2018年、2022年に日本版キャストにて上演され、2026年3月から再演されるミュージカル『メリー・ポピンズ』。「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」「チム・チム・チェリー」などの名曲と共に、圧巻のダンスシーンが繰り広げられます。前回に引き続きメリーとバートを演じる笹本玲奈さん、小野田龍之介さんに本作の魅力を伺いました。

コロナ禍の公演を乗り越え、「自分らしいメリー」を目指して

−4年ぶりの再演ということで、ファンとしては待望だったのですが、お2人は再演が決まっていかがでしたか。
笹本「凄く嬉しかったです。ただ4年経っているので、体力が持つのだろうかという不安も少しありますね」

小野田「分かります。時間が経つと美しい記憶ばかりが残るので、楽しかった思い出が印象深いですし、唯一無二のエネルギーを持っている作品なので“よし、頑張ろう!”と思うのですが、同時に“いやちょっと待てよ、大変だったぞ?”と(笑)。でも僕も笹本さんもディズニーが大好きですから、やっぱり『メリー・ポピンズ』は特別な作品ですし、嬉しいです」

−2度目のメリー、バートとなりますが、前回演じるにあたって大事にされたこと、今回大事にしようと思われていることはありますか。
笹本「メリーは決め事が多く、求められることが明確で、脱線してはいけない役柄です。しかも高度なことを要求されるので、それをこなすことに一生懸命になっているうちに稽古が終わって、本番初日も記憶がないくらい必死でした。だけど公演後半になるにつれて凄く楽しくなっていって、自分らしいメリーを見つけられたかな、というところで終えることができたので、今回はその先を見つけられたら良いなと思っています。少なくともゼロからのスタートではないので、前よりは若干余裕を持って挑めるんじゃないかなと思っています」

小野田「メリーは厳格な役ですが、それ以外の役は俳優の素養というか、人間性が凄く出る作品かなと思うんです。特にバートは、メリーのそばにいるので魔法使いに勘違いされることもあるのですが、あくまでもただの労働者です。僕が常に心がけていたのは、この物語で1番普通の人でありたいということ。だからこそ色々な魔法にかかるということを大事にしていました。
僕は初演にもロバートソン・アイ役で参加していたのですが、役替わりでバートに挑むことになり、2022年の公演はコロナ禍に苦しめられたカンパニーでした。ハードなナンバーが多いのにずっとマスクを付けて踊ったり、途中で稽古が止まってしまったり、色々なことがある中で開幕に向かっていったので、僕も開幕した時の記憶は正直あまりないんです。そういうことを考えると今回はとても恵まれていて、オープンにお芝居ができるので、忘れていることもたくさんありますけれど、魂にバートが生きていると信じて、役にしがみつきすぎずに生きていけたらと思っています。バートは歳を重ねることでまた違う味もでると思うので、そこを大事にしていきたいですね」

−メリーとバートは唯一無二の関係性に見えます。お2人の視点からは、メリーとバートの関係性はどう見えていますか。
笹本「メリーは凄く厳しいので、バートに対しても一見冷たい感じがするんですけれど、その中に凄く愛情や親しみがあります。バートを子どもの頃から知っていて、長い付き合いだと思うんですよね。だからこそ、少なくともロンドンの中では一番心を通わせられる存在なんじゃないかと思います」

小野田「バートにとってメリーは一生手が届かない憧れの存在です。よく演出チームにも言われるのが、“絶対に恋人に見えたくない”ということです。恋人に見えてしまうと、一気にメリーの格が下がる。メリーがいかに特別な存在かを示すことができるのはバートしかいないと思います。だからこそ丁重に扱うし、繊細な関係性です。メリーはバートが子どもの頃に出会った年上の女性なので、会うと緊張しちゃう、ドキドキしちゃう存在だと思います。僕にとって笹本さんもそうなんですけれど。
近づきたいけれど滅相もない!みたいな(笑)。メリーと一緒にいると、そういうチャーミングな部分がバートに出ていると思いますね。バートは他のシーンでは1人でいることが多いですけれど、メリーといると自然と笑っちゃうし、ワクワクしちゃう。そのワクワクがあるから、煙突掃除になったり、絵描きになったり色々な顔を持っていて、常にメリーを追いかけているような感じがします」

