11月14日(金)からKAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオで上演される『勝手に唾が出てくる甘さ』。演劇プロデュースユニット・城山羊の会とKAATが2022年以来再びタッグを組み、作・演出:山内ケンジさんの独自の世界観を繰り広げます。本作に出演する松本まりかさん、じろうさん(シソンヌ)にお話を伺いました。
自然体だけど緻密でリアル、緊張感も漂う絶妙なバランス

−現段階で作品への感触というのはいかがでしょうか。(取材は10月下旬)
じろう「凄く面白いですよ。山内さんの中でも新たな取り組みもあって、意外性のある始まり方だなと思っています」
松本「城⼭⽺作品は、特に何かが起こっているわけではないのに、⾯⽩いんです。私は最初出てこないので皆さんの演技を観ていますが、⼀⾔⽬が始まる前からとにかく⾯⽩い。あ、これこれ。と思いながらニヤニヤしてしまいます」
−山内さんが手がける作品の魅力はどんなところに感じますか?
じろう「普通の舞台って、華のある人が出てきて、派手なシーンをやって、ひと笑いを起こして…みたいなのがあると思うんですけれど、山内さんの作品はそういうのが一切ないんですよね。本当に全員が絶妙なバランスでいるので、やっていることは凄く難しいんですけれど、できた時の達成感も凄い。だからみんな緊張感を持ってやっていますね」
松本「でも緊張感が全然見えないように、力を抜いてやっているように見えるんです。台詞が面白いので、何かをやろうとしたり、頑張ろうとしたりしなくていい。自然に言っているだけで体がついてきて、自然体でできるので、凄く面白いしありがたいです」
−お2人は夫婦役ということで、どんな夫婦になりそうでしょうか。
じろう「どうなるのか最後までは見えていないのですが、現状はあまり上手くいっていない夫婦かもしれないですね。ある程度の期間は一緒にいると思うんですけれど」
松本「絶妙な空気感が2人の間に流れるので、一体どういう関係なんだろうと思わされる夫婦だと思います。水面下で凄くバトルをしているというか。それと私の役はじろうさんの役に対して嘘をつくので、それを見抜きながらやり合う感じ。掛け合いがとにかく楽しいです」
じろう「お互いに世間体を気にしながら、喧嘩なんてしていませんという空気で喧嘩しているんですよ。その空気感が凄くリアルですね。派手ではない、本当にリアルでやっている感じが山内さんの脚本の凄さだと思います。コントの脚本って、笑いに直結しない台詞があって、自分にとってはそこまで力を入れなくて良いなと思うんですけれど、山内さんの脚本の台詞にはそれがないんです。全部の台詞が1個のおもしろに繋がっている。だからみんなが緊張感を持ってやっていかなければいけないです」
松本「凄く緻密ですよね。自分の緊張が1個解けたら壊れていってしまう恐怖もありながらも、常に冷静なトーンでやっていて。ただの“あ、そう”とか普通は意味を成さない言葉が凄く面白くなる。だから言っていても楽しいです」
狭い密室で盗み見している空間を作る崇高さ

−演出を手がける山内さんの印象はいかがでしょうか。
じろう「僕もそこまで舞台に出た経験がないのであまり演出家の方に会ったことはないですけれど、でも多分普通の演出家とはかけ離れていると思います。全然言ってこないし、自分で書いたやつを見て自分でケラケラ笑って、誰よりも早く帰りたがる(笑)。もちろん気になったことは言ってくれるんですけれど、山内さん独特のトーンで言いますし、声を張り上げているところとか見たことない。山内さんのマックスボリュームがどのくらいなのか知りたいです(笑)。でも凄くお喋り好きでもありますし、本当に面白い変な人ですね」
松本「1回通したら、“今日は凄くやったね、もうできたね”って言って帰ろうとされますよね(笑)。癒される空気感を持っていて、圧もないですし、でも孤高な空気も漂う方だなと思います。楽しく良い空気感でやれていると思います」
−お互いの俳優としての印象はいかがでしょうか。
じろう「僕はいっぱい見て盗んでいます。まりかさんの動きが面白いので。ちょっとした女性らしい仕草がナチュラルに役に出ているので、そういうのを吸収して、今後どこかで活かそうかなと(笑)」
松本「じろうさんはトーンや表情、歩いてくるだけでも面白いんです。動かなくても面白い。静の中から溢れ出てくる面白さというか。だから一緒に掛け合いをしている時はたまらなく楽しいですし、贅沢な時間です。今回じろうさんが出演されると聞いて、“やった!”と思いました」
じろう「ありがたいですね。僕はすぐにコメディしちゃうのですが、山内さんの作品ではそれを消さないとダメだと思うんです。変な立ち方とか変な顔とかはしちゃダメな作品だと思うので、いかに普段の僕のコメディの要素を消して、山内さんの面白さにできるかというのが、難易度が高いです」
松本「まったくコメディされていると思わなかったです。とてもナチュラルなんで、でもたまらない面白さがあって、こちらが前のめりになっているというか、一挙手一投足を逃したくないと思うんです」
じろう「嬉しいです。稽古場は凄く楽しくて、やっぱりそれだけ自分の経験値になっている感覚があります」

