2022年に日本初演を迎え、4年目のロングラン上演となる舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。小説シリーズ最終巻「ハリー・ポッターと死の秘宝」から19年後の世界を描き、父親になったハリーと息子アルバスとの関係が描かれています。4年目キャストとして現在ロン役を務めている上山竜治さん、関町知弘さんにお話を伺いました。
自然体だからこそロンに近づける

−お二人は本作で初対面ですか?
上山「はい。でも僕が以前は吉本に所属していたので、その時にすれ違っているかもしれません。僕の方が先に吉本に入っているからか、ともさんはずっと敬語を使ってくれているんですよ。ともさんの方が年上なのに」
関町「いや、でも先輩なので。最初に敬語で入っちゃったからやめるタイミングがなくて、いまだに2人とも敬語なんですよね」
上山「テンションが上がるとタメ口になるんだけどね。タメ口で行こうとずっと話しているんですが、今は敬語とタメ口のミックスという感じです」
−ロン役が決まった時の心境をお聞かせください。
上山「顔は2枚目なんですけれど(笑)、3枚目の役というのはもっと極めていきたいなと思っていました。やっぱり演劇において笑いがあるからこそ涙が流せるというものだと思うので、笑いのあるキャラクターというのは俳優としてもっと掘り下げていきたい部分だったんです。そういう思いがあった中で、こんな偉大な作品でロン役をやらせていただけるなら、全力でやりたいという一心でした」
関町「今まで芸人だけで芝居をやっていたのですが、これを大きくしていきたいと考えた時、外部に出てお芝居を学びたいなと思っていたんです。その時にオーディションのお話を頂いたので、挑戦してみようかなと思いました。でも舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は凄い方達ばかり出ていて、自分とは全く無縁のものだと思っていたのでいまだに不思議な気持ちになります」

−出演前に、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を観劇してみていかがでしたか。
上山「初めて見るような魔法もあるし、演劇で昔から使われているアナログな手法もあって、その絶妙なバランスが凄く面白かったです。アナログな手法も、魔法の世界と合わさるとこんなにマッチするんだと。演出の仕方に惹かれました。ともさんには分からないと思うけど(笑)」
関町「急にマウント取るじゃん、本当に分からないし(笑)。僕は本当に圧倒されて、これってどうなっているんだろう?とずっと食い入るように魔法を見ていました。観劇した後にオーディションだったので、海外スタッフからどうだったか聞かれた時に、「魔法が凄すぎて、どうなっているのか、ただただ知りたくなりました」って答えたんです。そうしたらジョークで「お金を払ってくれたら教えてあげるよ」って言われて、ここだ!と思って「口座番号教えてください」って返しました。これがロン役に受かった理由だと思います」
上山「返しが凄い!って?(笑)」
関町「というのも、僕はその前の演技でボロボロだったんです。いつも掛けている眼鏡を外して演技しなきゃいけなかったんですけれど、目が悪いので眼鏡を外したら視界がぼやけて、そしたら台詞が全部飛んじゃって。だからその後の質疑応答で頑張らなきゃと思いました。ロンのキャラクターと合っていると思っていてくれたら嬉しいですね」
−ロンの役作りはどのように進めていきましたか。
上山「僕もともさんも、周囲から天然と言われることがあるので、そこはロンに近かったかもしれません」
関町「普段の自分に当てはまるところが多かったですね。初日に行われたディスカッションでも、一言言ったら「何言っているの?」という空気が流れたり、それが笑いになったりして」
上山「単純に話を聞いていなかっただけとかなんですけどね(笑)。演出家から出された宿題を2人とも忘れたこともありました(笑)」
関町「あった!(笑)」
上山「そこはロンとしてのプロ意識がありました(笑)」
関町「ロンというキャラクターに助けられることが多かったので、そこは安心しながら稽古に参加できました」
魔法習得で苦戦、舞台初日に溢れた本音

