』は、出演者一人ひとりの存在が舞台の軸になる作品です。誰かが突出するのではなく、すべての個性が響き合いながら走る列車のように共に進んでいく。その光景は、障害の有無を超えて共に生きる、理想の社会にも思えます。彼らの生命力あふれる表現から、きっとわたしたちは「多様性がもたらす輝き」を実感するに違いありません。
東京2020パラリンピック開会式のレガシーを未来へ
本作は、東京2020パラリンピック開会式(2021年)から生まれたレガシーを受け継ぐ舞台でもあります。開会式では、多様な表現者が集い、個性を輝かせながら「共に生きる力」を示しました。その中心で「片翼の小さな飛行機」を演じたのが和合由依さん(当時13歳)で、勇気を持って飛び立つ物語は、多くの観客の記憶に深く刻まれています。
あれから4年。森山さんをはじめ、演出や音楽、衣装、美術など、開会式を共にしたクリエイター陣が再び集結しました。パラ楽団を率いた蓮沼さん、アクセシビリティディレクターとして栗栖良依さんなどがタッグを組むことに。開会式の総合演出を務めたウォーリー木下さんも応援団長として参加し、レガシーが新たな形で花開きます。
もちろんアクセシビリティも充実しています。音声ガイドや字幕配信を活用し、視覚や聴覚に制約があっても自由に楽しめる環境を整備しました。また、ろう詩人Sasa-Marieを迎えた「サイン・ミュージック(Signed Music)」により、音楽を目で聴けるとのこと。こうした試みは、単なる鑑賞サポートを超え、観客全員の想像力を解放し、舞台芸術の新しい可能性を教えてくれます。
パラリンピックで生まれたレガシーは、決して一過性のものではなく、多様な表現者と観客が共に走る列車のように、今も走り続けています。
舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』は、2025年11月26日(水)から30日(日)まで、東京芸術劇場 プレイハウスで上演。公式サイトでは、公演詳細やキャストプロフィールも公開されていますので、ぜひチェックしてみてください。

公式サイトに記されていた「子どもも大人も、視覚でも聴覚でも、あらゆる感性で楽しめる、新しい舞台作品」という紹介文に、強く心を惹かれました。舞台芸術はときに難解なイメージを持たれることもありますが、この言葉には「誰もが自分の感覚を通して楽しめる」という温かさと可能性を感じます。障害の有無や世代を超えて、それぞれが自分らしく作品に出会える舞台になるのではと、とても楽しみです!