俳優・安田顕さんが企画・プロデュースする二人芝居『死の笛』。ご自身が出演したドラマ『初恋の悪魔』を手掛けた脚本家・坂元裕二さん、演出家・水田伸生さんと、ドラマで共演した林遣都さんを迎え、新作舞台を上演します。

奇妙な2人が育む友情の先にあるものとは?

森の中にある小屋の前に現れるカノオ(安田顕さん)とウスダ(林遣都さん)。2人はキャベツを切ったり、大根を鍋に入れたりと、調理場で作業をしているようです。2人は「キコエル、シタカ?」などチグハグな日本語で、まるで文法を学びきれていないロボットのよう。

ウスダはカノオに近づこうとしますが、カノオは、2人は戦地の厨房で働く兵士であり、敵同士であることを伝えます。2人の国は、地下鉄を巡って戦争をしているのだ、だから境界線を越えてはならないのだと。

しかし戦地で働かず電話だけ寄越して命令してくる上司に憤るカノオを見て、ウスダは笑顔に。やはり自分たちは「同じ労働者」だと言うウスダに、カノオも徐々に心を開いていきます。

人間離れした2人のキャラクター性は、言葉遣いはもちろん、目の見開きや細やかな体の動きなど細やかな仕草からも、草月ホールの臨場感ある劇場だからこそひしひしと伝わります。

ただそういった異質性とは裏腹に、「働きたくない」と駄々をこねるウスダの姿には人間味があり、2人のコミカルなやり取りに段々と惹きこまれていきます。ウスダが好きな相手であるリップルさんに近づけるよう、カノオがダンスのワルツを教える姿は愛らしさも感じられるシーン。観ているうちに“人間かどうか分からない何か”から、“私たちに限りなく近い何か”に見えてくるのが不思議です。

また本作の非現実的要素とは対照的に、演出にはリアルさがあります。キャベツや、キャベツを切る包丁は本物で、そこには確かに“キャベツを包丁で切るカノオ”が存在するのです。

ウスダは“死の笛”を持っており、笛を吹くと死んでしまうと言いますが、カノオはただの笛だと一蹴します。しかし夜になると、カノオは気づいたら笛を手にしていて…。

カノオとウスダは何者なのか。死の笛とは何なのか。2人はどこに向かうのか。ワンシチュエーションで魅せ続ける安田顕さん・林遣都さんの演技は圧巻。予測不可能な展開が、劇場で待ち受けています。

撮影:村松巨規

TEAM NACS Solo Project 5D2 -FIVE DIMENSIONS II-『死の笛』は7月5日(金)から7月14日(日)まで東京・草月ホールにて上演。その後、札幌・大阪にて上演が行われます。公式HPはこちら

Yurika

演劇は面白い。そう改めて感じさせてくれる、観た後にそれぞれの感想を語り合いたくなる作品です。