一生財産として残っていく−天井から見たバートだけの景色

−ダンスナンバーもハードな作品ですが、完璧に踊った後、息を乱さずに歌われている姿も印象的でした。まさに魔法のような!
笹本「中身は人間なので大変です(笑)。ただ回数をやっていると自然と慣れてくるもので、40回くらい本番を重ねていくうちに、自分の中でリズムを作れるようになりましたね。前回は医療用のマスクを付けて稽古をしていたので、かなりしんどかったですが、高山トレーニングのように鍛えられた一面もあります。本番の方が楽に感じました」

小野田「そうそう。今回もマスクをして通し稽古した方が良いかも。確かに『メリー・ポピンズ』は魔法の世界なので、特にメリーは肩が動いたり呼吸が乱れたりしてはいけないんです。大変なのは、リプライズですね。ナンバー中は夢中になっているので良いんですけれど、「ステップ・イン・タイム」とかは終わった後にリプライズでまたスローからアップテンポになっていくので大変で…。でもそこがお客様と一緒に盛り上がっていける部分でもあるので、お客様のために、楽しい顔でやりきりたいですね」

−バートは天井で踊るというシーンもありますが、どんな景色でしたか。
小野田「フライングをする作品は色々ありますけれど、逆さになるというのはバートの特権ですから、あの景色は俳優生活においても一生財産として残っていくだろうなと思います。あそこでメリーを見る瞬間が、凄くワクワクするんですよね。お客様も逆さに見えるのが不思議で、楽しいシーンです。シアターオーブは『メリー・ポピンズ』が上演されている世界中のどの劇場よりも一番高さがあるそうで、キャメロン・マッキントッシュも一番好きな劇場だと言ってくれました。そういう劇場で『メリー・ポピンズ』に出られるのが光栄ですね」

−メリーはフライングで空に帰っていくシーンの姿が、観ていて胸がいっぱいになります。
笹本「私も胸いっぱいになるんですよ。お客様の表情が、特に2階3階はしっかりと見えるので、自分に戻って泣いちゃいそうになるくらい。それくらい凄く良い表情で観てくださって、私からはお客様の子どもの頃に戻ったような笑顔を見ることができます。私たちが普段出演している作品って、泣いているお客様が多いので(笑)」

小野田「しかも絶望的にね(笑)」

笹本「笑顔でわーっと拍手で終わる作品ってあまり私は経験がなくて、本当に客席と一体になっているなという感じがしますね」

小野田「ワクワクして泣ける作品って本当に『メリー・ポピンズ』が唯一無二だなと思いますね。僕が初演の際、舞台稽古で最初に観た時に涙したシーンは、「楽しい休日(Jolly Holiday)」で灰色の世界が一気にカラフルになっていくシーンなんです。一生忘れられない瞬間でした。『メリー・ポピンズ』ってそういうマジカルな瞬間がたくさんあるので、いつ観ても良い作品だなと思います」

−2022年の公演では閉鎖的な日常に光を灯してくれるような特別なシーンでしたよね。お2人は4年の月日を経て、作品に対する感じ方の変化はありますか。
笹本「新たに加わったキャストも多いので、そこで受け取るものが変わるだろうなとは思います。メリーは子どもたちのために来ていますけれど、最終的にはお父さんのために来ているというところが大きいです。なので、今回ジョージ役を演じるキャストの世代が変わることによる変化が大きいんじゃないかと思っています」

小野田「共演者から受け取るエネルギーがとても大きいんです。メリーとバートは家族と関わっていくことで物語が繋がっていくので、自分が何か加えたとしても、どういうリアクションが来るかによって変わってきます。そこが楽しみですね。自分がどう変えるかというよりも、どう自分が変わっていくんだろうということにワクワクしています」

−本作は名曲ばかりですが、特にお好きな楽曲や印象に残っている楽曲はありますか。
笹本「やはり「ステップ・イン・タイム」はやりながら感動しますね。メリーもバートも、煙突掃除屋のみんなも本当にハードな楽曲なんです。ずっとタップして踊り続けて、それを駆け抜けて終わった時に、お客様からほぼショーストップの状態で拍手を頂いた瞬間が今でも忘れられないですし、大好きです」

小野田「僕も同じです。「ステップ・イン・タイム」が終わった瞬間は、ちょっと泣けますよね。観ていても、群舞の力というのを感じます。その後のバートとジョージのやり取りにもグッと来ますね。『メリー・ポピンズ』の特徴の1つだなと思うのは、凄く盛り上がる楽曲の後に、心に来る芝居のやり取りがあるんです。そこがよく出来ている作品だなと思うんですけれど、興奮しているからこそ、すっと言葉が入ってくるというか。言葉1つ1つに感動しますし、そういった楽曲を歌えるのは嬉しいですね」

