明治座にて2026年2月26日から上演される舞台『大地の子』。山崎豊子さんによる感動巨編を、脚本・マキノノゾミさん、演出・栗山民也さんで舞台化します。本作に出演する井上芳雄さん、奈緒さん、上白石萌歌さん、山西惇さん、益岡徹さんが製作発表会見に臨みました。
「過去を知ることは、未来を知ること」
中国の大地で戦争孤児となった青年の波乱万丈の半生を描いた『大地の子』。原作小説は1987年から「月刊文藝春秋」にて連載され、山崎豊子さんは当時外国人に開放されていなかった中国の農村地区に足を運び、多くの戦争孤児から聞き取りを行って本作を執筆したと言います。
戦後80年、今だからこそこの物語を。マキノノゾミさんが脚本、栗山民也さんが演出を手掛け、舞台化が実現します。製作発表会見では本作のPVが上映され、栗山民也さんからのご挨拶を井上芳雄さんが代読しました。(記事最後に掲載)

主人公となる陸一心<ルーイーシン> (日本名:勝男)を演じるのは、井上芳雄さん。戦後50年の1995年に放送されたドラマ「大地の子」(上川隆也さん主演)を夢中になって観ていたことを明かし、「僕自身にとっても、とても大事な物語で、その役を演じさせていただけるという奇跡のような巡り合わせをいただきました。難しい時代になっている中、過去を知ることは、未来を知ることだと思います。演劇を通してお伝えしたい」と意気込みます。
陸一心の実妹で兄と生き別れて孤児となり、過酷な生涯を送った張玉花<ツァンユウホワ>(日本名:あつ子)を演じるのは奈緒さん。本作では、ストーリーテラーとしても物語の世界に誘います。

奈緒さんは「物語には色々な届け方があり、自由に受け取っていただくことが良いものもたくさんあると思うのですが、『大地の子』に関しては一種の正しさというものを、私たちが強く持って届けなければいけない作品だと心から思っています」と決意を語りました。
陸一心の妻で看護師の江月梅<チャンユエメイ>を演じるのは、上白石萌歌さん。「栗山さんは赤という色を大切にしていらっしゃるイメージがあります。人の血や大地の色、たぎるようなものとして赤という色があると思うのですが、今回のビジュアルや映像にも赤が基調とされているので、1つ作品のヒントになるんじゃないかと思いました」とコメント。

「一心は過酷な運命に翻弄されていきますが、彼に手を差し伸べてくれる人がたくさんいて、差し伸べられた手をしっかりと握って自分の人生をひたむきに歩んでいく姿にとても感銘を受けました。自分も一心に手を差し伸べる1人としての役割を与えられていると思うので、稽古に入るまでは原作を何度も読み返し、稽古中は栗山さんからいただく言葉を何度も咀嚼しながら、進めていけたら」と語りました。
「大作の大役にご指名いただき、もう震えています(笑)」と緊張を明かした山西惇さんは、陸一心(松本勝男)の養父・陸徳志<ルートウチ>を演じます。

演出家の栗山さんについて「栗山さんと会う前と会う後では、紀元前・紀元後のように、俳優人生が分かれるくらい、信頼を置いている演出家。栗山さんがやるなら絶対大丈夫だろうという気持ちで原作を読ませていただきました。これ出来るのかな?と思うものの方が、栗山マジックによって凄い作品になる予感しかないので、早く稽古が始まらないかなと思っています」と信頼を寄せました。
陸一心と張玉花の実父・松本耕次を演じるのは、益岡徹さん。ドラマ版を「毎回感動しながら、ひょっとしたら涙を流しながら観た」と明かし、「舞台で皆さんにお見せできること、何十の意味でも心震えるような気持ちです」と語ります。

PV映像を観て中国を題材に描いた作品『黄色い大地』を連想したことを語り、「乾いた土地、砂混じりの空気、大きい広い場所といった、黄色い乾いたイメージに見えて。でもよく見ると赤くて、赤い夕日が落ちる場所でもあるなと思い直しながら、改めて色を感じているところです」と印象を語りました。
井上芳雄さんによると、「(本番の)セットも赤い大地をイメージしていると栗山さんが言っている、って又聞きしました(笑)」とのこと。本作の世界観が舞台上にどのように出現するのでしょうか。

