2001年の日本初演以来、日本でも長く愛され続けているミュージカル『ジキル&ハイド』。鹿賀丈史さん、石丸幹二さんが演じてきたヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド役を受け継ぐのは、2023年公演から本役を務める柿澤勇人さんと、2026年公演から新たに本役に挑む佐藤隆紀さん(LE VELVETS)。ミュージカルでも屈指の難役であり大役に挑むお2人に、お話を伺いました。
「時が来た」「対決」名曲が生み出す力

−まずは2026年公演への出演が決まった際の心境をお聞かせください。
柿澤「あぁ、また大変な日々が始まる…と(笑)。挑戦しがいのある、終わりのないようなテーマであり役柄なので、ちゃんとトレーニングをして挑まないといけません」
佐藤「僕はミュージカルに出るようになって10年経つんですけれども、いつかやってみたいと思っていた役なので、出演が決まった時は本当に嬉しかったです。二面性をいかにして演じられるか、稽古期間中に精一杯突き詰めていきたいと思います」
−本作の名曲「時が来た」は佐藤さんもコンサートやイベントで何度も歌われてきたそうですね。出演が決まって改めて本楽曲と向き合ってみて、変化はありますか。
佐藤「やりたいぞ!というアピールの意味でも歌っていたので、念願が叶って嬉しいです。まだ(取材時は)稽古が始まっていないので変化はないんですけれども、やはり演じていった上で歌う時には、明るいだけではない、奥にある決意や不安を持って歌うことになると思うので、それをこれから稽古場で作っていきたいです」
−柿澤さんは前回の公演で「時が来た」を歌った時、いかがでしたか。
柿澤「やはり演劇ファンの方々は皆さん知っている名曲なので、歓声を送ってくださるんですよね。正直にお話しすると、僕にとってはプレッシャーで、苦手なんです(笑)。
芝居的な観点だと、“こんなことしている場合じゃない!早く実験したい!”と思って、すぐに次の台詞にいきたいんです。
指揮の塩田(明弘)さんにも“気持ちは分かるけれど、お客さんは拍手したいからもう少しだけ耐えて”と言われましたね」
佐藤「面白い!根っからの役者さんですね。僕は気持ち良いと思っちゃう(笑)」
柿澤「そういった部分でも僕らは全然違いますね。僕はいつまで経っても慣れなくて、名曲だと思えば思うほど、逃げたくなってしまいます。作中、他にも大変な楽曲はたくさんあるので、「時が来た」だけ特別上手くやろうと思うこともないんです」

−後半にはジキルとハイドを次々に演じ分けていく大ナンバー「対決」もあります。
柿澤「あの楽曲こそ、スッとは出来ないですよね。劇の流れがあって、極限まで追い込まれた状況で歌える曲ですし、劇中以外でできるような楽曲ではないと思っています」
佐藤「コンサートだったら、30秒待ってくださいって言いたくなりますね(笑)」
柿澤「願わくば、前回より技術的なことを学んで、余裕を持って歌いたいです。そういったところを(佐藤さんから)盗みたいなと思っています」
怪人ではない、リアルな人間性を大切に
−お2人で刺激し合いながら役が出来上がっていく部分もありそうですね。
佐藤「僕はめちゃくちゃあると思います。柿澤さんはすごく熱いお芝居をされる方だと多方から噂を聞くので、見て色々なことを学びたいですし、どういう気持ちでやっているのかとか、色々とお話を聞きたいです。前回『ジキル&ハイド』で柿澤さんが演じられているのを観た時も本当に素晴らしかったです。僕は盗むというより、教えてもらいたいですね(笑)」
柿澤「そんなものは全然ないですよ…!僕も刺激を受けることや、新しい発見がきっとあると思います。石丸幹二さんとご一緒した前回公演もそうでした。絶対にタイプが違うので、こうしたい、ああしたいというものが変わってくると思いますし、全然違って良いと思います。石丸さんからも“こうだよ”と言われることはなかったです。疲弊した状態の中でどうこの作品を乗り越えていくかは話し合ったりしましたね(笑)」