−音楽練習室が舞台になっているということで、歌うシーンもあるのでしょうか。
松本「歌うんです。凄く変な歌詞で。たまらないですよ」
じろう「そもそも何でおじさんたちはあそこに集まっているんだろうね。結局説明もないまま終わるんだろうけど。何で自分の休みを使って歌の練習をしているんだろう。でもどこかにはこういうことをやっている人がいるんだろうなと思わされる絶妙な面白さが凄いですね。リアリティがあるんだけれど、凄く変でもあるんです」
松本「奇妙な世界観だし、私の役も変なんですけど(笑)、でもなんだか説得力を持って観られてしまう、のめり込める演劇になっているじゃないかなと思います」
じろう「作品的にこれくらいのキャパじゃないと観られないというのも崇高だなと思いますね。山内さんの作品は2000席くらいの大きなキャパだと楽しめないんです。狭い密室で、盗み見しているような感覚が大事だと思うので。公園で、変なおじさんたちが揉めているなぁとベンチで見ているような、あの感じが必要なので、空間に入れる人が限られているんですよね。それも凄く崇高だなと思います」
KAATの「虹」に新たな色を加える作品に

−演じる上で大切にしようと思われていることは何でしょうか。
じろう「とにかく山内さんの本をちゃんとやるだけです。自分で変な味付けはしない方が良いので。かと思ったら、凄くベタな新喜劇のようなシーンもあるんですよね。でも山内さんが書くとおしゃれに感じますね」
松本「私は城山羊が凄く好きなので、何も気張らず、とにかく台詞を自然体で言えたらと思っています。最近は映像作品では頑張らないとできない役が多く大変だったので(笑)、今の現場は、もうオアシスのような場所で。何も考えずに、ただひたすら山内さんの台詞を浴びながら、素晴らしいキャストの方々と、一緒に掛け合いができることをとにかく大事に楽しもうと思っています」
−KAATは2025年度、「虹~RAINBOW~」をシーズンタイトルに掲げています。劇場外観にも「虹~RAINBOW~」と、「違いは常に緊張を生む、果たして共生と調和の橋は架かるのか」という言葉が掲げられています。本作はどのような虹をかけると思われますか。
じろう「どうだろう。キャストがちょうど7人ですね。まだ現時点では最後まで行っていないので、最後まで通してみたら見えてくるものもあるのかもしれません」
松本「KAAT芸術監督の長塚圭史さんが最初にお話しされて印象に残っているのは、この劇場は神奈川の公共劇場なので、神奈川の人たちにとって必要である場所にしたいとおっしゃっていたことです。都心から離れていて来るのは大変だと思うけれど、神奈川のことを知って、楽しんで神奈川と調和してほしいし、神奈川の人たちにとって意味のある作品になっていってほしいという素敵な想いに、グッときてしまって。KAATがやるような作品ではないかもしれないけれど、観たことないような作品になることで、新たな色としてこれも“虹だね”と思ってもらえたら嬉しいです」

KAAT×城山羊の会『勝手に唾が出てくる甘さ』は2025年11月14日(金)から11月30日(日)までKAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオにて上演。公式HPはこちら
城山羊の会独特の魅力が凝縮された作品になりそうです!



















