本場ブロードウェイの舞台を中心に数々の傑作を映画館で楽しめる「松竹ブロードウェイシネマ」。10月31日(金)から始まる2025年秋シリーズでは、トニー賞受賞の大ヒット作『エニシング・ゴーズ』『インディセント』『タイタニック』が順次公開されます。「松竹ブロードウェイシネマ 2025 秋」公式アンバサダーに就任した城田優さんが3作品の魅力を語りました。

3作品に見るミュージカルの多様性

−公式アンバサダーに就任していかがですか?
「お選びいただいて光栄です。個人的に興味があるミュージカルというジャンルで自分が知らなかった作品に触れることができたり、ブロードウェイに行かなければ観られない作品を観させていただけたり、ご褒美のようなお仕事ですね」

−ブロードウェイミュージカルを映画館で観られる「松竹ブロードウェイシネマ」についてどう思われますか。
「今、円安という世知辛い世の中で、実際にブロードウェイのミュージカルを観に行くには大きなハードルがあります。もちろん、映画館に行くのも色々な手間がかかるとは思いますが、それでもニューヨークに行くよりは大変ではない。本場ブロードウェイの数々の賞を受賞されていたりノミネートされていたり、高く評価をされている作品たちに、間近で触れることができるというのは松竹ブロードウェイシネマならではだと思います。ミュージカルファンは拝んでいるんじゃないでしょうか?(笑)どんどん試みを広げていっていただいて、ミュージカルの魅力がより多くの方たちに届けばいいなと思っています」

−今年上映される3作品の『エニシング・ゴーズ』の魅力について教えてください。まず10月31日(金)から上映される『エニシング・ゴーズ』はいかがでしょうか。
「『エニシング・ゴーズ』はド派手なナンバーがたくさんあって、伏線回収型のドタバタコメディで、王道中の王道、これぞミュージカル!という作品ですね。主演のサットン・フォスターさんはオーラのある素晴らしい女優さんであることはもちろん、もしかしたら本気で笑っているのかなと想像してしまうほど、ナチュラルなリアクションをされていて、そういった豊かで天真爛漫な表情と、そこから滲み出てくる人間らしさ、茶目っ気が魅力だなと思いました。ダンスシーンも多く、とにかく明るい気持ちになりたい方におすすめの作品です」

−11月14日(金)から公開される『インディセント』は、ショーレム・アッシュ氏の演劇『復讐の神』が衝撃的内容から逮捕され有罪判決を受けた実際の事件を描いた作品で、トニー賞では最優秀演劇演出賞と最優秀演劇照明デザイン賞を受賞しています。
「『インディセント』は上質な、演劇寄りの音楽劇。役柄の心情を吐露する際に歌うミュージカルとは異なり、スパイス的に音楽を使ってくる音楽劇だと思います。物語としてはユダヤ人迫害や同性愛といった重いテーマを扱っており、当時タブーとされた作品を上演し、実際に出演者やプロデューサーが逮捕された事件を描いています。色々と考えさせられる作品ですが、灰になっている登場人物たちが動き出していくという、『エリザベート』で墓場から死者が蘇っていくシーンにも通ずるような冒頭のシーンが印象的でした。そういったファンタジックな要素が作品を観やすくしてくれますし、台詞にはふんだんにジョークが入れられていて、たくさん笑いどころがあります。重いテーマでもエンターテイメントとして成立させている上質さを感じました。ミュージカルがあまり得意ではない人でも観られる作品だと思いますし、重い話が苦手な人にとっても、音楽や演出の手法によって凄く観やすくなっていると思います」

−11月28日(金)から公開されるのは、日本でも上演されたことのあるミュージカル『タイタニック』です。
「『タイタニック』はやはりモーリー・イェストン氏の優しい音楽がとても印象的です。タイタニック号に対して期待や希望、絶対に沈まないという確固たる自信を持った人々が描かれており、それが深ければ深いほど、その後やってくる悲劇に胸を突かれます。冒頭と最後に同じ歌詞・音楽が出てきて、聞こえ方が全く変わっていくというのが印象的でした。
タイタニック号の悲劇というのは我々もよく知っている中で、2025年の今になっても機械を制御できないことで起こる事故というは無くなっていません。人間の無力さや儚さというのを痛感しますし、同時に、人間が自分の命をかけてでも誰かを守ろうとする姿にもグッときました。結婚したばかりの夫婦や、これから一緒に楽しい日々を過ごすはずだった恋人たちもたくさん乗っていたと思いますが、2人とも助かったという人はかなり少ないと思います。一見華やかな作品に見えますが、コメディ要素も意外に少なく、シリアスに人間ドラマを描いている作品だと思います」

本場の笑いの「空気」を映画館で感じて

−演出家として刺激を受けた作品は何でしたか?
「『インディセント』ですね。目から鱗と言いますか、自分がやったことのない、想像したこのない演出が多くあり、考えさせられたり、凄いなとシンプルに感銘を受けたりしました。もしかしたら好みが分かれる演出でもあると思うのですが、そういう意味でも興味深かったです」

−役者としてやってみたい役はありますか。
「『エニシング・ゴーズ』はハッピーな作品ですし、タップも少し齧ったことがあるので出演してみたいですね。ギャングのスネーク・アイズ役や、もう少し歳を重ねたらムーンフェイス役もやってみたいです。僕が出演する作品は割と悲劇が多いので(笑)、来年は久しぶりに『PRETTY WOMAN The Musical』という楽しくハッピーな作品がありますが、やっぱり楽しい作品は良いですよね。演じる側も楽しいです」

