心理劇×サスペンス×音楽が融合した、新感覚の2人ミュージカル『白爪草』。シンガーソングライター・ヒグチアイさんが楽曲を手がけ、360度客席に囲まれた舞台でワンシチュエーションミュージカルが展開されます。本作に出演する屋比久知奈さん、唯月ふうかさんと、演出を手がける元吉庸泰さんが稽古場シーン披露に臨みました。
「ホトトギス」「雑草」「ブリザーブドフラワー」「咲き過ぎた蕾」を披露

花屋で働く白椿 蒼(屋比久知奈さん)の元に、母を殺し、6年の刑期を終えた双子の姉・白椿 紅(唯月ふうかさん)が訪れます。稽古場シーン披露ではまず、花屋で働くことになった経緯を蒼が語る「ホトトギス」と、紅が前科者としてレッテルを貼られながら生きていることを告白する「雑草」が披露されました。(第二場・再会)

お花が好きな、柔らかで無邪気さもある蒼と、彼女を優しく見守るそぶりをしながら、徐々にやり場のない怒りを露わにしていく紅。対照的な2人を圧巻の歌唱力と演技力で魅せていきます。

続いてシーンが進み、実は母親を殺したのは紅ではなく蒼であることが明らかに。紅は蒼を拘束し、蒼になり代わろうとします。(第四場・因縁)
蒼は紅がその場を離れた隙を見て心理カウンセラーの桔梗先生(声の出演:安蘭けいさん)に電話をしますが、会話がすれ違い取り合ってもらえません。

紅が購入した毒を使って母親を殺した蒼。紅は、何のために毒を手に入れたのか。2人の母への思いと記憶が明らかになっていく楽曲「ブリザーブドフラワー」では“枯れることなく綺麗なまま残したい”など花の表現が2人の思いに重ね合わされ、ホラーながら詩的で美しい本作ならではの世界観が表現されます。
さらに紅の双子の関係性に対する思いを、植物の蕾摘みになぞらえた楽曲「咲き過ぎた蕾」が披露されました。覚悟を決めた紅の狂気と、死が迫る蒼の恐怖が空間全体を支配します。息も止まってしまいそうなほど緊張感溢れる中、稽古場シーン披露が終了しました。

本作は劇中で4回のどんでん返しが待っているとのこと。第二場、第四場でも双子の印象は大きく変わっていますが、まだまだ隠された秘密がありそうです。
屋比久知奈×唯月ふうか×元吉庸泰 「生」で体感する新しい演劇体験を
稽古場シーン披露後は、屋比久知奈さん、唯月ふうかさん、元吉庸泰さんへの合同取材が行われました。
−稽古場シーン披露を拝見して、改めて屋比久さん唯月さんの歌を間近で聴ける贅沢さを実感しましたし、360度囲み舞台の臨場感へのこだわりを感じました。本作の演出への想いを改めてお聞かせください。
元吉「今日はピアノの生演奏でお届けしたのですが、本番でも生演奏でお届けします。また、客席のエリアに水場や棚、事務スペースなどお花屋さんの裏の空間を拡張して作っていて、どんどん2人が降りていきます。演劇体験が気薄になっている今だからこそ、生の俳優が目の前でお芝居を繰り広げ、生の人間が観て感じるということを大事に作っています。僕は師匠からよく言われていた“目の前の人間の人生を変えられるのは演劇だけ”という言葉を大切にしています。その可能性を模索した作品になっていると思います」
−屋比久さん、唯月さんはこれだけ観客と近い舞台は初めてだと思いますが、意識されていることはありますか。
屋比久「感覚的なことかもしれないですけれど、大劇場の時とは呼吸や歌、視線などが違うような気がします。大劇場だと真っ暗になるので、もちろん人のエネルギーは感じるのですが、割と没頭しやすいんです。でも今回はとても密に人を感じるので、だからこそ嘘がつけないなと感じます。もしかしたら大劇場だと自分の感情より大きめにやってしまいそうになるし、やりたくなるし、やらなきゃダメな時もある。でも今回は感情を無理に大きくしようとするとバレてしまうんじゃないかなと思います。自分の中でなるべく嘘のない状態で感情を動かして、空間と対話できたら良いなというのは目標の1つです」

