初演以来、世界中で再演が繰り返されるミュージカル『シカゴ』。1920年代のシカゴを舞台に、殺人犯の女性たちがしたたかに監獄からの再起を狙うストーリーです。今もなお世界が熱い視線を注ぐ、セクシーでスタイリッシュな本作。映画や舞台をさらに楽しむために、知っておきたい豆知識をまとめました!

作品の基本情報と映画版の特徴とは?

ミュージカル『シカゴ』の主人公は2人の女性。自分の旦那と妹の浮気現場を目撃し、2人を殺したヴェルマと、浮気相手の男性を殺したロキシー。投獄後も「男が悪い」と主張し、世間の関心を悪用して無罪を勝ち取らんとする彼女たちのハチャメチャな人生観を通して、ジェンダーや人生の再起というテーマを炙り出す、不朽の名作です。

『シカゴ』のブロードウェイ初演は1975年。同年に絶賛された『コーラスライン』の人気に押され、演劇賞の受賞には至らなかったものの、1年以上のロングランに成功。演出・振付はボブ・フォッシー氏が担当し、彼の代表作としても有名になりました。

不朽の名作に躍進したきっかけは、1996年のブロードウェイ再演。フォッシー氏の弟子を中心に「フォッシー・スタイル」と呼ばれる独特の動きを受け継いで振付をブラッシュアップし、演出コンセプトや舞台装置も一新されました。翌年のトニー賞で6部門受賞という高い評価を獲得して以降、ブロードウェイ公演は再演としての最長ロングラン記録を更新し続けています。

モノクロームでとことんスタイリッシュにこだわる舞台版に対し、ロブ・マーシャル監督が手掛けた映画(2002)は、登場人物の個性を膨らませた作風。舞台版から厳選したミュージカル・ナンバーを新しい振付とカラフルなセットでミュージックビデオ風に仕上げています。舞台版で削ぎ落とされた要素が補完されて物語を理解しやすいため、『シカゴ』に初めて触れる方も、一度舞台を観た方も楽しめる映画です。

20世紀初頭のジャズエイジに即したパフォーマンスに注目して!

『シカゴ』の初演時の原題は「Chicago: A Musical Vaudeville」。単なるミュージカルではなく、「ヴォードヴィル」と書き足されているところがポイントです。

「ヴォードヴィル」とは、歌や手品、曲芸、コメディなど見せ物要素の強い演劇形式のこと。全盛期だった1920年頃までは、アメリカの主要なエンターテインメントの一つであり、その後のミュージカル映画、舞台の発展にも大きく関わりました。『シカゴ』には随所にこのヴォードヴィルの要素が散りばめられています。

代表的な例は、悪徳弁護士・ビリーがロキシーを弁護し彼女の無罪を主張する場面のミュージカル・ナンバー。「We Both Reached For The Gun」というタイトルで、ビリーが人形を操るようにロキシーを動かし、口パクをさせて腹話術に見せるというコミカルなナンバーです。これはパペットを使ったコメディを彷彿とさせる、なんともヴォードヴィルらしい演出。

こうした要素が当時のジャズエイジらしい雰囲気や、女性たちの裏の顔を強調する仕掛けになっています。他にも、曲の始めに口上が入ったり、手品を披露するかのように大袈裟な表現が突然始まったり。元祖「ヴォードヴィル・ミュージカル」らしい特徴的な表現を探すのも楽しみ方の一つです。

奇才ボブ・フォッシーが手掛けた、セクシーでクセになる振付

二つ目の魅力はフォッシー・スタイルの振り付け。舞台に訪れる観客の中には、洗練されたダンスが目当てという方も多いようです。関節を固定した状態で身体の一部だけを動かすなど、ダンス界の巨匠、ボブ・フォッシー氏のオリジナリティ溢れる振付は本作一番の見どころと言っても過言ではありません。

フォッシー・スタイルは限られた弟子だけがオリジナルの振り付け指導を許され、厳格に受け継がれている伝統芸のようなもの。「シング、シング、シング」や「ビッグ・スペンダー」などが、有名な古典作品として踊り継がれています。厳密には、現在の『シカゴ』の振付はボブ・フォッシー氏の弟子にあたる方の振付ですが、独特の動きはまさにフォッシー・スタイル。目を捉えて離さないセクシーな振付が、黒を基調としたタイトな衣装によって引き立つのも、粋なポイントです。

Sasha

直近の『シカゴ』日本公演は、米倉涼子さんが凱旋出演した2019年の来日版。過去には日本人キャスト版や宝塚OGによる特別公演など、10回以上再演されており、日本でもすっかりお馴染みのミュージカルとして定着しています。現在は日本での公演予定はありませんが、来たる日に向けて、今のうちに映画で予習をしてみませんか?