−ジキルとハイドのキャラクター性をどのように捉え、役作りを進めていこうと思われていますか。
佐藤「僕は優しいイメージに思われがちなので、全く違うキャラクターを演じる醍醐味を感じます。ジキルは猪突猛進な危険さや、コミュニケーションをうまく取れない不器用さもあって、ハイドになると欲望のままに動いていて。でもハイドは僕の中では怪人というより、人間が持っているダークな部分が色濃く出てしまうという印象があるので、リアルに演じたいなと今は思っています。演じ分け出来るのが楽しみです」
柿澤「二面性については色々な解釈があると思うんですけれど、僕は1人の人間の多面性だと考えていて、意外にシンプルだと思っています。社会で人と関わっていると抑えている部分というのは、誰しもがあると思うんです。
分かりやすくいうならば善と悪というのは皆が絶対にどちらも持っていて、この役では悪の部分を出せる。悪役やヒール、ヴィランといった役柄を演じられるのは我々役者の醍醐味だと思います。実は根底はすごくシンプルで、薬を自分に投与した時に悪が大きくなってしまった哀れな青年の話かなと思っています」
−前回の公演を経て、今回はこうしてみよう、と思っていることはありますか。
柿澤「前回やっていた方法やアプローチは間違っていなかったと思うので、新たにやろうと思っていることはあまりありません。ただ、挑戦しなきゃいけないことはいっぱいあって、クリアしなきゃいけない課題は日々出てくるので、終わりがないです。ミュージカルは世界中で上演されていますし、今や世界中の俳優のパフォーマンスを誰もが簡単に見ることができるので、それを見ると落ち込むこともあります。“俺にはこれは出来ないな。でも勝ちたいな”と思うんです。ミュージカルって果てしないです。そこはまた新たに再トライ、再チャレンジかなと思います」

善と悪とは。時代を超えて描き出すテーマ
−山田和也さんの演出は前回いかがでしたか。
柿澤「僕が思ったことや、やりたいことに対して、すごく寛容に “じゃあやってみましょう”と言ってくださいました。僕は分からないことがあるとその日、その場で解決したくなってすぐに話をしに行ってしまうので、それを柔軟に受け止めてくださって。やってみた上で、“それ以上行くとお客さんが付いて来られなくなるからやめましょうか”と調整してくださいました」
−佐藤さんが山田さんの演出を受けられるのは、作品としては本作が初めてですね。
佐藤「そうですね。帝劇のコンサートで初めてご一緒して、本当に穏やかな優しい方という印象ですね。色々とアドバイスをいただきながら、役を作っていきたいなと思います」
−本作には人間の普遍的なテーマも、今の時代だからこそ響くメッセージも内包されていると思います。
佐藤「人間というのは、善と悪があって面白い人間なのだと思います。どちらかに走りすぎず、それが人間なのだと、お互いの良い部分、悪い部分を共有していければ、きっとこの世の中は幸せな楽しい世界になっていくと思います。この作品を通して、偏りすぎることの恐怖や、色々なことを感じていただけると思います。僕はこれから役を創っていくことで変わっていくこともあると思うのですが、善と悪、どちらも併せ持って面白い人間なのだということを感じてもらえたら良いなと今は思っています」
柿澤「この作品で真っ先にフィーチャーされるのは善と悪を演じ分けることや、二面性を表現できること、歌がとてもハードという部分だと思います。それも絶対にそうなんですけど、前回はそういった表面的な部分を一生懸命やることだけに追い込まれていたので、今回はその先に行きたいですね。エンタメ要素も強いですけれど、善と悪って何なんだろう、と考えてもらうことができたら良いなって。
例えば悪いことをしている人がいて、その人をみんなで成敗することは善なのか、悪なのか?そういったことを考える瞬間は、現代でも多いと思います。演劇は微力ですし、世界を変えることはできないと思いますが、今の日本でやるからこそ、共感できたり、考えさせられたりすることはあると思います。
難曲を歌える、演じ分けられるのは出来て当たり前で、その先の何かあるんじゃないかというところに、挑戦していきたいと思います」

ミュージカル『ジキル&ハイド』は2026年3月15日(日)から3月29日(日)まで東京国際フォーラム ホールC、4月3日(金)から6日(月)まで梅田芸術劇場メインホール、4月11日(土)から12日(日)まで福岡市民ホール 大ホール、4月18日(土)から19日(日)まで愛知県芸術劇場 大ホール、4月25日(土)から26日(日)までやまぎん県民ホールにて上演されます。公式HPはこちら
熱くエネルギッシュな柿澤さんと、穏やかで朗らかな佐藤さん。魅力の異なるお二人が刺激し合いながら、どんな新たな『ジキル&ハイド』が生まれるのでしょうか。


















