明治座・東宝・ヴィレッヂから集まった同じ年齢のプロデューサー3名と、脚本・演出家の倉持裕さんが手がけた音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』。主演に中川大志さんを迎え、シェイクスピアの名作『リチャード三世』をベースに昭和の歌謡界を描く…という異色コラボを目撃してきました。(2022年11月・明治座)
リチャード三世要素をふんだんに感じる主人公・鳴尾定
昭和の歌謡界を席巻する鳴尾一族の中で、ねじ曲がった四肢と醜く引きつった顔を理由にその存在をひた隠しにされてきた息子・定(さだむ)。敬愛する兄・利生(としき)の新作レコードイベントにも出席が許されず、存在することすら疎まれた彼は、次第に一族への恨みが増していきます。一族の監視から逃れた定は闇医者の手を借りて謎の美男子・桜木輝彦としてデビュー、競合プロダクションの女社長・蘭丸杏やチンピラ・徳田誠二らと共に密かに復讐を開始します。
昭和の歌謡界が舞台ではありますが、容姿による強いコンプレックスと復讐心を持つ定は、リチャード三世そのもの。一族からの酷い扱いが大きな要因ではあるものの、何よりも定本人が自身の容姿を憎むことで、考え方や人との付き合い方までをもねじ曲がっていってしまう…。そして一度始まった復讐の悲劇の連鎖は、坂を転がり落ちていくように、自身ですら止められなくなっていきます。
人間の内に秘められた本当の愚かさや、手に負えなくなる悲劇の連鎖といった要素は、シェイクスピア作品、特に『リチャード三世』に込められたテーマとなっています。それを真摯に演じ切る中川大志さんの姿がとても印象的でした。また定の一番の宿敵である父親の鳴尾勲と対峙するシーンでは、父と子の信頼関係や愛を描いた『リア王』も連想させられました。
復讐劇をポップに彩る昭和歌謡の世界
シェイクスピア節の効いた復讐劇と聞くとかなり重い作品をイメージしてしまいますが、本作は昭和歌謡の世界観がたっぷりと表現されていることで、入り込みやすい作品となっています。昭和感漂うテレビショーのセットやカラフルで派手な衣装は、華やかさと共に哀愁も感じられ、それがまた作品全体に漂う哀しみと相まってエモさ全開。
復讐劇が無事に進んでいることに歓喜しながらポップに歌い踊る松井玲奈さん演じる蘭丸杏の姿は、可愛らしい分皮肉的です。
また、数々の作品で誰もが一度は悪役として見たことがあるであろう、山内圭哉さん演じるフィクサー・大松盛男が鳴尾家を支える姿も雰囲気たっぷり。まさに適役です。一方で定らを支えるのは、浅利陽介さん演じるチンピラの徳田誠二。大松の冷静さと怪しさを持つ雰囲気と違い、義理や人情に厚い人柄なのが対照的です。
昭和歌謡とリチャード三世、一見すると異色の組み合わせに思えますが、観劇してみると世界観や物語がぴったりとハマり、実力派俳優陣の演技も加わることで新たな化学反応を目の当たりにしました。
音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』は明治座にて11月30日まで上演中。12月には福岡・大阪公演が予定されています。最新のチケット・公演情報は公式HPをご確認ください。
なんと、中川大志さん演じる桜木輝彦が、12月14日にフジテレビ系列『2022 FNS歌謡祭 第2夜』に出演決定!「彼方の景色」を披露します。作中の昭和スターが令和の歌番組に登場する、というまたとない機会です。こちらもお見逃しなく。