2025年11月に開幕する『デスノート THE MUSICAL』。2015年の日本初演以来、日本での上演はもちろん、韓国でのロングラン公演、ロンドンでのコンサートバージョンなど世界中で注目を浴びています。10周年の今年、新たに夜神月(ライト)を演じる加藤清史郎さんにお話を伺いました。

「もっと楽しく歌えるのに」ワイルドホーンの音楽と格闘の日々

−『デスノート THE MUSICAL』への出演が決まった時の心境をお聞かせください。
「嬉しさより先に驚きがありました。2015年の初演を日生劇場で拝見していましたし、学生時代にはドラマや映画もやられていて、日常会話でもデスノートの登場人物やキーワードが出てくる世代です。そういった原作のある作品に参加するということはなかなかないですし、初演に観た時、もし僕がやるとしたらLなのかなと思っていたので、そういった驚きもありました。“月(ライト)になるんだ、僕もなれるのかな”という気持ちが先に来ました」

−月(ライト)とご自身はかけ離れているという感覚だったのでしょうか。
「自分の中では正統派イケメンがやる役というイメージもありましたし、自分がやるイメージがなかったですね。今回出演が決まって改めて原作漫画やアニメを見返していると…本当に共感のできない役です。最初は理解できるのですが、どんどん酷い方向に行ってしまうからです。自分の家族を犠牲にしてまでやっている姿を見ると、“お前は何がしたかったんだ”と疑問があり、自分の月がどうなっていくのか、本稽古前の現段階では正直見えていません。演出の栗山さんともお話ししながら、自分の持っている何かを掛け合わせて、どんな月が生まれるのか楽しみです」

−フランク・ワイルドホーンさんが手がける音楽についてはいかがですか?
「『レ・ミゼラブル』でもご一緒した音楽監督の塩田明弘さんとお話ししている中でも感じるのですが、聞いている分にはキャッチーなメロディーやロックで楽しい楽曲、うわっと圧倒される楽曲が多いけれど、やればやるほど緻密さを感じます。曲は転調しないのに歌うメロディーだけ転調したり、グルーヴ感を掴まないと躍動的に聞こえなかったり。譜面を見てリズムを取ると、“なんだこのリズム”と最初は歌いにくいんですけれど、バックビートを感じながら歌えるようになるとどんどんワイルドホーンの音楽に乗せられていく感じがあって楽しいです。
でも楽しく歌いすぎてしまうと、言葉が残らなくなってしまう。夜神月は核心をついた言葉や、正義や命について歌う歌詞が多いので、しっかりとその言葉は残していきたい。栗山さんはそこを大事にされると伺ったので、ワイルドホーンと栗山さんの掛け合わせの難しさを感じながらも、それが楽しさにも繋がっています。
ワイルドホーンの音楽に上手く乗れていない、ノリが失われた瞬間はすごく悔しいんです。もっと楽しく歌えるのにって。そういったことを日々繰り返しながら、研究しているところです」

ふとした時に「死神リューク」の冷徹さを感じる

−夜神月の父・総一郎を演じるのは、加藤さんが幼少期から共演されている今井清隆さんですね。
「2011年の『レ・ミゼラブル』、2012年の『エリザベート』でご一緒し、兄弟もお世話になっています。お会いするたびに“大きくなったなー!”と言って頂いているのですが(笑)、稽古場でも天然な“キーヨ”を見せてくださって、今井さんのおかげで稽古場は明るいですね。
本作では親子として対峙するシーンと、警視庁のトップと「キラ」として対峙するシーンがあり、キラとして立ち振る舞おうとした時、刑事の勘が働いてキッと睨まれて、“おっと”とヒヤリとする瞬間があります。ものすごく“夜神総一郎”としての存在感を感じますね。夜神総一郎のソロ楽曲もあるのですが、その楽曲が凄くかっこよくて、今井さんが歌うとこんな感じなんだ、というのを感じて楽しいです」

