10月に東京グローブ座で開幕する舞台『十二夜』。主演に正門良規さん(Aぇ! group)、演出に森新太郎さんを迎え、シェイクスピアの名作喜劇に挑みます。念願の初シェイクスピア作品で、主人公の女性ヴァイオラを演じる正門さんにお話を伺いました。
シェイクスピア作品は「ドラマチックでロマンチックで、憧れの世界」
−出演のオファーがあった時はいかがでしたか。
「森さんとシェイクスピアをやりたいということをずっと言っていて、なかなか叶わないことだろうと思っていたので、それが叶うならと二つ返事でお答えしました。『十二夜』を読んでみると知的で美しい言葉がいっぱい出てきますし、よく出来たお話で惹き込まれました。これが400年以上前に書かれているというのが驚きです」
−シェイクスピア作品に出てみたいというのはいつ頃からの思いですか。
「みっちー(なにわ男子・道枝駿佑さん)が出演していた『Romeo and Juliet -ロミオとジュリエット-』(2021年)を観て、舞台をやるからには1回くらいシェイクスピアに触れてみたいなと漠然と思うようになりました。2022年には舞台『ヴィンセント・イン・ブリクストン』で森さんとご一緒して、いつか森さんの演出でシェイクスピアを、という思いが生まれました。昨年出演した舞台『Touching the Void』では最前線の演劇に触れることができて、やっぱり古典もやりたいなという気持ちが出来ていたので、理想的なタイミングでお話をいただけて本当に贅沢だなと思っています」
−これまで観てきた作品の中で、お好きなシェイクスピア作品はありますか?
「『ハムレット』や『オセロー』も面白く拝見したのですが、『ロミオとジュリエット』が王道で好きですね。シェイクスピア作品を翻案した作品も好きですけれど、今は翻訳したそのままの台詞に触れて喋りたいという気持ちが芽生えているので、今回はとても楽しみです」
−念願のシェイクスピア作品に触れてみていかがですか。
「凄くドラマチックでロマンチックで、憧れの世界だなと感じます。詩的で美しい台詞が多くて、こんな台詞を言えることってなかなかないと思うんです。森さんにも「シェイクスピアと出会えるのはラッキーだよ」と言われましたし、演出家でもシェイクスピアが好きな人は多いじゃないですか。多くの人に愛される劇作家の作品をできるのが嬉しいですし楽しいです」
今の僕がヴァイオラをやるからこそ喜劇になる

−舞台『十二夜』で正門さんは主人公の女性ヴァイオラを演じます。
「女性役だからといってそこまで仕草や声を作ろうとは思っていません。そういうことはあまり大事ではない気がしていますし、意識すると邪魔になるような気もします。このままの僕で喋るからこそ良い意味でカオスになるし、作品の面白さが出てくると思います」
−森さんの演出はいかがですか。
「今回はまだ本読みの段階ですが、それでも一言一言の台詞にこだわって「次はこう言ってみて」とアプローチを変えながら読んでいます。森さんは作品の解像度と愛情が凄く深い方という印象です。怖い人というイメージがある人もいるかもしれませんが、むしろ凄くチャーミングで素敵な人。演劇愛を感じるからこそ、台詞量の多い作品は森さんの元でやりたい、という思いがありました。一言でも流れたら止められる。当然のことですが気が抜けなくて、だからこそ台詞が体に入ってくるように感じます。森さんの演出を受けたいと言う俳優さんはたくさんいる。だから森さんもシェイクスピア同様に、出会えてラッキーな方ですし、贅沢な時間を過ごせることにワクワクしています。森さんの期待に応えられるように頑張ります」
−シェイクスピア作品は演じる人、上演される時代によって変化するというのも魅力だと思います。正門さんが『十二夜』に出演することでどのような“マジック”が起こると思いますか。
「男性の僕がヴァイオラを演じることで、女の子が言ったら凄く切なくなる台詞も笑えることがあると思います。劇的な台詞って、時にしんどくなることもあるけれど、僕が言うことで喜劇として進んでいけることがあると思う。観にくるお客様にはときめきを感じてほしいし、恋愛としての憧れを生み出したいし、やりがいがあるだろうなという予感がめちゃくちゃしています」
−当時は少年俳優が女性の役を演じていました。
「ヴァイオラは若い女性の設定なので、少年俳優だとより年齢が近かったと思います。今回は大人になった僕が高校生くらいの女の子をやるという点も、良い意味で笑える感じになったらと思っています。ヴァイオラは凄く若者らしい、はつらつとしたエネルギーを感じる役なんです。若さゆえの、思いついたら突き進んでいく天真爛漫さが面白いし、演じていて楽しいところ。シェイクスピア作品は若者から老人まで出てくるので、それぞれの年齢層だからこその面白味が描かれているのも魅力だと思います」
「毎日違うものになりますように」と願いながら

−正門さんのこれまでの出演作を拝見していて、「人間くささ」がお芝居に出ているのが魅力的だなと感じます。演じるにあたって心がけていることはありますか。
「諦めないことです。色々な日があるけれど、1個1個を諦めず、最後までそれを楽しむ。そしてその日の波に乗るというのも楽しいです。お客様のリアクション1つで変わるので、ライブよりもライブな気がするし、毎日「生きているな」と感じます。だから舞台は凄く好きです」
−演劇の魅力、舞台ならではの醍醐味をもう少しお聞かせください。
「リアクションが早いと言うのは凄くやっていてホッとすることです。お客様を感じながらできるというのは、演劇ならではだと思います。また2~3時間集中したら終わり、というのも潔くて良いですよね。役者、スタッフ、お客様が一緒になって、その日その時の共同作業をしていく感じ。ものづくりをしているという感じが稽古場から本番まで絶えずあるのが好きです」
−本作は東京公演・大阪公演と続きます。公演中のルーティンはありますか。
「以前はルーティンを作っていましたが、やらなくなりました。2021年にグローブ座で『染、色』に出演させていただいた時、演出家の瀬戸山美咲さんに「車庫入れを見せられても面白くない、演劇はお客様を巻き込んでいくレースじゃないといけない」と言われて、衝撃を受けたと共に納得したんです。それからは「毎日違うものになりますように」と願いながら臨むようになりました。公演前に別の仕事があって入り時間が変わる時の方が、「今日はどうなるんだろう」とワクワクします」
−シェイクスピアを初めて観劇する人に向けてアドバイスはありますか。
「どの作品の時も言っているんですけれども、演劇の始まりは「遊び(play)」なので、固く構えず、娯楽として気楽に観に来てください。ちゃんと伝わるようにやりますから、下準備も何もいらないです。恋愛を描いた『十二夜』はときめきや共感があると思うし、シェイクスピア入門編としてもってこいだと思います。ぜひ楽しみにしていてください」

舞台『十二夜』は2025年10月17日(金)から11月7日(金)まで東京グローブ座、11月15日(土)から11月21日(金)まで森ノ宮ピロティホールにて上演されます。公式HPはこちら

Audienceでは「生きてて、よかった。そう思える瞬間が、演劇にはある」という言葉をキャッチコピーにさせていただいています。まさに『十二夜』をはじめとする演劇作品に心救われた経験をもとに生まれた言葉です。正門さんが演劇をやられている中で「生きている」と感じる、というお言葉にとても感動しましたし、だからこそ「人間くささ」を感じるお芝居をされるのだなと合点がいきました。『十二夜』ではどんな生き様を見せてくださるのか、楽しみです。