ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』。日本では、2016年に初演されて以降、2019年、2022年と、アップデートを加えながら上演が続いている作品です。人気の理由は様々ありますが、観る人の心を突き動かす華やかな楽曲もその1つ。そこで今回は、『キンキーブーツ』の人気楽曲や、登場楽曲の歌詞が変更されてきた歴史についてご紹介していきます。
ブーツを通じて向き合う本当の自分
『キンキーブーツ』の舞台は、イギリスの田舎町にある老舗の靴工場「プライス&サン」。その次期社長として生まれた主人公、チャーリー・プライスは、ロンドンでフィアンセと暮らすことを決めた矢先、父親の急死で工場を継ぐことになってしまいます。
工場を継いだチャーリーは、経営難によって工場が倒産寸前だと知り、途方に暮れることに。従業員のローレンから、「倒産を待つだけでなく、新しい市場を開発するべきだ」とハッパをかけられ、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラからヒントを得て、ドラァグクイーンのためのブーツ「キンキーブーツ」をつくる決断をします。チャーリーはローラを靴工場の専属デザイナーに迎え、ふたりは試作を重ねていくのでした。
そして、型破りなローラと保守的な田舎の靴工場の従業員たちに軋轢が生じる中、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出品し、工場の命運を賭けると決意しますが…。
正反対のように見えるふたりが、キンキーブーツを通じて「本当にやりたいこと」や「ありのままの他者を受け入れること」に向き合う、そんな作品になっています。
圧倒的な中毒性「LAND OF LOLA〜ローラの世界〜」
人気楽曲1つ目は「LAND OF LOLA〜ローラの世界〜」。ローラの初登場シーンで使用されています。まず、この曲をバックに、「エンジェルス」というキャストらが颯爽と舞台上を歩きます。そして、ローラの名前をコールする歌詞の中、本人が舞台に現れると、観客の熱気が一気に上がり、世界観に没入するエンジンが全開になるんです!わたしはこの曲を耳にする度、「待っていました!」とばかりに心が躍ってしまいます。
サビともいえる「And like Shazam! and Bam! Here I am, Yes Ma’am I am Lola(じゃーん!わたしが来たわ。そう、わたしはローラ)」の部分は、曲中で2回繰り返されるのですが、一度聴くと耳に残って、思わず口ずさんでしまう圧倒的な中毒性を持っています。気になる方はぜひ聴いてみてくださいね。
それに続く「Step into a dream Where glamour is extreme Welcome to my fantasy We give good epiphany(さあ夢の中へ、魅惑の場所へ、歓迎するわ、世界が広がるわよ)」という歌詞が、わたしはとてもお気に入りです。最後の”epiphany”は「ひらめき」を意味する単語なので、チャーリーがキンキーブーツをつくるきっかけにローラがなるという伏線なのだととらえると、楽曲構成のすごさにうなってしまいますね。
作品のメッセージが凝縮された「Raise You Up/Just Be」
人気楽曲2つ目は、舞台のラストを飾る特別なナンバー「Raise You Up/Just Be」。曲が始まり、ローラが登場すると、一緒に踊りだしてしまいそうなくらい観客は大きな手拍子!もはや手拍子も曲の一部なので、観劇する方はぜひこのお祭りに参加してみてほしいです!
このシーンは、ミラノの見本市におけるランウェイを描いたもの。キンキーブーツを履いたキャストが堂々と歩く姿はかっこよくて、「もっと観ていたい!」と思ってしまうほど。その後、ローラとチャーリーは、ショーに至るまでの心情を伝え合います。ふたりが歩んできた道のりを思い返すと、胸にグッとくるものがありますね…。
実は「Raise You Up/Just Be」には、歌詞が変更されたという歴史があります。それは曲の後半に登場する「Ladies, Gentleman, and those who have yet to make up their minds(レディース、ジェントルマン、そしてまだどちらか決めかねているあなた)」の部分。
LGBTQへの理解が世界的に進んできたことを踏まえ、ブロードウェイ版では、性別に捉われないジェンダーアイデンティティを示す「They/Them」が追加されたのです。ただ、日本では「They/Them」に対応できる単語がまだないことから、日本公演版では「Ladies, Gentleman, They, Them,そして本当の自分を探し求めているあなた」と台詞が変更されました。
このような背景も含めて、この曲には作品のメッセージが凝縮されているとわたしは感じます。ぜひ劇場に足を運んで、チャーリーとローラたちからのメッセージを五感で受け取ってみてくださいね。
そんな『キンキーブーツ』は、2025年春に日本版の上演が予定されています。2025年4月27日(日)から5月18日(日)まで東急シアターオーブ、5月26日(月)から6月8日(日)までオリックス劇場にて上演。公式HPはこちら
『キンキーブーツ』の楽曲は、オリジナルブロードウェイキャスト版でCDも出ています!元気を出したいときに「LAND OF LOLA〜ローラの世界〜」や「Raise You Up/Just Be」を聞いてみるのはいかがでしょうか?