アメリカ近代演劇を代表する劇作家アーサー・ミラー(1915-2005)。ミラーの初期代表作として知られる『すべての幸運を手にした男』(1944年)が、2025年11月14日(金)から東京グローブ座にて上演されます。

本作は、作品の構成や登場人物の成長が、まるで寓話のように展開していく物語です。ミラーならではの、普遍的な感情を描いたこの作品の見どころを、3つのポイントからお届けします。

Travis Japan 川島如恵留が演じる「幸運を手にした男」

本作『すべての幸運を手にした男』の主人公、デイヴィット・ビーヴスの人生には、次々と思いがけない幸運が訪れます。どんな困難にも打ち勝ち、一見怖いものなど何もないように見えるデイヴィットですが、次第に幸運が訪れることに恐怖を感じ始めます。

今回の舞台でデイヴィット役を演じるのは、Travis Japanの川島如恵留さんです。デビュー前から、アメリカでさまざまなコンテストやオーディション番組に参加するなど、グローバルな活動を重ねて来た川島さん。本格的なストレートプレイを演じるのは今回が初めてです。

川島さんはこの新たな挑戦について、公式コメントで「お話をいただいた時、まさに幸運を手にしたなと感じました」と語っており、「ひと回りもふた回りも違った厚みを出してTravis Japanにも還元していきたいです」と、ストレートプレイへの出演を意欲的に捉えています。

共演には、ディヴィッドの恋⼈であり、のちに妻となるヘスター・フォーク役に花乃まりあさん。野球選⼿としての成功を夢⾒る兄・エイモス・ビーヴス役に⼤野拓朗さん。誠実な整備⼯・ガスタフ・エバーソン役に古河耕史さん、家庭の問題を抱え酒に溺れる男J.B.フェラー役に駒⽊根隆介さん、不慮の事故で⾜が不⾃由となった元兵⼠のショーリー役に永島敬三さんが出演し、それぞれがデイヴィッドの運命に関わっていきます。

また、デイヴィッドの叔⺟のベル役に栗⽥桃⼦さん、デイヴィッドにビジネスの機会をもたらすダン・ディブル役には内⽥紳⼀郎さん。さらに、⼤⽯継太さんが、ヘスターの⽗・アンドリュー・フォークと、野球のコーチ・オーギー・ベルファストの2役を演じ分け、物語に深みを与えます。

そしてエイモスに夢を託し続ける⽗のパターソン・ビーヴス役には、舞台・映像で⻑年にわたり活躍する⽻場裕⼀さんが出演。確かな演技⼒で、作品を⼒強く⽀えます。

英演出家リンゼイ・ポズナーによるアプローチに注目

今回演出を務めるのは、イギリスの演出家であるリンゼイ・ポズナーさんです。リンゼイさんの経歴は素晴らしく、ロイヤルシェイクスピアカンパニーや、ナショナルシアターなど、演劇大国イギリスの中でも最も格式の高いカンパニーでのキャリアを誇ります。

シェイクスピア作品などの古典作品から、現代作家による作品までさまざまなジャンルにおいて、名舞台を生み出しているリンゼイさん。

日本では、2020年にレジナルド・ローズによる名作『十二人の怒れる男』、2022年には今回と同じくアーサー・ミラーの『みんな我が子』の演出を手掛けています。

『すべての幸運を手にした男』は、リンゼイさんによる日本での3作品目の演出作品です。本作品にどのようなアプローチを試みるのか、目が離せません。

ミラー初期作品が新訳で日本初登場

これまで、アーサー・ミラーの作品は日本中のカンパニーで演じられてきました。

『みんな我が子』(1947年)、『セールスマンの死』(1949年)、『るつぼ』(1953年)などのミラーの代表作は、文学座や劇団民藝など、多くの劇団のレパートリーに組み込まれています。

しかし、初期の名作として知られている『すべての幸運を手にした男』は、今回が新訳による日本初上演となります。これは非常に貴重な機会であり、特に英米演劇ファンの方ならぜひとも足を運んでいただきたい作品です。

翻訳を担当するのは、髙田曜子さん。2013年に東京グローブ座で上演された『SOME GIRL(S)』 (作・ニール・ラビュート)で翻訳家デビューして以来、さまざまな日本初演作品の翻訳を手掛けています。

人間なら誰もが持っている普遍的な感情を鋭く描き出すミラー作品が、彼女の翻訳によってどう生まれるのか、非常に楽しみです。

『すべての幸運を手にした男』は、2025年11月14日(金)から12月2日(木)まで、東京グローブ座にて上演されます。公式ホームページはこちらです。

糸崎 舞

学生時代、ミラー作品に傾倒して片っ端から彼の戯曲を読みました。しかし、『すべての幸運を手にした男』は未読です。その作品を、まさか日本で観られるなんて!初期の名作がどんな舞台として立ち上がるのか、今から楽しみです。