2020年コロナ禍には近藤 芳正さんと共同企画し、東京サンシャインボーイズのメンバーと共に三谷幸喜作『12人の優しい日本人を読む会』を開催したことでも知られる演劇集団Prayers Studio(プレイヤーズ スタジオ)。彼らの最新作が、10月8日から全席最前列の囲み舞台で上演される『Things I Know To Be True』です(東京舞台芸術祭 2026 Open Call Programs参加作品)。圧倒的な臨場感で演劇体験を追求する理由とは?代表であり翻訳・演出・出演の渡部朋彦さんにお話を伺いました。

家族のすれ違いに感じたリアルと愛情

−今回上演作品として『Things I Know To Be True』を選んだ理由は何でしたか。
「Prayers Studioは人間の普遍性や真実味を重視していて、演技もできるだけリアルにやりたいというこだわりがあります。もちろん出来事が面白い作品も好きですけれど、その中に真実味が欲しい。『Things I Know To Be True』にはそれがあるなと感じました。
Prayers Studioではメンバー全員で台本を探して、みんなで読み合わせをしてから投票で上演作品を決めているんですけれども、『Things I Know To Be True』は満場一致で決まりました。なかなか珍しいことです」

−演出にあたり、作品の軸だと考えているのはどのような部分ですか。
「1つの家族を描いた作品ですが、親子関係というのはどこの家庭でも難しいものだと思います。近しい関係だからこそ、家族だからこそ傷つけあってしまうこともある。また親と子では世代や時代も違うので、そういったギャップもあります。僕も今55歳で、親世代は高度経済成長期真っ只中、終身雇用が当たり前の時代でしたが、僕が大人になってから働き方は大きく変わりました。結婚・離婚の考え方も大きく変わりましたよね。
他にも個人の自由と家族の束縛、相手のためについおせっかいをしてしまうといったことは、多くの方がリアルに感じていただけるものではないかと思います。家族のぶつかり合いは辛いし、なんで分かってくれないんだろうと悩むけれども、それでも分かって欲しいからぶつかり合うし、いざという時は家族を心配したり、思いやったり、涙が出たりする。そういうところが上手く表現できればと思います」

−家族がすれ違ったり傷つけ合ったりしても、そこには愛があることを感じさせる作品ですよね。
「愛情って相手を尊重することでもあるけれど、親となるとどうしても子どもを育てる責任があるから、ある程度干渉する癖が抜けなくなってしまうんですよね。子どももそれを分かってくれているはずという思い込みもあるし。
僕がいつも稽古を演出していて思うのが、役者って自分が良い演技をしなければいけないという使命感を持っていて、どうしても自分が演じることに関心が行きがちですが、芝居が面白くなる瞬間というのは、相手役にどう伝わるか、相手がどう動いているか、相手に興味が行った時なんです。武術でも相手に勝つためには相手に愛情を持って、相手に勝たせようとした方が上手くいくことがあるそうです。
よく無関心より憎しみの方が愛に近いと言いますが、親子の関係性も、どんなに反発しあっていてもそこに強い興味関心があるのだと感じます。“なんで分かってくれないんだ、ふざけんな”と思うこの気持ちは愛情なのかと思うと、ちょっと癒されるというか、救われた気持ちになりますよね。そんなことが描かれているのが素敵だなと思いましたし、うちの劇団のみんなとやりたいなと思いました。お客様にも、芝居を観て心と心が繋がったような、気がついたら自分もそこに入り込んでいるような体験をしてくれたら嬉しいです」

至近距離の劇場空間で実現する“覗き見”感覚

−本作が上演されるPrayers Studio神楽坂シアターは、作品ごとに舞台と客席の配置を変え、観客と俳優の距離そのものも含めて空間作りが行われます。今回の公演では全席最前列の囲み舞台で上演。どの席から観ても、作品の世界をリアルに体感する空間になります。
「レオニード・アニシモフというロシア出身の演出家に10年以上師事したことがあり、彼がずっと狭い劇場で、目の前で演劇を上演するということをやっていました。目つきや呼吸まで伝わる距離感では、やはり俳優の心が本当に動いている瞬間というのが伝わってきます。Prayers Studioではそういったお客様と共鳴する瞬間を味わいたいし、なるべく壁を無くして、物語を覗き見しているような感覚に陥ってもらいたいです。大劇場ではない分、芝居もより細かくリアルになるので、そこを好きだと言ってくださるお客様も多いです」

