『ドリームガールズ』といえば2006年公開のミュージカル映画が有名ですが、その原作であるブロードウェイミュージカルが日本人キャスト初の舞台化!この「ザ・ドリームズ」を待っていて良かった!と思わせてくれた待望の日本版「ドリームガールズ」の観劇リポートをお届けします。(2023年2月・東京国際フォーラム)※以降、ネタバレご注意ください ※作品についてはこちら

夢見る少女がたったの90分で輝くプロシンガーへ

公民権運動が展開される1960年代のアメリカ。

シカゴでコーラスグループ「ザ・ドリーメッツ」として活動するディーナ、エフィ、ローレルの3人の少女がニューヨークのアポロ・シアターでスター発掘コンテストに参加するところから、物語は始まります。

コンテストの優勝は逃したものの、3人は劇場に出入りするカーティスの計らいで人気ソウルシンガー、ジェームズ・”サンダー”・アーリーのバックコーラスを務めることに。

やがて「ザ・ドリーメッツ」は女性歌手グループ「ザ・ドリームズ」として単独デビューが決まりますが、カーティスはメインボーカルをエフィからディーナに変えて売り出すと言い出しました。

「ザ・ドリーメッツ」のリードボーカルは、抜群の歌唱力を誇るエフィ。ビジュアルの良さで新たなリードボーカルに選ばれたディーナは、「彼女のように歌えない」と弱音を吐きます。

しかし「ザ・ドリームズ」として活動するようになると、ディーナはカリスマ性を発揮してプロシンガーへと成長。名曲「Dreamgirls」のイントロが流れると、センターで堂々とパワフルに歌い上げるディーナに目が釘付けになってしまいました。

ディーナを演じた望海風斗さんは、元宝塚歌劇団・雪組の男役トップスター。スターを夢見るあどけない少女が大人の女性シンガーとしてスポットライトを浴びる成長ぶりを、わずか90分の1幕で見事に演じ分けています。

望海さんが宝塚に入団したのは冒頭のディーナと同じ頃だったそうで、彼女自身の経験もパフォーマンスに生かされているのか、「日本版初演のディーナにこれほどふさわしい人はいないのでは」と思わせるハマり役です。

ディーナと対立するプライドの高いエフィ(福原みほさん)、グループの妹的存在のローレル(saraさん)、後から加入するミシェル(なかねかなさん)の他のメンバーも、ディーナに負けず劣らずの歌声で観客の心を揺さぶります。

力強さと繊細さが交じる4人の歌声に、ショービズに身を投じた女性たちそれぞれの色濃い人生が滲んでいるように感じました。

U-NEXT

男性陣から見えるショービズの闇と光

『ドリームガールズ』を彩るのは、女性陣だけではありません。彼女たちの成功の裏にはマネージャーや作曲を担う男性陣の活躍があり、彼らの生き様、仕事への向き合い方からアメリカのショービズの闇と光を見ることができます。

劇中でショービズへの野心を露骨に燃やしているのは、中古車のカーディーラーから「ザ・ドリームズ」のマネージャーとして音楽業界に台頭するカーティス(spiさん)。彼は「白人に抑圧されず黒人の手で新しい音楽を作る」という夢を掲げていたはずが、次第に金儲けのためなら手段を選ばない野心家に変貌します。

一方、ショービズの闇を知りながらも人情を大切にしているのが、ジェームズ・”サンダー”・アーリーのマネージャーを長年勤めたマーティ(駒田一さん)です。彼は「ザ・ドリームズ」を脱退してあぶれたエフィを支援し、知り合いのプロデューサーに彼女がデビューできるよう掛け合っていました。

儲けを優先するカーティスと、優秀な才能を見捨てないマーティ。2人の異なる仕事ぶりを闇と光のように対象的に演じていたspiさんと駒田さんが、作品にショービズ界のリアリティを与えています。

早着替えで次々変わる衣装、輝くミラーボールなどの華やかな演出に、客席からでも「ザ・ドリームズ」と一緒にエンターテイメントの夢を見ている気持ちになりました。華々しく産声を上げた日本版ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』は、東京公演の次は大阪、福岡、愛知を巡演します。

さきこ

ブロードウェイ版では主要人物をアフリカ系アメリカ人が演じることが多いそうですが、それを特殊メイクなしで明確に表現している点にも脱帽です。