「親として人間らしい姿に共感」「幸せなシーンが多い分寂しくなる」

−演じていてグッとくる台詞はありますか。
笹本「意外とバートが良いことを言うんですよね。親世代としては、やっぱりお父さん(ジョージ)の苦しみや成長できない部分というのも人として共感できます。私はメリーを演じていますけれど、中身は超人間で、メリーとは真逆なので、お父さんやお母さん(ウィニフレッド)の人間らしい姿に共感しますし、だからこそメリーとバートの言葉に勇気づけられます。前回の公演は私も子育てで悩んでいた時期だったので、悩む度に何度も台本を見返して、学ぶことが多かったです。お子さんにとっては華やかで楽しい作品だと思いますが、大人にとっては凄く中身の深さにグッとくる作品だと思います」

小野田「グッとくる台詞はたくさんあるんですけれど、メリーが最後に去っていく前の台詞は寂しくてしょうがなくなります。「今夜だね」という台詞を言うと、涙が溢れそうになりますし、それまでの時間が豊かだったんだなと毎回思いますね。幸せなシーンが多い分、寂しくもなる作品です」

−お2人は作品としては前回の『メリー・ポピンズ』以来の共演となりますね。
小野田「僕が1つ楽しみにしているのは、笹本さんは僕の美容師さんだということですね。というのは、僕が前回こだわっていたのが、とにかくバートは格好つけず、ダサくいたかったんです。少し髭を生やして、髪の毛もざんばらにいたいなと思ったので、笹本さんに前髪を切ってもらって」

笹本「前髪を切ってみて良いよって言うんですよ。髪を切る用じゃなくて、普通のハサミですよ。結構ザクザクになっちゃって、“わぁやっちゃった”と思ったんだけれど、“こっちの方が良い”って言うから」

小野田「1回やりすぎちゃって笑いが止まらなくなっちゃったけどね(笑)。でもバートは美容室に行くようなお金はないだろうし、自分で切っていたと思うので。今回もどんな感じになるのか楽しみですね(笑)」

笹本「前回の公演では初演からのキャストばかりで、新たな役に入るのが私たちだけだったんです。おまけにコロナ禍だったためリモートの稽古で、みんなが完璧に振りが入っている中で、映像でゼロから学ぶという状況だったので、本当にいてくれて良かったですし、絆はさらに深まりました」

小野田「オーディションも含めて一緒にやらせてもらっていたので、2人でずっと一緒にいましたね。自主練したこともありますし、とにかくお互い頼ってやっていかないとやりようがなかったので。それまでの関係性もあったので、一緒にやるのが笹本さんで良かったなと思います」

笹本「本当にありがとうって思ったよね」

小野田「心の拠り所でした。今回はメリーとバートが3人体制になって色々な組み合わせが生まれ、それぞれと向き合う中でお芝居が構築されていくと思いますが、ゼロベースで一緒にやってきた2人なので、特別なパートナーだと思います」

撮影:山本春花、笹本玲奈ヘアメイク:真知子(エムドルフィン)、小野田龍之介ヘアメイク:池田ユリ(éclat)、小野田龍之介スタイリング:津野真吾(impiger)

−最後にメッセージをお願いします。
笹本「150%楽しいと思っていただける作品だと思います。自信を持ってお届けできるよう、私たちも稽古を重ねなければいけませんが、絶対に損をさせないという気持ちで挑みたいと思います」

小野田「高揚感を持てて、涙する。それほど美しくパワーがあり、ワクワクさせられる唯一無二の作品だと思います。メリーの魔法の瞬間を、1人でも多くの皆さんに感じていただきたいです。ぜひ楽しみに、劇場に足をお運びください」

ミュージカル『メリー・ポピンズ』は2026年3月28日(土)から5月9日(土)まで東急シアターオーブ、5月21日(木)から6月6日(土)まで梅田芸術劇場メインホールにて上演。公式HPはこちら

Yurika

個人的にコロナ禍に生きる希望をもらった大切な作品で、再演が泣けるほど嬉しくて…。お2人のお話を聞いて胸がいっぱいになりました。より多くの人に本作が届いてほしい!と願っています。