第二次世界大戦後の混乱の中、旧満州に取り残された孤児を描いた本作。井上芳雄さんは「実際にあったことを基に描かれた作品ですが、演劇として、エネルギーのある魅力的なものにしたいということは、誰もが思っていると思います。そして個人的に思うのは、80年前、90年前の話かもしれないですけれど、もしその時に生まれていたら、自分もそうだったかもしれないということ。一心の親子は長野出身の設定なんですけれど、満蒙開拓団というのは村から何十人か絶対出せと言われて、出ないと助成金が降りなくて、出さざるを得なくて。しかも満州には希望があると言われたら、僕がもし長野にいてその状況になったら行く可能性だって高いんじゃないかなと。親が行くぞと言ったら子どもは付いていくしかないですし。決して、昔って大変だったんだなという話ではなく、自分たちの話であるということを、今の僕と同じ世代、もっと若い世代にも伝えて、そこから何を思うかはそれぞれだと思いますが、少なくとも同じことを繰り返すべきではないということは共有したい」と強い思いを語ります。
奈緒さんは2025年8月に舞台『WAR BRIDE -アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』に出演。戦後80年の今、2作品と向き合う中で「同世代に届けたいという思いが常にありますし、届けるにあたって、無知というのは怖いなと思いながら生きてきました。1年向き合ってみて感じるのは、無知というのは余白なのではないかということです。それは私たち若い世代が持っている大きな強みじゃないかと感じています。余白をどういった優しいもので埋めていくのか、その1つにこの舞台をしていきたいですし、“戦後”という言葉を続けるため、想像し続けることで、平和を守り続けたい。みなさんと一緒に祈るような気持ちで舞台を共有できたら」と心境を語ります。
上白石萌歌さんは「私自身は戦争を直接経験した世代ではないですし、実際に経験された方も今どんどん少なくなっている状況で、やはり役者が語り部として伝えていくべきものがあるんじゃないかと思っています。演劇というのは、どんな資料や映画を見るよりも、劇場に足を運んでいただいて、肌で感じていただけるものがたくさんあると思います。今の時代の私たちが改めて、平和って何なんだろう、争うことって何なんだろう、どんな意味があるんだろうということを考えながら、お届けできたら良いなと思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです」と語りました。
<栗山民也 ご挨拶>
戦争によってかけがえのない命を奪われた人々に、もう一度言葉を送り、全身を与える。これが演劇の一つの仕事だと、ある劇作家の強靭な姿勢から教えられたことがある。生者と死者は、いつも重なり合う。そのことが私の中に「記憶」という大切な言葉となって強くへばり付き、稽古場でのあらゆる事象と出会うたびに、それが今を映し出す「記憶の再生装置」なのだと考えるようになった。
この山崎豊子さんの「大地の子」を随分と前に読んだとき、広く限りなく拡がる黄色の大地の上を、幾万人もの人たちが並んで歩む姿が、生まれては消える影のような運命の残像に見えた。その歴史をどこまでも深掘りした文章の奥には、その時代の陰惨ないくつもの光景が刻まれている。満蒙開拓団のリアルな歴史が、一人の青年を通して明らかにされていくのだが、お国のためという大義のもと、それは国を上げて推し進められた開拓という占領政策であった。そして、棄てられていった。
写真と文章で綴る江成常夫さんの「シャオハイの満州」という、旧満州の姿を写し出した記録の本が、わたしの机の上にある。この物語を考える中で、何度もページを開き、そこに写された残留孤児たちの顔を見つめる。今、何を語り掛けようとしているのか。そのぼんやりとどこか漂うような目の奥から、こちらに向かって厳しく無数の感情で問いかけてくる。
―誰も置き去りにしてはいけない。誰もが世界から必要とされているのだから―
そんな死者たちの無数の声が聞こえてくる。
この「シャオハイ」という言葉は、中国語で子供のことである。
稽古に入る時、いつもこんなことから始める。物語に描かれた時代を見つめるため、その時代のその場所の真ん中に自分を立たせてみる。そこで見えてくるもの、聞こえてくるもの、肌で感じるものすべてを、全身で受け止める。時の記憶、場所の記憶を自ら体験してみることから始める。
素敵な俳優たちが、揃った。みんなで、この物語をしっかりと丁寧に力を込めて、嘘のない舞台にしたいと思う。
栗山民也
<あらすじ>
第二次世界大戦後、中国の大地に取り残された日本人孤児、勝男(井上芳雄)。
一緒に取り残された妹・あつ子(奈緒)と離別し、人身売買されたところを、小学校教師の陸徳志(山西惇)に助けられ、「一心」と名付けられる。
子供のいない陸夫妻は愛情をこめて育て、一心もその期待に応えるように差別を受けながらも、優秀な青年に成長していく。ただ、その背後には、文化大革命が暗い影を落とし始めていた。
一心は、戦争孤児であるという理由から、無実の罪で捕らえられ、過酷な肉体労働に従事することになり、さらには冤罪まで着させられてしまう。服役中にふとした怪我から破傷風にかかり生命の危機にさらされる一心だったが、一人の看護師に命を救われる。その女性は後に一心の妻となる江月梅(上白石萌歌)だった。
時が過ぎ、中国での高炉建設の日中共同プロジェクトに参加することになった一心は、日本企業の東洋製鉄所長の松本耕次(益岡徹)という男性と対面することになる。耕次は、一心の実の父親だった――

舞台『大地の子』は2026年2月26日(木)から3月17日(火)まで明治座にて上演。公式HPはこちら
壮大な物語から見えてくる真実と、まっすぐに向き合う時間にしたいと心から実感しました。


