−稽古中は一緒になることも多かったのでしょうか。
上山「僕の方が3週間先に本番を迎えたのですが、第一次メンバーの稽古を見ながらともさんたち第二次メンバーが稽古を進めるという形でした。僕らが演出家から受けたノートも一緒に共有しながら進めていました」
関町「僕が先だったらもっとテンパっていたと思います。竜治さんを見て真似させていただいたこともたくさんありますし、稽古期間中も竜治さんがいなかったらもっと殻に閉じこもっていたと思います。芸人がいない現場というのは初めてだったので、本当に色々なことを教えてもらいましたし、竜治さんは仲の良いスタッフさんとかも多かったので、その中で僕を切り離さず、一緒にカンパニーに入れてくれたのが嬉しかったです」
−ロン役としてお互いに刺激を受けたことはありますか。
上山「もうぶっ潰してやろう、絶対に負けないという気持ちで(笑)」
関町「竜治さんが休みの時は、全部嘘を教えました(笑)」
上山「でも実際には、タイプが全く違いすぎるので、ライバルという感覚は全くなかったですね」
関町「それが凄く大きかったと思います。似ているタイプだったらもっと焦っていたと思うんです。ロンというキャラクターからははみ出さずに、お互い別のロンで稽古ができたというのは凄く良かったです」
上山「演劇をずっとやってきた人間からすると、ともさんのお芝居は真似したくても出来ないものがあって。笑いを取ろうとしていないのに笑いが来たり、ともさんにしか出来ない舞台の立ち方だなと感じました」
関町「僕からすると、竜治さんは立ち姿や台詞回し、動きが凄く綺麗なんです。僕だとこんなに綺麗なシーンにならないなと思いました。お客さんから見ても、シーンによって見え方が全然違うと思います。ぜひどちらも観て欲しいです」

−魔法を使えるようになるまでには修行期間があったと思いますが、いかがでしたか。
関町「そこが唯一、プレッシャーが凄かったです。僕から見たら、竜治さんは吸収が早くて優秀で」
上山「僕も不器用なんですけれど、ともさんが不器用すぎたから(笑)」
関町「あまりにも難しすぎて、演出家さんに無理ですって言いそうになりました。ずっと苦戦したので、初日は本当に緊張しました。ロンが魔法を使う見せ場のシーンが終わった後に、1人で「良かった、あぁ泣きそう、泣いちゃう」と呟いたんです。そうしたらマイクがスタッフに繋がっていて、スタッフに全部聞かれていました(笑)」
上山「なにその可愛いエピソード!(笑)」
関町「スタッフさんに、「こんなので泣いていたら1年もたないよ」って言われました(笑)」
ロンが担うラブストーリーとしての役割

−実際に本番のステージに立ってみていかがでしたか。
上山「改めて、魔法を超えた人間ドラマだなと感じました。ロンは本作の中で、唯一のラブストーリーを担っているんです。親子愛はたくさんあるけれど、唯一夫婦のラブストーリーが描かれている。ロンはキャラクターとしても、ラブストーリーというテーマとしても、癒しの存在であり、緩和になる存在だなと感じました」
関町「実際にやってみると全然違いましたね。ここでこんなにお客さんがリアクションしてくれるんだという発見があったり、そこまで笑いが起こると思っていなかったシーンで笑っていただいたり。感情移入してくれているのが伝わるので、凄く新鮮な気持ちでステージに立てています」
−多くの名シーン・名台詞がある本作の中で、特にお好きなシーンや台詞はありますか。
上山「ハリーがアルバスに向かって、自分には父親がいなかったから、見よう見まねで父親を演じるしかなかったんだと語るシーンが好きです。僕も父親として、お手本になる父親って何だろうと思いますし、ハリーも魔法使いである前に父親なんだなと思うと、葛藤する姿に共感します」
関町「本作ではタイムターナー(逆転時計)が登場するのですが、それによって生まれるシーンはグッと来ますね。いつものロンとは違う感情になるシーンがあります」

−本作はロングランということで、何度も観て新たに発見をする方もいれば、気になっていてまだ観られていないという人もいると思います。この作品をどのように楽しんでもらいたいですか。
上山「この作品が面白いのは、過去を遡りながらも、結局は「今」を取り戻すという物語であることです。色々な過去を受け入れて、今を大事にする。今に感謝して、お互いを大事にして生きていくことができると思うので、ぜひ大切な人と観に来ていただきたいです」
関町「人によって刺さるシーンが多分違うと思うんです。お子さんがいる方は、親目線で刺さるシーンがあるでしょうし、仕事で悩んでいる方には別のシーンが刺さると思います。友達や家族と観にくると、共感する場所が違うので、観終わった後に楽しく喋れると思います。親子で観にくると、「お父さんってこう思っていたんだ」という発見がある人もいると思います。ぜひ観に来てもらいたいです」
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアターでロングラン上演中。公式HPはこちら

お二人の天然さ漂うほんわかした雰囲気がロンにぴったりで、ボケたり突っ込んだりしつつ、とっても楽しい「ロン対談」となりました!共通点がありながらも、異なる部分も多いお二人が、同じロンを演じるということに演劇の醍醐味を感じます。