7月26日(土)からシアタートラムで開幕する舞台『キャプテン・アメイジング』。イギリスの劇作家アリスター・マクドウォール氏による父と娘の物語で、いくつもの役を一人の俳優が演じ、すべてが登場人物との対話として進行する一人芝居となっています。本作に出演する田代万里生さんにお話を伺いました。
一人芝居は「予期せぬ話」。恐る恐る(笑)お受けしました

−ストレートプレイの一人芝居という、これまでとは異なるジャンルでのオファーを受けた時の率直な感想をお聞かせください。
「びっくりしました。普段ミュージカル作品への出演が多く、ストレートプレイ作品への出演はそんなに多くないですし、ストレートプレイであってもピアノが舞台上にあったり、歌うシーンがあったり、音楽が伴うものが多かった。なので、ミュージカルではなく、しかも一人芝居というのは驚きでした。
ただ役者をやっていて一人芝居のお話を頂ける役者が何人いるだろうかと思うと、これを逃したら一人芝居をやる機会はもうないかもしれないと思ったので、断る選択肢は自分の中にはありませんでした。また台本を読んだ時、娘のいる父親の役ということで、自分自身も父親になったので、今の人生のタイミングならではの取り組み方、役への投影の仕方ができるのではないかという期待もありました。ですから恐る恐る(笑)お受けしました」
−いつか一人芝居をやりたいという思いはありましたか?
「いえ、想像したことがなかったですね。二人ミュージカルは『スリル・ミー』などで再演を含めて8回経験させて頂いて、そこで(本作の演出を務める)田中麻衣子さんともご一緒したのですが、一人ミュージカルの作品はなかなかないですから、やるかもしれないと思ったこともなかったです。本当に予期せぬ話でした」
−本作の台本を読んでみていかがでしたか。
「キャラクターそれぞれに感情移入しながら読みましたが、かなりぶっ飛んだ作品だなとも思いました。プロデューサーさんも“かなり個性的な脚本の作品があると聞いてやってみようと思った”と仰っていて。というのも、台本にはト書きも少ないですし、台詞を喋る人物名が一切描かれていないので、誰が喋っている台詞なのか明示されていないんです。
まずこの台詞は誰が喋っているんだろうというのを模索するところから始まったし、尚且つそれが演出家や役者に委ねられているところもあります。さらに、演じる上では登場人物を演じ分けますが、それがお客様に必ずしも正確に届かなくても良い作品でもあると思うんです。お客様も誰が言った台詞なのか、想像力を掻き立てられながら観るというのは演劇ならではですし、実験的な作品だなと思います」
−稽古はどのように進められていますか。
「演出の田中麻衣子さんから “稽古ではなく実験です”と言われたのが印象的でした。麻衣子さんもこういう風に作りたいというビジョンを僕らに押し付ける演出ではなく、一緒にやってみる中でディスカッションして、“じゃあ万里生さんはこうしましょう”と役者それぞれに演出をつけられます。トリプルキャストそれぞれで解釈も違えば、動きが違うシーンもあるので、役者の個性を活かしながらも最終的には同じ場所に行き着くような演出をされているのかなと感じます」
−トリプルキャストの近藤公園さん、松尾諭さんとは話し合われながら進められているのでしょうか。
「基本的に稽古は別々に行っているので、稽古の前後で入れ違う時に少しお話するくらいです。他の人の稽古映像を見る時もありますけれど、やっぱりその人だからこそ成立するということも多いので、全て取り入れるということでもなかったりしますね。お互い参考にはしながら、良い影響を与え合えると良いなと思っています」
マークがキャプテン・アメイジングに込めた「勇気」

