“目を見張る美しさ、息をも忘れる愛”と銘打たれている通り、圧倒的な世界観に多くの観客が魅了された『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』。2023年の初演に引き続き、6月20日から帝国劇場で上演されます。本作でクリスチャン役を務める甲斐翔真さんに、本作の魅力と再演への想いを伺いました。

パリに赴き、リアルに得た感覚を活かして

−昨年日本初演を迎えた『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』。徐々に大きな盛り上がりを見せていきましたが、どのように反響を受け止めていましたか?
「日本のお客様は静かにじっと観られる方が多いという印象があったので、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』がどう受け入れられるかというのは、僕たちも不安だったんです。でもいざ初日を開けてみるとお客様も大変盛り上げてくださり、千穐楽には1つのショーが完成したような感覚があったので、とても嬉しかったですね。日本で行われるミュージカルでもここまで盛り上がれるんだという成功体験は、とても大きかったと思います」

−そして今年、すぐに再演となりますね。
「1年スパンで同じ作品に出演するということはほとんどないので、初演で得たものを失わないままやれるというのは凄く贅沢ですね。しかも昨年フランスのパリに行って、ムーラン・ルージュでショーを観たり、街並みを歩いたりしたので、初演では想像だったものが、自分の中にあるリアルな感覚があることで、変化はたくさんあるはずです」

−パリに行ってみて、どのような印象を受けられましたか。
「思っていたよりもみんながせわしない印象で、そういう意味では、東京と似ているかもしれません。街にいると、パリの人たちの格好や佇まいから、ファッションや芸術の都だと言われる自負があるというのが分かります。世界中からセンスを求められる国だけれど、フランス人もそれに負けじと応えようとしている感じ。やっぱり芸術が生まれるど真ん中の場所だなという印象を受けました」

−ムーラン・ルージュはいかがでしたか?
「本当に熟成されたショーと言いますか、ありとあらゆるエンターテイメントの根本のような気がしました。120年以上前にムーラン・ルージュが生まれた時はカルチャーショックだったと思いますし、これを見た人たちが発想を膨らませて、また新しいエンターテイメントを創ったんだろうなと思います」

−まさにクリスチャンのような体験をされて、エンターテイメントの世界で生きる甲斐さんご自身への刺激も多くありそうですね。
「ムーラン・ルージュはエンターテイメントという不安定な世界で、同じ場所で120年もの間ショーをやり続けて、ファンがたくさんいるわけですよね。飽きのこない、世代を超えたものの凄さというのは行ってみて実感しました」

−クリスチャンの役作りへの影響はありそうでしょうか。
「実際にムーラン・ルージュを観て、モンマルトルの丘に行って、画家や音楽家たちの姿を見たことで、セリフがより具体的なイメージになるし、冒頭のクリスチャンの語りもより現実に近いような感覚になると思うんです。それによってお客様の感じ方が変わる部分もあるかもしれない。初演より、役作りはしやすくなるだろうなと思います」

世界中で上演されている作品には、必ず理由がある

−初演ではどのように作品作りに向き合っていらっしゃいましたか。
「初演では、とにかく作品を分解して、作者が意図した作品の面白さを細かく考えていきました。世界中で上演されている作品には、必ず理由がある。それを考えて汲むことに楽しさを覚えるんです。歌が上手い、演技が上手い、ダンスが上手いということ以上の感動を創って、約3時間もの時間お客様を作品へのめり込ませるためには、シーンの分析や全体の中の自分のバランス、演技や歌などの匙加減を考える必要があると思います」

−再演ではどのように作品作りをしていきたいと思われますか。
「目で見て音で聞いて楽しい作品で、衝撃的に美しいセットも大きな魅力ですが、今年は、お客様もより作品としての中身に注目してくると思います。だからこそ、もっと面白くできる方法はないのか。リアルにパリで感じたことも含めて、もう一回作品を組み立て直していきたいですね」

−クリスチャンを演じる面白さはどこに感じられていますか?
「クリスチャンは物語の中で時間軸を超えて、最終的に現在にいるというのが面白いです。最初はストーリーテラーとして、サティーンというかけがえのない人を失ったところから始まって、2人で過ごした夢のような時間を振り返っていき、最後にサティーンと一緒に作った歌を1人で歌っていく。サティーンの物語を届けたいという想いが最初にあって、毎公演自然と役が走り出すと言うか、そこは面白いしやりやすい部分かもしれません」

−本作は多くのアーティストが訳詞に参加するという新たな試みも話題となりました。甲斐さんが好きな歌詞はありますか?
「たくさんあるのですが、クリスチャンとして面白いと感じるのは「Crazy Rolling」です。世界的に有名な楽曲を日本語にすることでまた異なる見せ方が出来ていると思いますし、普段のクリスチャンなら絶対に言わないであろう、“暗闇ごと飲み込んでやる”という歌詞が印象的です。自分の中に炎が燃え上がってきて、どんどん鎮火できなくなってしまう。この世の全てを飲み込んでやろうという感情の盛り上がりが一曲で表現できているのは、凄く好きですね」

クリスチャンとは「好きなものに対するパワーが似ている」

−クリスチャンとご自身との共通点はありますか?
「クリスチャンは家族と離れて、当時は厳しい航海を何ヶ月も乗り越えて、パリに来たわけですよね。そういった好きなものに対するパワーというのは、似ていると感じます。興味があるものに対して掴みたくなるし、それ以外のものはどうでも良いと感じてしまう。そのくらい求めていける人は魅力的だとクリスチャンを演じていて思いますし、僕もそうありたいと思います」

−『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』はカンパニーとしての結束力も高いように感じます。
「トニー賞を獲ったばかりの作品に参加できている、この作品を育てるための一部になっているという誇りがあるんだと思います。全員がオーディションで役を勝ち取っていますし、みんなの目を見ているとプライドを持って作品に臨んでいるのを感じます。世界中で本作が上演している中で、日本でミュージカルに携わる俳優がここまで行けるんだというのをお見せしたいという気概もあるんじゃないでしょうか」

撮影:山本春花

−今年は昨年の反響を受けて、観てみようと思った方も多いと思います。
「昨年の盛り上がり方は凄く理想的でしたよね。昨年は物理的に観られなくて、今回観に来る方もいらっしゃるかもしれませんし、昨年盛り上がった『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』はどんな作品なんだろうと観劇される方もいるだろうし、1年間待っていましたという方もいらっしゃると思います。僕らも皆さんに観ていただけることを楽しみにしながら、稽古したいと思います」

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』は6月20日(木)から8月7日(水)まで東京・帝国劇場、9月14日(土)から9月28日(土)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演。公式HPはこちら

Yurika

ミュージカル愛のある情熱的な方というイメージでしたが、お話ししてみると冷静さや分析力の高さもお持ちの方なのだなと感じました。リアルなパリの街並みを見た上で創り上げる今年のクリスチャンも楽しみです。