2026年2月にシアタークリエにて上演される『2時22分 ゴーストストーリー』。BBCでホラーのポッドキャストのヒット作を持つ若手作家、ダニー・ロビンズさんが脚本を手がけ、2021年にロンドンで初演された話題作で、森新太郎さんのオリジナル演出によって日本初演を迎えます。本作で加藤シゲアキさんが演じる主人公サムの妻・ジェニーを演じる、葵わかなさんにお話を伺いました。

ホラーのエンタメ性と会話劇の面白さがかけ合わさった作品

−本作の脚本を読んでどんな印象を受けられましたか。
「最初に読み始めたのが夜だったんですけれど、怖くて一気に最後まで読むことができず、途中で中断してしまいました。後日読み始めたらまた読みきれなくて。日中に、家の外でようやく最後まで読めました。結末を知ると、物語の見え方が変わるような脚本になっています。
本編の前に、脚本家のダニー・ロビンズさんによるホラーに対する熱い想いが書かれていたのも凄く印象的でした。作品を知ってからロビンズさんの言葉を読み返すと、ホラーって面白いなと実感しました。私は今までホラーというジャンルにあまり触れたことがなかったのですが、そこからたくさんのホラー映画を観るようになりました。最初は勉強も兼ねて観始めたのですが、ホラー作品の巧みさというのにどんどんと惹かれていって、自分にとって価値観が変わった感覚でしたね」

−ホラーの魅力というのは何だと思われますか?
「ホラーって、その場にないものをどう表現していくかということだと思います。今回の作品ですと、登場人物が少ない中で、会話やそれぞれの性格、バックボーンなどの組み合わせによって魅せていくというのは凄く面白いし、観ていて没入感もあると思います。とても読みがいのある脚本でしたし、いわゆる伏線もたくさんあるので、そこも魅力です」

−舞台作品でホラーに挑戦するという点についてはいかがでしょうか。
「以前、映像のホラー作品には何度か挑戦したことがあるのですが、舞台のホラーは初めてなので、楽しみ半分、ドキドキ半分です。映像でのホラーはカメラワークや照明、息遣いといったもので演出していくと思うのですが、舞台上の広い空間でどう皆さんの目線を誘導していくのか。隠せる部分が少ない中でどう魅せていくのか、演出がとても楽しみです」

−ご自身は霊的なものは信じられますか?
「私は割と信じています。霊感とかはないですし、何かが見えることはないんですけれど、そういうものがあっても良いのかなと。舞台に立っている時は、自分自身の身体の限界を超えて、倒れるかと思っても一歩前に出られたり、なんとかやりきれたりした経験もありますし、それを人間の底力というのかもしれませんが、何か見えない力というのを感じる瞬間はあります。本番前にゲン担ぎをしたくなるのも、何かを信じているからかなと思いますし。観に来るお客様の空気感によっては、こちらのパワーが吸われるような感覚になる時もあります」

−本作をどんな人に観てほしいと思われますか。
「ホラーというエンタメ性がありながらも演劇的な作品でもあるので、若い方や、私と同世代の方に勧めたくなりました。私の印象ですけれど、自分を含めて若い人ってホラーが好きなイメージがあります。夏にホラー映画を観に行く人も多いと思います。なので、舞台やストレートプレイってどんなものなんだろう、行ってみたいけれどなんとなく行きづらいなと思っている人にも、観ていただきたいですね。また、人間関係の描写もかなりしっかりと描かれているので、普段から演劇をご覧になっている方にも、ホラーサスペンスというスパイスが加わるとどうなるのかを、楽しんでいただけるんじゃないかと思います」

母親になったばかりの不安や1人の女性としての価値観を大切に

−本作で演じるジェニーという役柄についてお聞かせください。
「子どもがいる母親の役で、母親役を演じるのはほとんど初めてなので、自分がお母さんに見えるのかなとドキドキしています。役にとって子どもという存在が大きいので、どう捉えてやっていくかが稽古で1つのテーマになると思います。
ジェニーはお母さんではあるのですが、まだ1人の若い女性として旦那さんとの関係性もありますし、母親になったばかりの不安も抱えています。子どもへの愛情を持ちながらも、1人の女性としての意識、価値観も持っており、凄く複雑で不安定なバランスです。だからこそ、色々な人との関係性が揺れ動くんだと思います。彼女が抱える不安や価値観をしっかりと作れたら、それぞれの役と対面した時に面白く見えるんじゃないかと考えています」

−夫のサム役を務める加藤シゲアキさんの印象はいかがですか。
「今回ご一緒するのが初めてなので、実際にお芝居の現場ではどんな方なんだろうと楽しみにしています。音楽活動やお芝居、本も執筆されていて、幅広く色々なことをしていらっしゃるので、バイタリティ溢れる方なのかなと思っています」

