フランス発の人気ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』が、4月8日より東京・明治座で開幕しました。今回はタイトルにある“1789年”に注目し、18世紀末のフランス革命に至る流れについて解説します。
『1789 -バスティーユの恋人たち-』とは
『1789 -バスティーユの恋人たち-』は、『太陽王』や『ロックオペラモーツァルト』などの話題作で知られるドーヴ・アチアとアルベール・コーエンが生み出したフレンチロックミュージカルです。2012年にフランスで世界初演を果たすと大ヒットを記録。
日本では2015年に宝塚歌劇団の月組が初演し、2016年と2018年には帝国劇場で上演されて大反響を呼びました。
物語の舞台となるのは、18世紀末のフランス。父を貴族に殺害された農夫のロナンは、故郷を飛び出してパリへ。革命派に身を投じ、デムーランやロベスピエール、ダントンら仲間とともに新しい時代を目指していました。そんな時、ロナンは宮廷の侍女であるオランプと偶然出会い、次第に惹かれ合うように。ロナンとオランプが対立する身分の壁に苦悩するなか、革命の火蓋が切られる運命の瞬間がやってきます。
フランス革命が始まるまでの時代背景
フランス革命の始まりは、パリの民衆がバスティーユ監獄を襲撃した1789年7月14日だといわれています。それから1799年にナポレオンがクーデターを起こして実権を握るまで、10年にわたって革命が続きました。
では、一体何故フランスで革命が起こったのでしょうか?事の発端は、国家の深刻な財政難にありました。
ルイ16世が即位した翌年の1775年、アメリカ独立戦争が勃発します。フランスはイギリスに対抗してアメリカを支援し、その勝利に貢献しました。しかし戦争に莫大な費用を投入したため、すでに危機的状況にあった財政状態は一層悪化。やむなく王政は財政改革を試みるものの、自らの特権を守りたい貴族から猛反発されます。
王政は1789年5月にヴェルサイユで全国三部会を開催します。全国三部会とは聖職者の第一身分、貴族の第二身分、平民の第三身分で構成される議会のこと。『1789 -バスティーユの恋人たち-』に登場するロベスピエールは第三身分の議員に選出されたことで、革命家として頭角を現していきます。
三部会では議決方法を巡って第一・第二身分と第三身分が対立。そこで、第三身分は新たに国民議会の設立を宣言しました。国王の命で会議場を封鎖されるや近くの球戯場に集まり、憲法制定まで議会を解散しないと誓ったエピソードは「球戯場の誓い」という絵でも有名です。『1789 -バスティーユの恋人たち-』でも象徴的なシーンとして描かれています。そしてついに、全ての身分が合流した憲法制定国民議会が発足するに至ります。
大きなターニングポイントとなった1789年
1789年7月、王政は第三身分を武力で弾圧しようと目論み、パリとヴェルサイユに軍隊を集結させます。
不穏な情勢に反応したのが、パリ市民です。食糧不足や物価高騰が続き、不満を抱える人々の間で、軍事制圧に抗議する動きが広がっていきました。7月12日からは民衆の蜂起が相次ぎ、一部の裕福な市民は独自に市民軍を結成。
さらに武器弾薬を求めた市民は、7月14日にパリ東端にあるバスティーユ監獄を襲撃し、陥落させます。バスティーユ監獄はルイ13世の時代から国王の令状で逮捕された者を収監する場所であり、ここが市民の手で攻略された事実は「専制の解体」を印象付けるものでした。本作ではロナンと仲間たち、オランプが歴史的な瞬間に当事者として立ち会います。
その後、国王はパリの市政改革を認めざるを得ず、地方都市でも次々と「都市民衆の革命」が起こります。
一方で、農村では「大恐怖」と呼ばれるパニック現象が全国規模で発生。前年までの不作に加え、都市から浮浪者が流入するという噂や、貴族がならず者を雇って農村を襲う陰謀論が人々の不安を煽った結果、領主に対する暴動が相次いだのです。
農村の混乱を収拾するべく1789年8月に封建制の原則廃止宣言が行われると、次いで「人間および市民の権利の宣言」が議会で採択されました。いわゆる「フランス人権宣言」では「人間は、生まれながらにして自由であり、権利において平等である」と述べられています。こうして旧来の身分制や政治体制を否定するに至ったのは「農民の革命」もひとつのきっかけでした。つまりフランス革命は、貴族・ブルジョワ・市民・農民それぞれの思惑による行動が複雑に絡み合った末、1789年に起こるべくして起きたといえるのではないでしょうか。
同じ1789年頃の日本はというと、ちょうど江戸時代後期。第11代将軍徳川家斉の治世において、幕府の財政と政治を立て直すべく、老中の松平定信が寛政の改革を断行していました。この改革は、松平定信が1793年に解任されて終わりを迎えます。フランスのように日本の国家体制が大きく転換するのは、まだ先のお話。
フランスの激動期に思いを馳せながら、革命を志すロナンと王家に仕えるオランプ、2人の愛がどうなるのかをぜひ見届けてください。
ミュージカル『1789 -バスティーユの恋人たち-』は2025年4月8日(火)から29日(火・祝)まで東京の明治座にて上演。その後、5月8日(木)~16日(金)には大阪公演が新歌舞伎座で行われます。公式HPはこちら。
【参考文献】
福井 憲彦編『フランス史』(山川出版社)
上垣 豊編著『フランスの歴史と文化』(ミネルヴァ書房)
佐々木 真『図説 フランスの歴史』(河出書房新社)

フランス国内で革命の火種となり得る要因がくすぶり続け、ついにバスティーユ襲撃につながったと考えると“1789年”の位置づけは非常に大きいものだと感じました。歴史的背景がわかると、自由と平等を求めて闘った人々の物語により強く感情移入できそうです。