2024年8月より、東京の帝国劇場で幕を開けるミュージカル『モーツァルト!』。これまで、日本を含め世界中で何度も再演されてきた人気作品です。『モーツァルト!』がなぜここまで愛されるのか。その理由について、物語や楽曲に注目して考えてみました。

“モーツァルト”という人間を見つめたストーリー

ミュージカル『モーツァルト!』は、ミヒャエル・クンツェが脚本・歌詞を、シルヴェスター・リーヴァイが音楽・編曲を担当。この2人は大ヒットミュージカル『エリザベート』も手がけており、ゴールデンコンビとして知られています。

本作は1999年にウィーンで初演を迎え、その後、世界各地で上演されてきました。日本でも、2002年の初演から20年以上にわたって再演を重ねています。

主人公・ヴォルフガングのモデルは、有名な音楽家・モーツァルト。彼の生み出した楽曲やオペラ作品は、今なお多くの人に親しまれています。一方で、モーツァルト自身は音楽家として成功したものの、晩年は困窮したともいわれています。35歳の若さで亡くなったこともあり、波乱万丈の人生を送ったという印象が強いかもしれません。

筆者にとっても、モーツァルトはあまりに有名すぎて、遠い存在でした。けれど、そんなイメージを変えるきっかけとなったのが、『モーツァルト!』の物語だったんです。

音楽の道を志し、自由に生きようとするヴォルフガング。父親や権力者に反発したり、恋をしたり…等身大の若者らしい姿には、現代を生きる私たちにも共感できるところが多いのではないでしょうか。

また、作中では、“アマデ”という小さな子どもがいつもヴォルフガングのそばにいます。アマデは才能の化身として登場しますが、その姿は「奇跡の子」と称賛された過去のもの。ヴォルフガングにとって、アマデは才能という“光”でありながら、自分を縛る“影”でもありました。次第にヴォルフガングは己の影と向き合わざるをえなくなり、深く苦悩します。

「あのモーツァルトだって、もがきながら生きていたのかも」そう気付いたとき、モーツァルトの存在がなんだか近くに感じられました。

モーツァルトを常人には理解できないような天才ではなく、私たちと同じひとりの人間として捉えているからこそ、この作品が人々を惹きつけるのだと思います。

黄金コンビによる名曲ぞろい

キャラクターを輝かせ、観客を物語に引き込む音楽も、『モーツァルト!』の魅力です。

「僕こそ音楽」では、軽やかな旋律とともに、ヴォルフガングの心のうちが歌い上げられます。なかでも、サビのラストにある「僕こそミュージック」という歌詞は、一度聴いたら忘れられなくなるほど印象的。音楽を愛し、音楽に愛された彼にふさわしい言葉ではないでしょうか。また、「このままの僕を愛してほしい」という歌詞も、ヴォルフガングが求め続けた自由な生き方を象徴していると思います。第1幕と第2幕では、きっと歌詞の受け止め方が変わるはず。

「影を逃がれて」も、ヴォルフガングについて語るうえで外せないナンバー。過去の栄光や周囲の期待に押しつぶされそうになりながら、彼は「自分の影から自由になりたい」と願います。その悲痛な叫びが、天才ではないヴォルフガングの素顔を表しているように感じられます。

個人的には、ヴァルトシュテッテン男爵夫人の「星から降る金」もお気に入りの曲です。彼女はヴォルフガングの才能を認め、父親を説得してウィーンへ連れて行こうとします。「なりたいものになるためには、勇気を出して旅に出なければならない」「我が子を思うなら、親が手を放すことも大切」というメッセージが、胸に刺さる方も多いのでは。ほかにも聴いてほしい楽曲ばかりなので、機会があればぜひ劇場で。

2024年版のWキャストにも注目!

今回の2024年公演は、2021年以来、約3年ぶりの再演となります。主役のヴォルフガング・モーツァルトを演じるのは、古川雄大さんと京本大我さんです。

古川さんは2018年から同役を務め、ついに3シーズン目に突入。2023年には『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』で初めて帝劇での単独主演を果たし、ミュージカル界での活躍が目覚ましい役者のひとりです。これまでの経験を糧に、3度目となるヴォルフガングの人生をどう演じてくれるのか、自然と期待が高まります。

一方の京本さんは、この作品が帝劇での初主演に。とはいえ、すでに『エリザベート』『ニュージーズ』などの舞台に出演し、着実にキャリアを築かれています。古川さんと切磋琢磨しながら、歴代とはまた違う、京本さんだけのヴォルフガングを見せてくれるのではないでしょうか。

ちなみに、父・レオポルト役の市村正親さんやコロレド大司教役の山口祐一郎さんは、初演から同じ役で出演され続けているのだから驚きです。脇を固める頼もしいキャスト陣とともに、主演のお二方らしく、自由に2024年版を演じ切ってほしいですね。

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ミュージカル『モーツァルト!』は、8月19日(月)から9月29日(日)まで帝国劇場で上演。その後、10月8日(火)から27日(日)まで大阪・梅田芸術劇場メインホール、11月4日(月)から30日(土)まで福岡・博多座にて公演予定です。

なお、東京公演のチケットは、6月25日(火)から28日(金)まで先行抽選のエントリーが可能。7月13日(土)以降、一般発売が始まります。詳細については、公式HPをご確認ください。

もこ

筆者が初めて『モーツァルト!』を観劇したのは2014年。当時のヴォルフガング役は、井上芳雄さんと山崎育三郎さんのWキャストでした。あれから10年、俳優の皆さんが作品を大切に引き継いで演じてくださっていることに、改めて感慨深くなりました。