『鉄腕アトム』『火の鳥』『ブラック・ジャック』などを生み出した手塚治虫さん。ストーリーマンガの第一人者として戦後のエンターテインメントをリードし続けた手塚さんは、「マンガの神様」とも称されています。さて、2025年6月、彼の隠れた名作『W3 ワンダースリー』が舞台化されることになりました。この記事では、作品のあらすじやキャスト・スタッフの魅力をたっぷりご紹介します。

虫プロダクション初のテレビオリジナル作品

原作『W3』は、1965年から1966年まで『週刊少年サンデー』に連載された手塚治虫さんのマンガです。2025年で誕生60周年を迎えます。主人公の少年・星真一と、地球の偵察に来た3人の宇宙人を通じ、人間が未来のためにできることは何かを問いかける内容になっています。

実はこの作品、当初はアニメ作品として企画されました。手塚さんの設立したアニメーション専門プロダクション「虫プロダクション」が手掛ける、初めてのテレビオリジナル作品だったのです。キャラクターごとに専属の作画担当がつくハリウッド方式を採用した、最初の日本製テレビアニメでもあります。

全52回放送されたアニメ『W3』は、放映開始時の視聴率が20%台をマークするなど、観る者を虜にしました。ちなみにアメリカでは『アメージング・スリー』というタイトルで放映され、こちらも高い評価を受けたといわれています。

未来はキミたちへ託す…

舞台『W3 ワンダースリー』のあらすじをご紹介します。

日本の田舎にある小川村に住む星真一は、マンガを描くことが好きな少年だった。

2024年、宇宙にある銀河系のすぐれた生物の集まりである銀河連盟では、地球の存続について激しい口論が繰り広げられていた。多数決は同数で決着がつかず、銀河連盟は調査員を派遣して地球の様子を探らせることにした。

W3(ワンダースリー)と呼ばれる銀河パトロールのボッコ、プッコ、ノッコの3人は、地球人に怪しまれないように、それぞれウサギ、カモ、馬の姿に変身し、小川村に潜入し調査を開始する。そこで彼らは真一と出会い、行動をともにすることになる。

一方、真一の兄である光一は、家族にも身分を隠し、秘密諜報機関フェニックスの一員として、兵器の開発拠点となっているエーグニ領のユダ島へ潜入していた。そこで待ち受けていたのはエーグル警備隊のランプ少佐だった。

真一とワンダースリーは、次第にランプの野望、群衆の混乱に巻きこまれていくーー。

戦争、温暖化、食糧危機、地震やエネルギー不足など、自然と共存するうえで多くの課題を抱えた地球。手塚さんの目を通じて、わたしたちは「豊かさ、悪、正義とは?」を考えさせられます。

人を知ろうとする気持ちには愛がある

傑作マンガの舞台化にあたり、豪華キャストとスタッフが集結しました!

まず、脚本を担うのは福田響志さん。振付、海外戯曲の翻訳・訳詞、オリジナルの脚本や作詞も手掛け、若手ながら多くの演出家から絶大な信頼を得ているマルチクリエイターです。東京2020 パラリンピック開会式の演出でも注目を集めたウォーリー木下さんが演出を、舞台音楽からアーティストへの楽曲提供まで多彩な活動で知られる和田俊輔さんが音楽を担当します。

また、主人公の星真一を井上瑞稀さんが演じます。アイドルグループ「KEY TO LIT」に在籍し、『おとななじみ』(2023年)にて映画初主演を果たしました。開幕を控え、「来てくださったお客様が、ポジティブな気持ちになれるような作品を目指して精いっぱい頑張りたい」とコメントしています。

主人公の兄・星光一役には平間壮一さん、地球の調査に来たワンダースリーとして永田崇人さん・松田るかさん・相葉裕樹さんがキャスティングされました、さらに、星兄弟の母役に彩吹真央さん、星商店の土地を買収しようとするハム・エッグ役に中村まことさん、ランプ少佐役に成河さんと、作品の世界観に深みを与える実力派俳優が揃っています。

他にも、冨永竜さん、石井雅登さん、早川一矢さん、手代木花野さん、石井千賀さん、大倉杏菜さんが舞台に彩りを添えます。人形操演として、人形劇団ひとみ座の中村孝男さん、高橋奈巳さんと松本美里さん(東京公演のみ)、人形劇団クラルテの奥洞昇(兵庫公演のみ)の参加も決定しました。

筆者の注目俳優はボッコ役の松田るかさん。2016年に『仮面ライダーエグゼイド』(EX)でヒロイン役に抜擢されて以降、演劇作品だけでなくバラエティ番組や情報番組にも出演し、マルチに活躍されています。「原作の漫画を読んだときに、『”人”を知ろうとする気持ちには”愛”がある』というメッセージを感じたので、それを皆様に少しでも伝えられたら嬉しいです」とのこと。彼女の爽やかで透き通るような声がどう活かされるのか、とても楽しみです!

手塚さんの卓越した創造力から生み出されたSF活劇。そこから溢れ出す問いを全身で受け止め、未来のためにできることへ思い巡らせてみませんか?

舞台『W3 ワンダースリー』は、2025年6月7日(土)から29日(日)まで、東京のTHEATER MILANO-Zaで上演されます。7月4日(金)から6日(日)には、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールでの地方公演も予定されています。詳しい情報は公式サイトをご確認ください。

さよ

戦争や地震といったネガティブな事象を考えるのは、誰しもつらいもの。でも、エンターテインメントを通じてなら、その時間は少しだけポジティブになるかもしれません。