ミュージカルにも欠かせない“ダンス”という表現。ひとくちにダンスと言っても、情熱的なフラメンコ、優雅なバレエ、かっこいいストリートなど表現方法はさまざまです。そこで今回は、戦争下の捕虜収容所で集められたタップダンスチームの絆を描く韓国映画『スウィング・キッズ』をご紹介します。
観る前に知るべき「朝鮮戦争」という時代背景
作品のあらすじをご紹介する前に、物語の舞台となっている時代背景について知っていきましょう。
第二次世界大戦の後、さまざまな諸説でひかれた朝鮮半島の北緯38度線。このラインによって韓国と北朝鮮は分断され、ふたつの国家になりました。1950年、北朝鮮は国家の統一を目指し武力を使って、韓国に侵略します。
そこに、北朝鮮への制裁として国際連合からアメリカ軍が派遣。これに対抗するべく北朝鮮を支援する中国は義勇軍を送ります。これが本作の時代背景となっている「朝鮮戦争」です。
両者の激しい戦いで捕虜が増えてしまい、同年11月末に巨大な捕虜収容所が設置されました。そこにはアメリカ、北朝鮮、中国の兵士の他に民間人も紛れていたそうです。休戦協議がはじまった1951年7月から、この捕虜収容所内での戦争が激化していきます。これが物語の舞台となる「捕虜収容所」と「登場人物」の背景です。
集められた国籍や身分の違うダンスチーム
捕虜収容所のイメージアップのため、ダンスチームを作ることにしたアメリカ軍の所長。ダンスチームのリーダーには、元ブロードウェイでタップダンサーをしていた米兵のジャクソン。メンバーを集めるためにオーディションを開催します。そこに集まったのが、4カ国語が話せる韓国人女性のヤン・パンネ、生き別れた妻に会いたいという思いで有名になりたい民間人捕虜カン・ビョンサム、見た目とは裏腹にダンススキルのある中国兵シャオパン、そしてトラブルメーカーの北朝鮮兵ロ・ギス。
国籍や身分がバラバラの彼らは、ダンスチームを組みました。その名も「スウィング・キッズ」。しかし、さまざまな苦難が彼らを襲います。ラストに待ち受けるデビュー公演で、彼らは練習を重ねたタップダンスを無事に披露できるのでしょうか。
「××××イデオロギー!」
物語の中で、頻繁に出てくるキーワード、それが「イデオロギー」です。戦争といえば、イデオロギー。イデオロギーといえば、戦争。政治的または社会的立場に制約された考え方のことをイデオロギーと言います。
最初は分かり合えなかった、スウィング・キッズのメンバーたち。しかし、タップダンスの練習を重ねていくうちに、心が通じ合うようになっていきます。そうして、イデオロギーの無意味さに気がつき、怒りを感じ始めるのです。イデオロギーさえなければ、愛する妻と生き別れることはなかった、イデオロギーさえなければ、両親が死ぬことはなかった、イデオロギーさえなければ……。いつの時代も、人々を脅かすのはイデオロギーなのかもしれません。
悲惨なことは全て忘れさせてくれる、魔法の靴
ここまで、本作の時代背景などについてご紹介してきましたが、もちろんメインはタップダンスです!突然、奪われた平和な日常、そんな彼らをいやしたのが、タップダンス。国籍や思想の違う彼らを強い絆で結んだのも、タップダンスでした。どんなに嫌なことがあっても、怒りが込み上げても、その感情をタップシューズが鳴らす軽快な音に乗せて。タップダンスは彼らにとっての魔法だったのです。
上手に踊れなかったメンバーが、徐々に上達していく成長過程や、生活音までタップダンスの音に聴こえるほど魅了されていくシーンなど、見ているこちらも心が弾んでいきます。さらに、敵対する兵士とのダンスバトルのシーンや、反抗していたロ・ギスとリーダーのダンスなど、見どころがいっぱい!
未曽有の出来事、争い、悲しいニュースが続く時代を生きる私たち。今こそ見てほしい作品です。映画『スウィング・キッズ』の視聴はこちら
序盤のタップダンスでのワクワク感と打って変わって、終盤は戦争という時代背景が楽しさを奪っていきます。本作のレビューを見ていると、「思ってた映画と違う!」という声がちらほらありました。 ポスターやチラシのビジュアル、予告編も喜劇かなと思わせる内容ですが、そこは韓国映画。目を逸らしたくなるほどのリアリティも突きつけてきます。(繊細な方は、ご注意を) そんな私も、口角が上がっていたはずが中盤から少しずつ下がっていき、ラストには思わず口があいてしまうほどの衝撃を受けていました。でも、最後の最後に、やっぱりタップダンス最高!という気持ちに。 こうやって、執筆をしていると、またスウィング・キッズのメンバーに会いたくなります。