−そして死神リュークを演じるのは、初演で月を演じた浦井健治さんです。
「稽古初日、レムとリュークが歌う前の台詞を言われた時点で、既に“この人はもうリュークだ”と感じました。浦井さんからは作品への愛というのを常に感じますし、リュークとして戻ってくることに喜びを感じていらっしゃるんだろうなと感じます。帝劇のコンサートでお会いした時も、“楽しみだね、楽しみだね”と話しかけてくださって。本当に楽しみにしている様子が伝わってきて、稽古でもすごく楽しんでいらっしゃるのを感じます。でもふとした時に死神の冷徹さと言いますか、人間には干渉しない、ただ面白がっているだけという瞬間が見えるので、月としては凄く怖さもあります。一緒に退屈しのぎをしている仲だけれど、どこか命を握られている感覚というか。それが楽しいです。月としての具体的なアドバイスとかはないですけれど、見守ってくださっている感じもあって心強いです」

“1回、死神の視点で自分たちのことを見てみたら?”

−本作は韓国やロンドンでも上演され、11月には台湾でコンサートも行われます。世界中で愛される理由はどこにあると思われますか。
「まず『デスノート』という作品そのものが持つ、あり得そうであり得ない話で、でもきっと誰もがどこかに潜んでいる気持ちを描いているところ、そして月とLの巧妙なトリック戦の面白さがあると思います。ミュージカルで言えば、月とLの各々の信念とある種幼稚さもある心のぶつかり合いと、ワイルドホーンの音楽との親和性が高く、観ているとどんどん巻き込まれていくような感覚になれます。また命のあっけなさというのも感じる作品です。どんなに人間が足掻いても結局は死神の手の中にいて、死ぬ時は死ぬ。じゃああなたはどう生きますか、と問われているような感覚があり、“生きる”ということは国籍を問わず、人類共通のテーマだと思います。観劇が終わった後に持って帰れる要素が提示されている作品というのも素敵だなと思います」

−初演から10年が経つ作品ですが、SNSなどで簡単に“裁けて”しまう現代社会にも重なる部分がありますよね。
「そうですね。直接的に殺すことはなくとも、誰もが発信・受信をできるプラットフォームを持つこの社会の中で、誰かが誰かを裁くというのは実は多いと思います。そこに対して良くないと思っている人もいれば、月に対しての警察のように、開示請求などで戦う人もいます。でも暴露系のアカウントを支持する人もいるし、好きではないけれど流れてきたらつい見てしまうという人もたくさんいるわけですよね。
そういった部分は本作にも通じるところで、栗山さんの演出では、人が死んだニュースに食いつくけれど、時間が経つとすぐに興味を失うという人たちというのも描かれています。“1回、死神の視点で自分たちのことを見てみたら?”と言われているような、そんなメッセージもあるような気がしているんです。だからこそ、リュークが最後に喋って終わるのかなと思います。
演劇の良さは観る人、観る時代によって捉え方が変わってくることだと思います。2015年、2017年、2020年にこの作品を観た方も、今では全く状況が違いますし、ご自身の置かれている環境の変化によっても見え方が変わると思います。
また今回は月が今までに比べて若い年齢なので、24歳の僕が演じることで、変わってくることもあると思います。今だからこそ、お届けるものがあると信じて、夜神月として生きていけたら良いなと思っています」

撮影:蓮見徹

『デスノート THE MUSICAL』は2025年11月24日(月休)から12月14日(日)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)にて上演。12月20日(土)から23日(火)にSkyシアターMBS、2026年1月10日(土)から12日(月祝)に愛知県芸術劇場 大ホール、1月17日(土)から18日(日)に福岡市民ホール 大ホール、1月24日(土)から25日(日)に岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場にて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

取材は少し前(本稽古前、歌稽古の段階)でしたが、撮影中はすでに夜神月の雰囲気を感じさせていただきました。今観るからこそ感じるメッセージを、劇場で受け取りたいと思います。