−演出を手がける森新太郎さんとは、2022年に舞台『冬のライオン』でご一緒されています。どのような印象を持ちですか。
「私にとって初めてのストレートプレイだったので、分からないことが本当に多くて、ビシバシ稽古していただいたなと思っています。演劇に情熱を持った方で、毎日濃い稽古時間を過ごした記憶があります。作品や役に対して全力で向き合ってくださるので、自分もその期待に応えようと一生懸命にやることで、自分の今までの限界を超えていくような感じがありました。今回もちょっと緊張しているのですが…謙虚に稽古に臨みたいと思います」

−シアタークリエの濃密な空間も、本作の世界観を形づくりそうですね。
「クリエは子どもの頃からたくさんの演劇を観に行った劇場なので、自分が立てるのは凄く感激です。母と一緒によく観に行っていたので、母にも“クリエに立つんだよ”と報告したら喜んでくれていました。舞台と近い距離で重厚感のある作品を観て子どもながらに驚きましたし、距離が近いからこそ作品がこちらを逃してくれない感じがあり、観入ってしまいました。心地よい疲労感の中、外に出てみると綺麗な日比谷の街が広がっていたのを思い出します。
『2時22分 ゴーストストーリー』はクリエのサイズ感が作品に合っていると思いますし、暗い客席の中、隣のお客さんだけが頼りみたいな、ホラーを十分に堪能していただけるんじゃないかと思います」

役の感じ方を肌感覚で納得したい

−葵さんのお芝居はいつも役柄の感情が真っ直ぐに届いてくる印象があります。演じる時に大切にされていることはありますか。
「演じている時は、その時の心情や、やらなくてはいけないことに必死なのですが、本番を迎えるまでに、稽古や脚本を読み込む中で役について深めようと努力しています。
その人物に起こっている1つ1つの出来事と、それに対して役がどう感じるかというのはある程度明確にしたいといつも思っています。自分が共感できるようなシチュエーションや考え方であったり、今までの経験だったり、そういうものを借りて、肌感覚での納得感を持ちたいなと思っています。ただそれに寄せすぎると自分が色濃く出てしまうので、自分にはなくて、その役にはあるものは何だろうということも想像していくようにしています」

−今回演じられるジェニーに共感できる部分はどんなことがありそうでしょうか。
「年齢がそこまで離れていないと思うので、この世代の感覚というのは分かるかなと思います。自分は子どももいないですし、結婚もしていないですが、周りにそういった人がたくさんいて、小さいお子さんがいたり、家庭と仕事を両立していたりする人はいるので、そういった方たちと会った時の感覚や、聞いた話が助けになるんじゃないかなと思います」

−葵さんは映像作品でも舞台作品でも幅広くご活躍されています。舞台作品ならではの難しさを感じる瞬間はありますか。
「やはり作品を1ヶ月強かけて身体に染み込ませていくというのは面白さであり難しさだと思います。目の前のお客様だけでなく、1階席の奥にも、2階席の奥にも届くようにという意識はあります。映像からキャリアが始まって、舞台も挑戦してみたいなと飛び込んでから、また新たな挑戦を知りました。挑戦することは怖いことも多いですけれど、その先に素晴らしい経験や、感激するような瞬間があって、それが本当に特別で、幸せなことだなと思います。だからできることがあるなら、これからも舞台に挑戦していきたいです」

−どんな瞬間に“感激”を得られますか?
「できなかったことができるようになるというような、小さな感激もありますし、お客様と一体感が生まれるというのも感激します。1つの作品でカンパニーがこんなにも仲間のようになるんだというのも感動しましたし、自分と役との距離感がここまで近くなることにも味わったことのない感覚で驚きました」

−ご出演されたミュージカル『アナスタシア』ではコロナ禍の中止も経験されました。演劇に対する捉え方の変化はありましたか。
「大きくは変わっていないですけれど、最後まで公演ができることのありがたみや、観に来てくださる方との関係で成り立っている演劇というものの価値は、年々、やるたびに感じるようになりました。本当にやり遂げることって簡単ではないと思うんです。そんな中で最後まで公演を無事に終えることができる意味、重さというのは感じるようになっていると思います」

撮影:山根陽穂、ヘアメイク:masaki、スタイリング:岡本純子

−最後にメッセージをお願いします。
「私自身もまだ未知なる部分が多く、どんな演出になっていくのか、どんな空間になっていくのかとても楽しみです。観に来てくださる方にはできれば前情報なしで、ドキドキを抱えたまま、来ていただけたら面白い体験になるんじゃないかと思います。ホラーサスペンスというのが基盤にある中で、人間関係が描かれる会話劇になっていると思うので、冬ですがちょっとゾクッとする体験を、楽しみにしていただけたらと思います」

『2時22分 ゴーストストーリー』は2026年2月6日(金)から3月1日(日)までシアタークリエにて上演。3月6日(金)から8日(日)に東海市芸術劇場、3月12日(木)から16日(月)にSkyシアターMBSにて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

リアルな舞台空間でのホラー作品というのはかなりドキドキするんじゃないかと思っています…!葵さん演じるジェニーがどんな表情を見せてくれるのか、楽しみです。