−「松竹ブロードウェイシネマ」は観客の笑い声が聞こえ、現地の空気が味わえるというのも魅力ですよね。
「魅力であり、とても大事なことだと思います。というのは、僕らがこれを和訳したものを上演しても、笑いが同じように起こるとは限らないからです。母国語のまま上演され、それを観て笑っている人たちがいるという、作品として完結されている様子を観ると、ジョークってこう作用しているんだなということが掴めるので、ある意味では今後日本で上演されて観る時にもより面白く観られると思います。日本で僕らが演じていてもジョークをどう伝えるかというのは非常に難しいポイントですし、観客の笑い声が入ることでどこが面白いか、作者がどういう意図で作ったのかが分かるというのは松竹ブロードウェイシネマならではの素晴らしいところだと思います」

−そういう観点では、英語で観る作品と、日本語で翻訳された状態で観る作品では印象が変わりますか?
「やはり日本語ではどうしても意味が薄まってしまったり、意味が変わってしまったりということはあると思います。現在、僕が『PRETTY WOMAN The Musical』で翻訳・訳詞をやらせていただいてより強く思うところですけれど、語尾やちょっとしたニュアンスでキャラクターとしての印象が大きく変わってくる、繊細な作業をしなければいけません。『インディセント』ではイディッシュ語について描かれていて、その演出も面白いなと思いましたが、やはり英語の状態で観るともちろん全ての言葉が分かるわけではないし、勉強しないといけない部分は多々ありますが、最初に作られた核のエネルギーがそのままダイレクトに来るので、作品の魅力が出ると思います」

−コメディはより難しいですよね。
「そう思います。哲学的な話や人間ドラマであれば、日本語の表現の幅が活かせると思うんです。雨を表すのに何十もの表現があるなど、日本語が凄く強みになる作品もあると思います。一方でコメディは英語を日本語にすると意味を成さなくなってしまうものが多く、非常に難しいです。さらに訳詞となると音楽として聴いていて耳ざわりの良い流れを切りたくないですし、音にはめようとすると情報量が3分の1くらいになってしまう。その中でどうやって原曲が持っている魅力を日本語に落とし込むかというのは大変な作業です」

作品の核・音楽性を守りたい。「意訳」という挑戦

−城田さんはまさに今そういった難しい作業を取り組まれているわけですね。
「僕はそういったことを踏まえ、意訳というアプローチを試みています。言葉数、音符を極力増やさずに、そしてなるべく語尾の母語を原曲と合わせるということにこだわり、音楽性を守ることを心がけました。意訳での翻訳・訳詞が実現できたのは、幸いなことに今回の『PRETTY WOMAN The Musical』クリエイティブチームと過去に『キンキーブーツ』でご一緒しており、直接コミュニケーションを取り、信頼を築いてきたから。今回僕が翻訳・訳詞をするということに対しても快く承諾してくれましたし、翻訳したものを英語にもう一度翻訳して送るという作業があるのですが、ほとんど修正もなく、演出のジェリー・ミッチェル氏からは個人的にも“ファンタスティック!本当に素晴らしい仕事をどうもありがとう”と連絡をもらいました。気に入ってもらえて安心しましたし、これを日本人キャストが歌って喋る姿を見るのが楽しみです」

−作品を観る時もクリエイター視点で観ることが多いですか?
「ありがたいことに演出を何度かさせていただいていますし、ミュージカルに限らずショーなども含めてゼロから作ることや、より素敵にすることに携わらせていただくことが多いので、どうしてもそういった目線で観ることは多くなりました。どうやっているんだろうとか、このアレンジ良いなとか、ここの転換がもっとこうだったら良いのになとか。時に演出家として、時にプロデューサーとして、時に翻訳家として、観ている瞬間があると思います」

−俳優として刺激を受けるのはどんな瞬間ですか。
「圧巻のダンスシーンを観ると、これくらい踊れたらかっこいいなと思いますし、圧巻のお芝居のシーンを観ると、こんなに胸を打つ芝居をしたいなと思いますね。感情が爆発しているわけじゃないんだけれど、心の中がぐちゃぐちゃになっているような。耐えている芝居というのは個人的に凄く惹かれるものがあるので、そこは今回の3作品を観ていて感銘を受けましたし、とても勉強になりました」

撮影:晴知花、ヘアメイク:Emiy、スタイリスト:黒田領、衣装:コート¥122,222/BODYSONG.(TEENY RANCH)、その他スタイリスト私物

−実際にブロードウェイに行って刺激を受けた経験もありますか。
「もちろんです。20歳で初めてブロードウェイに行って、5日間の滞在で7本のブロードウェイ作品を観劇しました。それ以降もお仕事やプライベートでニューヨークに行かせていただく機会がありますが、一度もミュージカルを観ていない時はないですし、日数分以上は観ていると思います。
その中でも『ビートルジュース』を観劇した時は1幕が終わった瞬間に当時所属していた会社に連絡をして、日本でやりたいから権利を取って欲しいと言ったほど衝撃的でした。タッチの差で既に日本上演が決まってしまっていたのですが、日本での上演ももちろん観ましたし、主演のジェシーさんも本当にビートルジュースそのもので素晴らしかったです。ブロードウェイで観た憧れの作品なので、いつか僕も演じてみたいですね。ビートルジュースと同じ俳優が演じることもある『スクール・オブ・ロック』も大好きで、デューイ・フィン役もいつか演じてみたいです。ブロードウェイでの観劇はいつも刺激的な時間です」

「松竹ブロードウェイシネマ 2025 秋」は『エニシング・ゴーズ』が10月31日(金)より、『インディセント』が11月14日(金)より、 『タイタニック』が11月28日(金)より全国順次公開(1週間限定、東劇のみ2週間)。公式HPはこちら

Yurika

3作品の魅力について様々な視点から熱く語ってくださった城田さん。お忙しい中でも1作品1作品と深く向き合う姿勢を感じ、プロフェッショナルぶりに圧倒されました。