4人組ロックバンドandropによるバンド演奏と、2人の俳優による演劇が掛け合わさった新たな試み『androp ”music story” act1〜Christmas Radio〜』。「演劇×バンド演奏」で行うことは公表されていたものの、あらすじなどの内容については当日まで明かされていなかった本作。昨年12月23日・24日に恵比寿ザ・ガーデンホールで行われた観劇レポートをお届けします。
演劇×バンド演奏=”music story”
会場はイルミネーションが施された木々や花で彩られ、バンドセットが設置されたステージの他、会場の中心にラジオブースのセットが置かれた小さなステージがありました。物語は主にラジオブースのセットで展開されます。
開演時刻になるとステージ上にandropとサポートメンバーが現れ、楽曲『Know How』を奏で始めます。今から始まる物語と歌詞が関連するのかなと考えつつ、バンドの卓越した演奏力と、2020年以降苦しい時代になった世の中を想起させるような歌詞に一気に引き込まれていきます。
演奏が終わるとラジオブースに明かりがつき女性DJが現れ、突如ラジオ番組が始まります。スペシャルゲストとして、金子杏奈という一人の女性が呼び込まれます。しかし、彼女は自身の名前すらも覚えていない記憶喪失になっていました。
ラジオ番組のプログラムに沿って徐々に彼女の素性が明らかになっていきます。杏奈は15年活動している売れないピン芸人だったことを思いだし、それまでの人生が散々なものだったと語り出します。番組はお便りコーナーに入り、DJは杏奈宛の手紙を読みだしますが、杏奈はそこである事実に気付きます。手紙の差出人は全て亡くなっており、自身も死んでしまっていたのです。
andropが楽曲に込めたメッセージとともに展開する新しい演劇体験
andropの楽曲をベースに脚本が書かれたため、楽曲制作時に込められた想いや歌詞がDJから杏奈へ向けられたメッセージとして物語が展開していきます。また、バンドを「ラジオ番組内で流れる曲を演奏している」と位置付けることで、劇中で違和感なく登場させていることも印象的でした。
また、謎の女性DJ役を松風理咲さん、金子杏奈役を中島亜梨沙さんが演じられました。バンド演奏×演劇という未知の体験ということで、最初観客席も緊張していたように感じましたが、お二人の掛け合いにどんどん引き込まれました。(筆者は最後のラストシーンで感動し泣いてしまいました…。)
演出・構成を手掛けたのは、andropの代表曲『Hikari』が主題歌となったフジテレビ系ドラマ『グッド・ドクター』のプロデューサー、藤野良太さん。バンドに関わりのあるチームが中心となって作り上げられた新しい体験だったと感じ、今後はこのような表現方法も増えてくるのではと思いました。
筆者、実は10代の時からandropのファンなのですが。彼らはずっと楽曲で「光」を表現し、私たちに寄り添ってきてくれました。今回も本編最後に新曲『SuperCar』が演奏され、「どんなにつらいことがあっても、苦しいことがあっても、いつかきっと笑える日が来る」という台詞で締めくくられます。まさしくバンドの本質もみえた公演だったと感じ、クリスマスイヴに心が温まりました。