アングラ演劇の礎・唐十郎さん。彼の戯曲の中でも指折りの名作と言える『少女仮面』を、この度、渡辺えりさんが新演出で彩ります。
古稀!さらにパワーアップした姿を!勢い止まらぬ渡辺えりの演劇愛
劇作家、演出家、俳優……映像はもちろん、特に演劇の世界でマルチに活躍中の渡辺えりさん。
渡辺さん率いるオフィス3◯◯(さんじゅうまる)は、演劇・ライブ・お茶会などのイベントをバラエティ豊かに企画するエンタメ集団です。そしてその前身は舞台芸術学院出身の演劇人たちによって創られた劇団。
そんなチームの一員として真摯に舞台演劇と向き合ってきた渡辺さんですが、古稀を迎えてもその熱は冷めることを知らず、現在も精力的に演劇業界を牽引していらっしゃいます。
今回渡辺さんが挑戦するのが、唐十郎さんの名作戯曲『少女仮面』。
1969年に早稲田小劇場に書き下ろされたもので、これまでにも様々な場所で上演されてきました。岸田戯曲賞も受賞した大人気作品です。
共に演劇界でもがき、苦しみ、喜び、演じ、そして世の中に数々の名作を生み落としてきた唐さんと渡辺さん。オフィス3◯◯では唐さんが2024年5月に亡くなったことを受け、“唐十郎追悼公演”としてこの作品を上演することを決定しました。アングラ演劇の世界を守ってきた唐さんを想いながら、アングラ演劇を愛する渡辺さんが渾身の新演出を披露します。
そして本作で注目したいのが渡辺さんの役どころ。演出はもちろん、主演として“春日野八千代”役も担当します。実は渡辺さんは42年前、パルコ劇場プロデュースで好評を博した『少女仮面』でも同じ春日野役を演じているのです。
当時は唐さんをはじめとする演出チームから助言を受けながら無我夢中で春日野を演じていたという渡辺さん。70歳の今年、多大な影響を受けた唐十郎さんの追悼公演とも重ねながら自己の原点を探り、子供のころから目指してきた平和への祈りと、永遠の舞台への夢のために上演を決意したのだとか。
また、小室等さん作曲の劇中歌の名曲を三味線・チェロ・バイオリンの生演奏で飾るのも見どころのひとつ。物語の舞台となる喫茶「肉体」が、新演出の本作ではライブ会場に大変貌を遂げます。
そしてさらにワクワクするポイントが。日替わりキャストとなっている “甘粕大尉”役……これがとっても豪華な顔ぶれなのです。唐十郎さんの世界を熟知した、渡辺さんの演劇仲間たち。こんなにスペシャルな方々が大集結するのも、古稀公演ならではです。
演劇界の巨星、渡辺えりさんのエネルギーが存分に注ぎ込まれた本作。観ごたえ抜群、間違いなし!ザ・スズナリの心地よく幻想的な空間で、生の演劇を体感してみてくださいね。
不思議なあらすじに実力派キャスト!期待は高まるばかり
アングラ演劇といえば、前衛的で実験的、そして過激なもの。普段あまり演劇を観ない方は特に、内容が難しいと感じるかもしれません。
唐十郎さんはこのアングラ演劇の先駆者とも言える方。神社の境内などにテントを建てて作品を上演する独自のスタイルは社会現象にもなりました。
そんな彼の傑作である『少女仮面』もまた、あらすじだけでは理解し得ない魅力があります。しかしまずは一回、読んでみてください。
東京都内と思われる地下喫茶、その名も「肉体」。
戦前から今日まで、その名を思い出す度に現れると言っていいその謎の喫茶店を経営しているのはなんと宝塚の伝説の男役スター春日野八千代だった。春日野は「嵐が丘」のヒースリック役の稽古を繰り返しながら相手役キャサリンの登場を待ちわびている。
肉体の介在しない形無き欲望、永遠の愛の対象となりえる永遠の処女を待ちわびているのだ。まるで「サンセット大通り」の映画監督のように春日野に服従しながら演出を續けるボーイ主任とその奴隷とも言っていいボーイたちと終わるともない舞台の稽古を繰り返す日々。宝塚の娘役にあこがれる自称16歳の少女と外見だけ婆さんの少女二人が現れ、地下喫茶「肉体」は再び息づき、現代に姿を現した。
春日野は自称16歳の少女緑ヶ丘貝に永遠の処女キャサリンの役を振り、未完成だった作品が完成されるかに見えた。しかし、東京大空襲で家族を失った保険の外交員の妄想や、恋に溺れ愛を乞い愛を失い精神に異常をきたした本番前の腹話術師の自問自答の濃密な時間とが重なり、春日野自身の秘密の過去があばかれ、地下鉄工事のブルトーザーが記憶の「肉体」を破壊していく。第二次世界大戦の爆撃音と近未来への発展のための解体の騒音が重なり、「肉体」と「精神」が炸裂する物語。
宝塚の華麗なるステージにあこがれて地下の「肉体」に降りた少女たちの運命は?そして春日野の運命は?腹話術師たちの未来は?ボーイたちは?狂おしい「愛」「舞台の夢」の奴隷となった登場人物たちの今は?
「面白そう!」と感じた方はもちろん、「この文章、難しい!」と思った方にもぜひ現地で観ていただきたいです。目と耳で感じてやっと理解できるような、はたまた深すぎて到底理解しきれないような、不思議な世界がそこにはあります。
そしてこの大作を創り上げるメンバーも精鋭揃い。
渡辺えりさんを筆頭に、大鶴佐助さん、土屋佑壱さん、吉田裕貴さん、福本雄樹さん、新内多賀太夫さん、宮下浩行さん、さらにトリプルキャストで黒島結菜さん、夢乃さん、鈴木楓加さん。続いて、川村毅さん、春可直子さん、小見美幸さん、山田華子さん、椎木美月さん、岩崎環さん、佐藤舞希子さんがご出演。渡辺さんが信頼する実力者が集まりました。
そして前述の日替わりキャストが、竹中直人さん、尾上松也さん、中村獅童さん、稲荷卓央さん、和田琢磨さん、安奈淳さん。これは全キャスト分観たいと思ってしまうほど豪華。スケジュール詳細はぜひ、公式サイトをご確認ください!
オフィス3◯◯特別公演『少女仮面』は、2025年6月11日(水)〜6月22日(日)まで、東京のザ・スズナリにて上演されます。皆さんも渡辺さんが創り出すアングラの世界に溺れてみてはいかがでしょうか?

公演サイトに記載の「渡辺えり、春日野役に最後の挑戦」。42年越しの挑戦だと思うととてつもなく重みを感じる文言ですね。