現代イタリア劇作家ルイージ・ルナーリの代表作を、白井晃さん演出で翻訳上演する『住所まちがい』。別々の目的で1つの住所に集まった3人の男の物語を、仲村トオルさん・田中哲司さん・渡辺いっけいさんが演じます。極限状態で展開される会話劇の行方とは…?(2022年9月・世田谷パブリックシアター)※ネタバレを含みます

3人の男が集まった理由とは?極限状態での会話劇『住所まちがい』

女性との密会が目的の社長、仕事で訪れた大尉、出版書のゲラチェックのためにやってきた教授。全く異なる理由で同じ場所に訪れた3人は、それぞれ相手が“住所まちがい”をしていると主張します。しかし、3人とも何度確認しても住所は合っている。なぜか、3つの住所が存在する部屋。奇妙な状況に首を傾げていると、大気汚染を告げる警報ベルが鳴り、朝まで外に出られないことに。

開かない扉や、開ける人によって異なるものが出てくる冷蔵庫など、次々に起こる不可解な出来事に、社長は怯え、大尉は楽観的に構え、教授は論理的に説明づけようとします。これは神の仕業なのか?そもそも神はいるのか?今は生きているのか、死んでいるのか…。様々な視点で論じられる会話に耳を澄ませていると、段々と社長の懸念が客席にも伝染してくるよう。

すると突然、掃除婦の格好をした謎の女性が現れます。女性の言葉は曖昧で、ただの掃除婦なのか、はたまた神の遣いなのか…。どうとでも取れる言葉たちに、3人と共に翻弄されていきます。

舞台を日本に置き換えたことで起こった違和感

本作は原作のストーリーを踏襲しながら、舞台が日本に置き換えられています。言葉遣いや職業から現代より昔の設定のように思えましたが、社長が密会に訪れたのは“ゲストハウス”だと話していて現代的。舞台のセットはヨーロッパの一室のように見え、時代やシチュエーションを理解しにくく、開演冒頭はあまり作品に没入していくことができませんでした。

また、ワンシチュエーションの会話劇ということで、女性の登場までは3人の男の会話のみで展開していきます。動きの少ない時間が多く、会話の内容も生と死についてなど抽象的な話題が多いため、3人のパーソナリティが見えてくることもほとんどありません。単調に思えてしまう瞬間もあり、ワンシチュエーション・会話劇の難しさを感じました。

しかし、後半は女性の登場により一気に謎が深まっていき、極限状態に慌てふためく大人たちが滑稽に見えるのも皮肉的で面白く、あっという間に結末へ。解釈は観客に委ねられているような結末の描き方も、演劇らしさを感じてにやけてしまいました。

舞台『住所まちがい』は世田谷パブリックシアターにて10月9日まで上演予定。当日券も発売されています。チケット・作品の詳細はこちら

Yurika

奇妙な出来事が続く作品。演出次第でも印象の変わりそうだなと感じました。