20世紀ロシアを代表する作家、ミハイル・ブルガーコフ。48年間という短い生涯をかけて数々の作品を残した彼の代表作『白衛軍』が、2024年に日本初演を迎えます。今回の記事では、作品の歴史的背景やあらすじ、気になるキャスト陣をご紹介していきます。

発表から100年を迎えるブルガーコフの代表作

ミハイル・ブルガーコフは1891年、ロシア帝国支配下のウクライナの首都、キーウに生まれました。キーウ大学で医学を学び、ロシア革命期には、反革命側である白軍の軍医としてロシア内戦に従軍。戦後には、ロシアの雑誌『ナカヌーニェ』に掲載された『悪魔物語』という作品で高い評価を受け、作家として文壇で名声をあらわします。

ただ、彼の作品には、根底に革命政府への批判が込められているとされ、たびたび出版・上演禁止に晒されました。そういった弾圧の中でも精力的に創作活動を続けていましたが、1940年、腎硬化症によって48歳という若さで亡くなります。しかしその後、1954年のソヴィエト作家同盟第二回大会で正式に名誉回復され、最後の作品『巨匠とマルガリータ』は「二十世紀最高の文学作品」と評価されるようになりました。

彼の代表作といえる『白衛軍(はくえいぐん)』は、1924年に小説として初めて発表され、2年後には本人によって戯曲『トゥルビン家の日々』としてモスクワ芸術座で上演された作品です。今回は、2010年にイギリスのナショナル・シアターで上演されたアプトン版に基づいて上演されます。作品のあらすじは次の通りです。

<あらすじ>
革命によりロシア帝政が崩壊した翌年──1918年、ウクライナの首都キーウ。革命に抗う「白衛軍」、キーウでのソヴィエト政権樹立を目指す「ボリシェヴィキ(赤軍)」、そしてウクライナ独立を宣言したウクライナ人民共和国勢力「ペトリューラ軍」の三つ巴の戦いの場となっていた。
白衛軍側のトゥルビン家には、友人の将校らが集い、時に歌ったり、酒を酌み交わしたり…この崩れゆく世界の中でも日常を保とうとしていた。しかし、白衛軍を支援していたドイツ軍によるウクライナ傀儡政権の元首ゲトマンがドイツに逃亡し、白衛軍は危機的状況に陥る。トゥルビン家の人々の運命は歴史の大きなうねりにのみ込まれていく……。

2022年以降、ロシアのウクライナ侵攻が続く最中、現実と地続きでつながっているこの作品は、私たちに何を見せ、何を問いかけるのでしょうか。

ウクライナの過去と今を捉える舞台

今回、非常にシビアな内容の『白衛軍』の演出を手掛けるのは、上村聡史さん。第22回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第17回千田是也賞(2015年)、第29回読売演劇大賞最優秀演出家賞、第56回紀伊國屋演劇賞(2021年)を受賞した、この時代を代表する演出家の1人です。新国立劇場では、『エンジェルス・イン・アメリカ』『斬られの仙太』『オレステイア』『城塞』『アルトナの幽閉者』を演出してきました。

キャスト陣は総勢19人。村井良大さん、前田亜季さん、上山竜治さん、大場泰正さん、大鷹明良さん、池岡亮介さん、石橋徹郎さん、内田健介さん、前田一世さん、小林大介さん、今國雅彦さん、山森大輔さん、西原やすあきさん、釆澤靖起さん、駒井健介さん、武田知久さん、草彅智文さん、笹原翔太さん、松尾諒さんが、難易度の高い『白衛軍』の世界に挑みます。

個人的に最も注目しているのは村井良大さん。『赤毛のアン』でデビューした後、『RENT』『デスノート THE MUSICAL』『生きる』『この世界の片隅に』といった人気舞台に多数出演しています。他にもドラマ『仮面ライダーディケイド』『教場』などでも活躍しており、今後の活動を追いかけたい俳優です。

さて、歴史のうねりの只中にあるウクライナの過去と今を、19人のキャストはどのように表現するのでしょうか。観客である私たちも、時宜を得た公演から投げかけられるものを五感で受けとめ、その気持ちに向き合ってみたいですね。

舞台『白衛軍 The White Guard』は、2024年12月3日(火)から22日(日)まで新国立劇場中劇場での上演が予定されています。また、当舞台は文化庁による文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等における子供舞台芸術鑑賞体験支援事業)に採択されており、子ども無料招待の対象公演となっています。詳細は公式サイトをご確認ください。

さよ

現在の深刻な情勢にも関わる舞台ということで、観るのを尻込みしてしまう人もいるかもしれません。私も、そういった現実をエンターテインメントの一部として鑑賞することが少し怖くもあります。でも、このタイミングだからこそ上演が実現する舞台だとも思うんです。少しでも気になっている方は、ぜひ劇場に足を運んでみてくださいね。