唯月「私は最初、リアルにやればやるほどお客様もグッと観てもらえるんじゃないかと思っていたんですけれど、段々とやっていくうちに思ったのは、やはりミュージカルなので外に放出しなきゃいけない瞬間もあるなと。リアルすぎてはいけない、その塩梅がすごく難しいです。そこは今も苦戦している最中なんですけれど、外に放出するものと、空間に溶け込むものと、バランスを考えなくちゃいけないと学びました」
−舞台上のスペースはかなり小さくて、部屋より狭いくらいですよね。
元吉「演出的に言うと、何もしなくてもその空間に人が1人いるだけで埋まるというのはあります。例えば家の中に虫が入り込んできたらものすごく気になると思うのですが、大きい空間だとそこまで気にならない。空間に人がいるだけで存在を感じやすい空間というのは、とても幸せな作劇をさせていただいていると思います。逆に大きい空間では良い意味でエンターテイメントを作り込んでいけるので、バランスという意味合いで、どこまでリアルにするのか、そのバランスは2人が言う通り難しいです。あまりにリアルすぎると、お客様が観測するだけの人になってしまうんです。でも相互作用が生まれると、参加型になっていく。このバランスを探っています」

唯月「360度ということで、後ろがないし、正面を向く必要がないというのは自由になれる点かもしれません。専門的に言うと、番号に捉われなくて良いので、制限が外れるなと思います」
屋比久「自分の気持ちを作りながら正面を向く難しさがあるもんね。今回は元吉さんの演出の方針としても、“ここに絶対立ってください”ということがなく、余白をたくさん残してくださっているのですごく感謝しています。その日の感情によって動いていける部分が多いので、その時のふうかを見て、近づきたくなる日もあれば、近づきたくない日もあるし、それによって動きは変わってきます」
元吉「劇中の初めのとある動きでは、その日によってどちらがやっても良いことにしているんです。これまで通し稽古を何回かやっていますが、見事に毎回違います。相談なしでやって、その場で音響さんが合わせてくれています」
−360度囲み舞台ですが、元吉さんの演出として蒼の視点・紅の視点とキャラクターごとに見え方を作っているのでしょうか。
元吉「客席の面積が大きい面を僕らは北面・南面と呼んでいて、どちらがどちらかとは申しませんが、片方は蒼、片方は紅の視点が強く伝わるように分けています。横のサイドでは2人の言い分がそれぞれ見えると思います。テーブルの位置関係もそれに合わせて作っています。もちろん片方から観た時に、もう片方の視点も想像できるように作っているので、一度観ただけでも楽しんでいただけます」

−お2人にとっては精神的にも身体的にもハードな作品ですね。
屋比久「もちろんシンプルに疲れますし(笑)、苦しい動きはたくさんあるけれども、ふうかがいてくれるという安心感も強いです」
唯月「私は紅と向き合う中で、自分にはないと思っていた鋭い部分というのが見えてきて、知らない自分に出会う感覚を味わっているので、そこはゾワゾワしています。お客様からどう見えるんだろうというのがすごく気になりますね」
元吉「原作がものすごくよくできたサイコスリラーで、しっかりホラーの要素を作られたVTuber主演の映画なんですけれども、演劇にしてみてあらびっくり、すごく温かさもある作品になっています。一生懸命生きている人の温かさ、思いやりがあるからこそのずれというのがあって、僕も初めて通し稽古をした時に驚きました。サイコスリラーという要素だけでなく、温かい2人の選択の物語になっているというのをぜひお伝えしたいです」
−最後にメッセージをお願いします。
唯月「皆さんのそばに行きます!!物理的にも心理的にも近くに行くので、覚悟してください!アトラクションに乗るような、ラフな気持ちで楽しんでいただけると嬉しいです」
屋比久「演劇として新しい形を観ていただけると思います。これだけ近くで観ていただけるというのはスペシャルなことだと思いますし、私たちも全力で挑んでいきます。サイコスリラーや、話の内容ももちろん楽しみにしていただきたいのですが、新しい演劇を体験しに来ていただくだけでも面白いかなと思います」
元吉「チケットを取った瞬間から、演劇は始まると思っています。その日に何を着て行こうか、どんな交通機関で行こうか、と思いを巡らせること自体が演劇の一端だと思っています。劇場に来たお客様は、“ここではないどこか”に連れて行ってほしいという感覚があると思います。僕らが“ここではないどこか”にきちんとお連れしますので、どうぞ安心して、劇場まで演劇を体験しに来てください」

新作ミュージカル『白爪草』は2026年1月8日(木)から1月22日(木)までSUPERNOVA KAWASAKIにて上演。公式HPはこちら
まずお2人の演技、歌声をこれだけ近くで体感できるだけでめちゃくちゃ贅沢なのでは?!と改めて実感した、惹き込まれた稽古場シーン披露でした。一瞬のうちに本作の世界観に連れ去ってくださるお2人、安心感しかありません!芝居としての歌、感情の爆発力を見せながらも、台詞として言葉を聞かせる。ミュージカルというのは非常に繊細で緻密な表現だと思うのですが、2人ミュージカルということはつまり、100%それを楽しめる安心感がある!楽しみでゾクゾクしてきました。


















