イギリス最高峰の演劇を日本の映画館で観ることができるナショナル・シアター・ライヴ。屈指の名作を海外に行くことなく楽しめるという、演劇ファンにとっては非常にありがたい機会です。
2021年7月30日(金)から8月26日(木)までは、東京都池袋のシネ・リーブル池袋にて、「ナショナル・シアター・ライヴアンコール夏祭り2021」が開催され、特に人気の高い過去作品が期間限定で再上映されます。前編に引き続き、筆者のおすすめ作品をご紹介します!
戦火の馬(2007年)
イギリス国内で爆発的な人気を博し、エリザベス女王のお気に入りと言われるこの作品。舞台を元にしたスピルバーグ監督の映画も2011年に公開されています。
物語は第一次世界大戦を生き抜く馬のジョーイを中心に進みます。この作品の鍵を握るのは、馬のジョーイを「演じる」巨大なパペット。一頭の「馬」につき3名の役者が操り、息を呑むほどリアルな動きを披露します。
南アフリカのパペット専門劇団が操る「馬」たちは、頭を振り上げ、草原を駆け回り、全身を隅々まで動かして豊かな感情を表現します。一言も発する必要なく、動作だけで主人公を務めあげる職人技にただただ圧倒されました。
シラノ・ド・ベルジュラック (2019年)
宝塚歌劇作品やミュージカル作品として日本でも上演されているフランス発の悲恋物語、『シラノ・ド・ベルジュラック』(以下『シラノ』)。現代風に大幅アレンジし、『XMEN』シリーズで知られるジェームズ・マカヴォイが挑戦した話題作です。
文才に恵まれたものの容姿にコンプレックスを持つ詩人シラノが、美青年のゴーストライターとして意中の女性にラブレターを綴るというストーリー。
これまでの『シラノ』と大きく違う点として、豪華絢爛な衣装やセットを一切使っていないことが挙げられます。非常にシンプルな舞台の上で、最低限の小道具やビートボックスを用いながら、シラノはラップ調の台詞で弾丸のように言葉を放ちます。
「視覚的情報を極限まで取り除くことで、言葉と感情のみが残るようにした」と語られる演出は、演劇の新たな可能性を見せてくれました。1 筆者はこれが初めての『シラノ』観劇でしたが、もうこの演出以外は考えられないと思うほど素晴らしい鑑賞体験でした。(1https://youtu.be/1ans4VlvSjg)
「ナショナル・シアター・ライヴ夏祭り2021」のスケジュールは公式サイトで確認できます。(上映時間は決定次第発表となります) ちなみに筆者はまだここでご紹介した作品をリピート予定の他、好評の『スカイライト』『誰もいない国』『夜中に犬に起こった奇妙な事件』を鑑賞予定です。粒ぞろいの傑作ばかりの「夏祭り」、楽しみましょう!