演劇やミュージカルの関係者から「大入袋」という言葉を聞いたことはありますか?明治時代から始まったとされるこの慣習は、舞台芸術関係者にとって大切な「縁起物」のひとつです。本記事では、舞台芸術界になくてはならない慣習として、大入袋の果たす役割やその歴史などを解説していきます。
「大入袋」とは?祝儀を兼ねた縁起物
日本では、歌舞伎や演劇、寄席、大相撲などの興行で、多くの観客を動員した状態を「大入り」といいます。この大入りのお祝いに、「大入袋」を配る慣習があるのです。
大入袋は、関係者への慰労と祝儀を兼ねた縁起物で、5円・50円・500円など、少額の金銭が入れられるのが一般的です。「ご縁(5円)」があるように、と縁起を担いでいるからだと言われています。
大入袋の形式はたいてい紅白のはがき大の袋で、袋には「大入」などの文字が印刷されています。中に入ったお金は使って、袋の方は楽屋に飾っておくというのが基本です。
舞台関係者にとって、大入袋は大きなモチベーションとなる縁起物と言えるでしょう。
「大入袋」の歴史は?明治座と関わりがあった?
東京中央区にある、老舗劇場「明治座」。2023年には生誕150周年を迎えたこの歴史ある劇場は、実は「大入袋」の誕生と密接な関わりを持っています。
初代・市川左團次は、それまでにたびたび焼失していた明治座(それまでは違った名前の劇場だった)を再建するため、洋風の劇場を新築しました。その際、切符売り場の設立やチケットの電話予約の開始など、数々の劇場改革を行ったのです。
劇場のシステムが革新的に変化していく中で、1896(明治29)年には当時の市川團十郎が明治座に出演し、25日間大入り満員の快挙を達成しました。それを記念し、團十郎はそば札を大入袋に入れて配りました。これが、今日の大入袋の始まりとなったと言われています。
一般企業にも「大入袋」がある?
実は、舞台芸術界とは関わりのない一般企業においても、大入袋が支給されることがあります。たとえば、従業員が目標を達成した場合や、想定以上の売り上げを記録できた際に「大入り袋」が支給されるのです。
一般的には、ボーナス(賞与)のように高額ではなく少額であり、対象者には均等に支給されるといった特徴があります。舞台芸術の世界と同じように、一般企業においても、大入袋を「縁起物」とする考え方が多いようです。
日本には、古くから物事の吉凶を意識する文化や慣習が多くあります。その中でも、「良いきっかけ」を掴むものとして、さまざまな縁起物が重宝されてきました。一般企業にも大入袋の慣習があるのは、このような日本人の思想や価値観が関係しているのかもしれません。
現役時代、楽屋に大入袋が飾ってあるととても誇らしい気持ちになりました! 素晴らしい公演を生み出すためには、関係者のモチベーションアップはとても大切ですよね。「大入袋」は、その役割を果たしてくれる大切な慣習だと思います。


















