演劇大国イギリスの良質な舞台が映画館で楽しめる「ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)」の、2025年・2026年公開作が決定しました。2025年12月26日(金)から上映開始される『インター・エイリア』を皮切りに、シェイクスピア、バーナード・ショーなどの古典的作品から、現代劇・対話劇まで幅広いジャンルの名作品が揃っています。各作品の紹介と、見どころやテーマについて解説します。
『インター・エイリア』

日本の上映開始日:2025年12月26日(金)~
出演:ロザムンド・パイク、ジェイミー・グローヴァー、ジャスパー・タルボット
演出:ジャスティン・マーティン
脚本:スーザン・「スージー」・ミラー
『インター・エイリア』は、オーストラリアの劇作家スーザン・「スージー」・ミラーによるワーキングマザーの奮闘と葛藤の物語です。裁判所の著名な判事として活躍するジェシカ・パークスは、子を育てる母親でもあります。仕事と育児の両立を、毎日綱渡り状態でこなすジェシカ。しかし、とある事件によって、彼女の人生のバランスが崩れてしまって……。

主人公ジェシカを演じるのは、2014年の映画『ゴーン・ガール』にて主演を務め、アカデミー主演女優賞にノミネートされたロザムンド・パイクさんです。パイクさんはナショナル・ユース・シアターで舞台経験を積んだものの、長きにわたり映画界で活躍しており、本作が15年ぶりの舞台復帰となります。
現地各プレスのレビューでは「目を離せない、生命力に満ちた息をのむような演技を見せた」(Evening Standard)、「圧倒的な存在感と 圧倒的な緊張感と迫力で突き進む」(The i Paper)といった高評価の意見が目立ちました。

慌ただしさと危うさ、そして幸福を抱えながら育児とキャリアを両立する日本の女性たち。舞台の上のジェシカは、彼女らに勇気を与えてくれるかもしれません。そして、そんなジェシカの「均衡」を崩す事件とは何なのでしょうか。その答えを、ぜひ映画館で確かめていただきたいです。
『ウォレン夫人の職業』

日本での公開日:2026年1月23日(金)~
出演:イメルダ・スタウントン、ベシー・カーター、ケヴィン・ドイル、ロバート・グレニスター
演出:ドミニク・クック
脚本:バーナード・ショー
ドラマシリーズ『ザ・クラウン』で老齢期のエリザベス2世女王を、映画『ハリー・ポッター』シリーズでは、魔法省から派遣された意地悪な先生、ドローレス・アンブリッジを演じたイメルダ・スタウントンさん。
彼女は名わき役として知られ、2024年には大英帝国勲章の司令官騎士(DBE)を受勲し、デイムの称号を与えられています。(※デイム…騎士の称号を持つ女性への敬称。)
本作では、そんなイメルダさんが、実娘ベッシー・カーターさんと初めて共演し、舞台上でも母と娘を演じます。
『ウォレン夫人の職業』は『人と超人』(1902年)、『ピグマリオン』(1913年)などで知られる劇作家バーナード・ショーによる傑作です。
ヴィヴィー・ウォーレンは、自分の母親がかつて、貧困から抜け出すために売春宿を経営し、現在の豊かな暮らしを得ているということを知ってしまいます。さらに、ヴィヴィーに求婚した青年・フランクの父が、かつて母親の顧客であったことも発覚して……。
この衝撃的な戯曲が出版されたのは1898年のことでしたが、非常にセンセーショナルな主題であったために政府の検閲を受けました。そして、1902年にようやく上演されたのです。
『ウォレン夫人の職業』の根底には、女性の貧困問題と、イギリスの階級社会への批判が込められています。本作が現代のフェミニズム的視点から、またイメルダさんとベッシーさんという実の親子が演じるキャラクター作りによって、どのように表現されるのか、非常に興味深いです。
『ハムレット』

日本での開始日:2026年2月13日(金)~
出演:ヒラン・アベイセケラ ほか
演出:ロバート・ヘイスティ
脚本:ウィリアム・シェイクスピア
ナショナル・シアターの副芸術監督であるロバート・ヘイスティさんが挑むのは、シェイクスピアの代表作『ハムレット』です。ナショナル・シアターでは15年ぶりに上演される作品として注目を浴びています。
今回主演を務めるのは、スリランカ出身の俳優ヒラン・アベイセケラさんです。ヒランさんは『ライフ・オブ・パイ』の主人公・パイ役でオリヴィエ賞を受賞しました。彼の演じるハムレットは、大胆不敵で現代的にアレンジされたキャラクターとして登場します。
ナショナル・シアターでの『ハムレット』といえば、2016年に日本で初公開されたベネディクト・カンバーバッチさんが主演した同作品を思い浮かべる方も多いでしょう。
こちらの作品では、精鋭演出家のリンゼイ・ターナーさんによるダイナミックな演出と、カンバーバッチさんによる名演が大きな話題となりました。
今回の『ハムレット』では、ヒランさん独自の個性や演技力、そして演出家のロバートさんの世界がどのような化学反応を起こすのでしょうか。期待が高まります。
『フィフス・ステップ』

日本での公開日:2026年3月20日(金・祝)~
出演:ジャック・ロウデン、マーティン・フリーマン
演出:フィン・デン・ヘルトグ
脚本:デイヴィッド・アイルランド
長年、アルコール依存症者のための匿名プログラム「12ステッププログラム」に参加していたジェームズは、新人の参加者・ルカの支援者に。
断酒への道のりで、ブラックコーヒーを飲みながら絆を深めていくジェームズとルカ。
互いを深く知るうちに、共通の経験から友情を築いていきます。物語が進むうちに、ジェームズの過去には2人の信頼関係を根底から揺るがす危険な真実が隠されていることがわかってきて……。
過去にオリヴィエ賞を受賞したジャック・ロウデンさんがルカ役を、エミー賞、英国アカデミー賞などを受賞したマーティン・フリーマンさんがジェームズ役を演じる本作。
エディンバラ国際フェスティバルでの初演から高い評価を受け、ロンドンのウエストエンドへの上演が決定した話題作です。
脚本を務めたデイヴィッド・アイルランドさんは、自身のアルコール依存症によって経験した葛藤を描いたといいます。また、若者(ルカ)と年配者(ジェームズ)という異なる属性をもつ男性同士の対話も、劇としての重要なモチーフだと語られています。アルコール依存症というデリケートで、多くの人が苦しんでいるこの症状から脱却するには、どんなプロセスが必要なのでしょうか。
『フィフス・ステップ』を観劇することで、本当の意味での「解放」とは何かを考えさせられるのではないでしょうか。
ナショナル・シアター・ライブの2025年〜2026年公開作は、2025年12月26日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国の映画館で公開されます。作品情報・上映館情報については、公式ホームページや各映画館ホームページをご覧ください。


















