6月14日(土)から7月6日(日)まで、新宿 花園神社境内 特設紫テントにて上演される新宿梁山泊 第79回公演 唐十郎初期作品連続上演『愛の乞食』『アリババ』。康十郎作品を愛する安田章大さんが、初めてテント演劇に臨みます。初日を前に、ゲネプロと囲み取材が行われました。

「どれだけ世間の皆さんから賛否両論をもらえるか」

囲み取材には、演出の金守珍さんと主演の安田章大さんが登壇しました。

金さんは二度目の安田さんとのタッグに、「安田章大の凄さをミラノ座の何十倍も見せつけられて、楽しくてしょうがないです。劇団の仲間の一員として、ここ4日間テントの作業を朝から晩まで作業してくれた。立て込みから色塗りまでやってくれました。こんなスーパーアイドルいます?!」と興奮気味に明かします。

安田さんは「1日目はどうしても仕事が被っていてずらせなかったので朝から3時間くらい参加させてもらって、次の日からは朝から晩まで。金さんがインパクトの使い方を伝授してくれたので、一緒に客席を作りました。お客様は、(僕が)作った席かもと思って座っていただけたら。劇団の皆様が全員で輪になって大きな「渦」を−唐さんが好きな言葉だったと思いますが−みんなで作っているところに、入らせてもらったというありがたい環境です」とコメント。

今回は唐十郎さんの初期作品である『愛の乞食』『アリババ』の連続上演ということで、金さんは作品作りに関して「もう一度作品を読み直して「誤読」をしてこうと。安田くんのすごいところはアングラ演劇の「誤読」のススメが通じるところ。『愛の乞食』で男の肩に載っているオウムを、今まで人間がやったことはないんですけれど、今回初めて安田くんのアイデアで人間でやっているんです。唐さんが見たら「僕は考えつかなかったよ!」と絶対喜ぶと思います。安田くんとキャッチボールをしていると何をキャッチしたら良いか分からないくらいいっぱい返ってくるので面白いです」と語ります。

さらに「歌声も素晴らしいですし、唐十郎の言う「特権的肉体」が半端ないです。キレも動きも素晴らしいです。スーパーアイドル、才能の塊です。唐十郎の歌を安田くんでこれからもどんどん聴いていきたい」と絶賛。

安田さんは「どれだけ「誤読」して、どれだけ世間の皆さんから賛否両論をもらえるかということが唐十郎さんに喜んでもらうポイントだと思っています。アイドルがアングラの世界に足を突っ込むことによってどんな化学反応が起きて、色々な情報がぐるぐると回り始めて、世間が賑わってくれるのか。60年代70年代のエネルギーがたぎっている時代を令和に呼び寄せられたらと思います」と想いを語ります。

最後に金さんから「唐さんの初期の作品がこんなに面白いんだと僕も改めて実感しました。唐十郎さんの原点をもう一度探っていく、この第一歩が安田くんで最高です。安田くんの唐十郎の言葉は詩的です。ファンタジーなんですけれど、毒があって怖い。綺麗事ではない。堕胎児たちが羊水の中で海賊になっているというのが『愛の乞⾷』で、その海賊が満州まで行っちゃうと。満州は何だったのか。見えない叫び声を唐さんが聞いて書き下ろしていますので愛がこもっています」、

安田さんから「唐十郎さんの書いてくださった戯曲というのは、「特権的肉体」をしっかり使いながらどう演じていくのか。それが特に際立つ作品たちだろうなと思うので、唐十郎さんの戯曲だからこそ、新宿梁⼭泊さんのステージだからこそ発揮できる自分の肉体を使った表現の仕方、大病を患った後の表現の仕方、サードステージに入った自分の生き方を投影しながら。どれだけ唐十郎さんの戯曲の輪っかと自分が持っている人生の輪っかをリンクさせて、その色を濃く、深くできるのかを、新宿梁⼭泊の皆さんと作っていきたいと思います」と意気込み、会見が締め括られました。

『愛の乞食』『アリババ』ゲネプロリポート

本作では『アリババ』が上演されたのち、休憩を挟んで『愛の乞⾷』が上演されます。

『アリババ』で描かれるのは、ある町のアパートにひっそりと暮らす夫婦、宿六と貧子。宿六は革命を夢見ていた男で、高速道路を駆けて行った「黒い馬」を見たと、興奮気味に語ります。

そこへ赤子を背負った一人の男が訪ね、「赤い馬」を連れてくると告げます。不思議な子どもたちが曳く「赤い馬」。ファンタジックな世界観の中で、宿六と貧子の貧困や、1人の人間ではなく職業や外見で見られる世間などが痛烈に描かれます。

安田さんは囲み取材でも金さんが絶賛したように、軽やかな身のこなしと圧巻のキレで宿六を好演。純粋無垢に見えて時に無慈悲に思える姿に、キャラクターの奥行きを感じさせます。

一方、『愛の乞⾷』では生命保険会社の「平凡な」男を愛らしく演じます。男が迷い込んだ都内の公衆便所は、深夜になると朝鮮キャバレー「豆満江」(ズマンコウ)に。かつて海賊として名を馳せ、今は社会の隅でひっそりと隠れ暮らす男たちの溜まり場となっていました。

そこに「曼珠沙華」という名の少女が現れ、オウムを肩に乗せた片足の男を待っていると語ります。本作は『アリババ』よりさらにカオスに、ダイナミックに展開。

しかし確実にそこには満州への想いが描かれ、唯一無二の世界観に惹き込まれていきます。

また安田さんが舞台上で放つ圧倒的な華と存在感、優しく美しい歌声も作品を彩ります。

解釈の仕方は人の数だけ、「誤読」によって様々な受け取り方があるはず。本作が描かれた時代に想いを馳せるもよし、今の時代に重ね合わせるもよし。自由に何度でも、唐十郎の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

撮影:山本春花

新宿梁山泊 第79回公演 唐十郎初期作品連続上演『愛の乞食』『アリババ』は2025年6月14日(土)から7月6日(日)まで新宿 花園神社境内 特設紫テントにて上演。公式HPはこちら

Yurika

会見の柔らかな表情とは打って変わり、作品の中でダイナミックに生きる安田さんのパワーに圧倒されました。6月18日、25日、7月2日には劇団の若手キャストによる「若衆公演」が行われます。