−本作では複数役をお一人で演じられていきますが、メインは父親のマークが中心で展開していきます。マークはどんなキャラクターだと捉えていますか?
「かなり特殊な人で、凄くモジモジしているし、思ったことをストレートに言うことも苦手だし、それを言葉にすることも下手な人という印象です。彼は度々スーパーヒーロー「キャプテン・アメイジング」として振る舞いますが、それもヒーローになりきれていない不器用さが見せられると良いなと思っています」
−特殊な人物を演じる難しさはありますか?
「そうですね。僕があまり今までやってきたことのない役柄ですし、シアタートラムなので生声で演じるのですが、お客様が耳を澄ませるくらいの声量や滑舌で良いというのが僕にとっては新鮮です。
ミュージカルではオーケストラの音楽を超えて台詞や歌詞を伝えなければならないので、丁寧に子音と母音を分けて発声し、言葉をしっかりお届けすることを意識しています。でも本作では、最初に稽古で“滑舌が良すぎる”と言われたんです。キャラクター的にも一語一句が聞き取れる強い言葉ではなくても良いと言われて、今までとは全く違うアプローチが必要な役だなと痛感しました」
−マークは「キャプテン・アメイジング」というスーパーヒーローに、どんな想いを込めたと思われますか。
「勇気じゃないでしょうか。立ち向かっていく勇気や、伝える勇気というのを凄く感じます。マークはそれがなかなか器用に出来ない、一方キャプテン・アメイジングは積極的なキャラクターです。娘のエミリーにも“立ち向かう勇気が大事なんだよ”と伝えるシーンがあるので、そういった想いがキャプテン・アメイジングに込められているのではないかと感じています」
−演出の田中麻衣子さんから言われて印象に残っていることはありますか。
「ミュージカル作品の現場でこれまで僕のことを見てくださっているので、“この作品では今まで見たことがないような万里生さんを表現したい”と仰っていたのが印象的でした。もちろん今までと違う僕を目指すことが一番の目標ではないですが、これまでを知ってくださっているからこそ、そう言ってくれるのが嬉しかったです」
一人芝居だからこそ感じた、一人では出来ない作品作り

−初めて一人芝居をやられてみて、役者としての変化を感じますか?
「感じます。僕はこれまで何でも自分一人で頑張ってしまうことが多かったのですが、40歳になった時に、役者としても歌手としても人間としても、一人では生きられないことを実感して、もっと色々な人の力を借りて、パワーをもらってやっていこうと思ったんです。一人芝居では舞台上で表現をするのは一人ですが、稽古場に入ってみると一人ではなくて、色々な人からアイディアをもらったり、客観的な意見をもらったり、トリプルキャストのお二人から影響を受けたりして、やっぱり色々な人と作り上げていくものだなと改めて感じました。
また、よく台詞を覚える時に相手役の台詞まで覚えた方が覚えやすいよ、自分の台詞への理解が深まるよと言われるのですが、今回はまさにそれを体現する作品なので、この作品をやり終えた後、全く別のお芝居に臨むのが凄く楽しみになりました。相手役が実際に存在した時、これまでとは違う感触になるんじゃないかと感じていて、この先の自分の変化も楽しみです」
−本作は夏休み期間の上演で、高校生以下は2,000円(トラムシート1,500円)で観劇でき、未就学児入場OKの回もあります。親子での観劇や初観劇に本作を選ぶ方もいると思いますが、どのように楽しんだら良いでしょうか。
「まず知識なく楽しめる作品というのが魅力だと思います。歴史物のように事前知識があった方が楽しめるということもなく、日常的な、誰もが心当たりのある物語になっているので、初めて演劇を観る方でも楽しんでいただきやすいと思います。テレビや映画とは違う、舞台マジックが詰まった作品なので、その舞台マジックをぜひ楽しんで頂きたいです」
−最後にメッセージをお願いします。
「この作品はとても不思議な作品で、一人芝居でなかったとしても、どういうことなんだろう?と思うシーンがいっぱい出てくるんです。そういう本作ならではの不思議さを楽しんで頂きたいと思います。
また一幕もので休憩がないので、休憩中に誰かと話すこともなく、自分一人の感受性でラストシーンまで辿り着くことになります。だから本当にお客様一人一人によって、感想も、作品の受け止め方も変わってくるだろうと思いますので、ぜひ観終わった後に誰かと感想をシェアして頂いて、“私はそれ気づかなかった”、“そんなところにそんな意味があったの”、“あれはこうだったんじゃないか”、などと色々と話して頂きたいです。マークが哲学的な語りをするので、その解釈もみんなでシェアして頂けると面白いんじゃないかなと思います」

せたがやアートファーム2025『キャプテン・アメイジング』は2025年7月26日(土) から8月3日(日)までシアタートラムにて上演。公式HPはこちら

父親のマーク、娘のエミリー、スーパーヒーロー「キャプテン・アメイジング」、など様々な役柄を田代さんがどう演じていくのか、楽しみです!