−2012年の設立以来、中延の劇場で上演されていましたが、2025年に神楽坂に移転となりました。
「様々なアーティストが集うビルの中にあるアトリエで活動してきたんですけれども、ビル自体が取り壊されることになり、急遽移転することになりました。神楽坂に来てまだ日が浅いですが、文化的なものに対する関心の高い街だなと感じています。新たなお客様に出会える場となっていったら嬉しいですね」

−渡部さんは、コンスタンチン・スタニスラフスキーが提唱した「人間の心の生活」を表現することを大切にされていると伺いました。
「そうですね。コンスタンチン・スタニスラフスキーはロシアの代表的な演劇人の1人で、ロシア革命などでソ連の抑圧を受けながらも、スタニスラフスキー・システムと呼ばれる俳優の教育理論を確立しました。彼はヨガなどの研究もしていたそうですけれども、役者の心が動くことで、役者と役者の間に、光の相互放射のようなバイブレーションが起こるということを語っています。僕たちも演劇を観ていたり、稽古を観ていたりするとそういう瞬間を感じますよね。同じシーン、同じ台詞を言っていても、明らかに惹き込まれる何かが生まれる時がある。そういうものを目撃すると、“繋がったな”と思うんです。ここに演劇の面白さがあると思っていますし、少しでも多くのお客様に、この瞬間を味わってもらいたいと思っています」

便利な時代だからこそ、演劇に希少性と価値がある

−近年、気軽に手元で観られるエンタメが増えている中で、演劇に対する考え方の変化はありますか。
「小さい頃は田舎にいたので、街にたまに子ども向けの劇団が来て、演劇を観にいくのが凄く好きでした。でも大人になって劇団をやるようになった時、映画やビデオで演劇より気軽に楽しめるエンタメが増えて、集客に苦しむことが多かった。演劇は嘘くさいと言われるようなこともあって、演劇のハードルの高さを感じていました。
さらにサブスクの配信サービスやYouTube、ショート動画などが増えていってどうなってしまうんだろうとも考えたのですが、ここまで来ると、生であることは非日常になるし、希少性もあって、面白がられていくんじゃないかという期待に変わってきています。世の中にどんどん便利なもの、簡単なものが増えていっているからこそ、“よく分からないけどなんだこれ?”というものが良くなっていくんじゃないかなと思います」

−ドラマでも考察ブームですし、“考えること”が欲されているようにも思います。
「Prayers Studioでは終演後に『ドラマトライアル』というPrayers Studioオリジナルのイベントを実施する回も設けていて、作品について感じたことを皆さんでシェアしたり、ご希望の方は実際に台詞を口に出してみたりする体験時間を設けています。お客様と話していると、そんな見方があったのか、それが面白かったのかと驚かされることも多いです。同じものを観ていても、人生経験の違う人が観ると見え方が全く違う。そういう複眼体験ができるのも演劇の魅力だと思います。今は核家族化し、スマホ1つあれば直接のコミュニケーションは取らずに生きていけるので、人と人とのコミュニケーションが分断されやすい時代ですが、そうなるとどうしても他人のことが怖くなっていってしまうと思います。でも演劇のように文化的なものを観て、お客様と俳優が繋がる瞬間というのを体験できると、もう少し安心して生きられたり、思いやりや優しさを持てる世界になるのかな、そうなったら良いなと。僕は怖がりで甘えん坊なので、そんなことを思っています」

撮影:晴知花

Prayers Studio『Things I Know To Be True』は10月8日(木)から10月18日(日)までPrayers Studio神楽坂シアター(新宿区築地町4 神楽坂テクノスB1)にて上演されます。公式HPはこちら

Yurika

家族という誰もが身近な物語を超至近距離で体感することで、まるで自分も作品の中の家族の一員のような感覚に陥るのではないでしょうか。