19世紀末にロシアの劇作家アントン・チェーホフによって執筆された『桜の園』。2023年8月に、昨年『セールスマンの死』を手がけたショーン・ホームズさんの演出、サイモン・スティーブンスさんが脚色を加えた台本によって新たな『桜の園』が誕生しようとしています。

現代にも通じる『桜の園』の人間味溢れる登場人物たち

『桜の園』は、ロシアの劇作家アントン・チェーホフによって1903年に描かれた戯曲。「チェーホフ四大戯曲」のうちのひとつであり、彼が生涯最後に執筆した戯曲です。全4幕、“喜劇”として描かれた本作は、約120年経った現在も世界各国で様々な翻案と演出によって上演され続けてきました。

20世紀初頭の南ロシアを舞台に、破産の危機にあり競売にかけられようとしている“桜の園”をとりまく人々の様子を描いています。

『桜の園』は、領主のラネーフスカヤが、娘のアーニャと娘の家庭教師シャルロッタと共に、5年ぶりにパリから帰って来る場面から始まります。
留守の間、兄のガーエフに領地を任せましたが、彼に経営の才能はなく、養女のワーリャが取り仕切るも、負債は膨らむばかり。借金返済のため、銀行は8月に領地である“桜の園”を競売にかけようとしています。

“桜の園”の農夫の息子・ロパーヒンは今や実業家。「桜の木を切り払い、別荘地として貸し出せば、競売は避けられる」と助言するも、美しい“桜の園”を誇りにするラネーフスカヤとガーエフは真剣に受け止めません。

一方、以前より管理人のエピホードフから求婚されていたメイドのドゥニャーシャは、ラネーフスカヤに仕えてパリで暮らしていた召使ヤーシャに惹かれるようになっていました。

アーニャは、大学生であるトロフィーモフが抱く新しい思想に触れて、“桜の園”の外で新しい生き方を選ぶことを考え始めます。
新しい時代を見据えて変革をいとわない人々と、落ちぶれても過去に縋り続け、時代の波に取り残される領主貴族たち。彼らが向かう先は一体…。

『セールスマンの死』を手がけたショーン・ホームズ率いる注目のクリエイター陣

今回は、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』や昨年日本でも上演された『ハイゼンベルク』などで知られているサイモン・スティーヴンスさんが、2014年に発表したアダプテーション(脚色)版を元に上演が行われます。現代の俳優の語り口としてふさわしい軽妙な台詞に書き換えた台本で、今回日本上演に向けて更に推敲されたのだそうです。

演出を務めるのは、現在、イギリス・ロンドンのグローブ座(Shakespeare’s Globe)のアソシエイト・アーティスティック・ディレクター(準芸術監督)を務め、2022年春にPARCO劇場で上演された近代古典の名作『セールスマンの死』では、高度経済成長期の資本主義の歪みを重ね合わせた斬新な演出で、高い評価を得たショーン・ホームズさん。


2020年の『FORTUNE』ワールドプレミアでの初登場以来、日本での演出は今回で3回目となります。ショーン・ホームズさんへのインタビュー記事(『セールスマンの死』を手がけた演出家ショーン・ホームズが語る、次回作『桜の園』上演の意義と展望)はこちら

美術・衣裳には『セールスマンの死』の美術で鮮烈なインパクトを残したグレイス・スマートさん。
そして、翻訳に広田敦郎さん、ステージングに小野寺修二さん、音楽にかみむら周平さんと、『FORTUNE』『セールスマンの死』に続いて、日本のクリエイターと組んで生まれる世界観に注目です!

チェーホフ作品を演じるに相応しい多彩な俳優陣が集結

女主人のラネーフスカヤを演じるのは、確かな演技力で日本アカデミー賞など受賞歴多数の日本を代表する女優の原田美枝子さん。2019年の『MOTHERS AND SONS~母と息子~』以来、4年ぶりの舞台出演となります。

チェーホフの作品には、『かもめ』アルカージナ役と『三人姉妹』マーシャ役で出演経験のある原田さん。
「男達が歴史を動かすようなシェークスピアの芝居とは違って、一つの家族に起こる出来事をきめ細かく描くチェーホフの世界には独特の面白さがあります。昨日まであった普通の生活が一変してしまった、現在のロシアとウクライナの状況も重なり、今を生きる私たちにも通じる『桜の園』になるといいなと思っています」とコメントしています。

幼少からラネーフスカヤを慕っていた実業家のロパーヒン役は、コミカルな演技と軽妙なトークが人気の八嶋智人さん。八島さんは本作と自身の役について以下のようにコメントしています。
「『桜の園』はチェーホフが仕掛ける、時代が大きく変化する時の人間の業をぎゅっと濃縮した悲しいまでの喜劇。その中でもロパーヒンをやるなんて緊張と興奮です。宇宙から俯瞰するように、この作品をさらに普遍的なモノにして皆さんにお届けできると信じています」

新しい思想でアーニャに影響を与えるトロフィーモフ役は、ミュージカルから小劇場作品まで多彩に活躍し、昨年末には第57回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した成河さん。

チェーホフ作品は今回が初挑戦となりますが、チェーホフの作品について、「これまで国内で色々なチェーホフの上演を観てきましたが、その文学的価値以上に上演を心から楽しめるというのはなかなか稀で。現代化、適切に日本語化するというのがとても手強い印象」と話します。

「まだ誰も見たことのない、スリリングでダイナミックな『桜の園』を目指すショーン、その一助たるべく、繊細な思考と大胆な姿勢で臨みたいと思います」とコメントしました。

養女ワーリャ役は松尾スズキさん演出の『命、ギガ長ス』や、木野花さん演出の『阿修羅のごとく』など、話題の舞台での好演が記憶に新しい安藤玉恵さん。

娘のアーニャ役は、ドラマ『アイシテル~海容~』で東京国際フェスティバル東京ドラマアウォード2009 新人賞を受賞。舞台『キングダム』への出演も話題となった川島海荷さん。

管理人のエピホードフ役はショーン・ホームズさんの日本での演出作『FORTUNE』『セールスマンの死』に続き3作目の出演となる若手実力派俳優の前原滉さん。

娘の家庭教師シャルロッタ役は、独特の存在感で観客を魅了しており、ミュージカル『おとこたち』への出演も記憶に新しい川上友里さん。

パリに同行していた若い召使いヤーシャ役は舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』にロン・ウィーズリー役で出演し注目を集めた竪山隼太さん。

メイドのドゥニャーシャ役は栗山民也さん演出『ザ・ドクター』など舞台での好演が続いている若手個性派俳優の天野はなさん。

近所の地主ピーシチク役は、味のある確かな演技で数々の舞台に出演し、2017年の三谷幸喜版『桜の園』ではロパーヒンを演じた市川しんぺーさん。

兄のガーエフ役を演じるのは多彩な才能で、TV、ラジオだけでなく、映画、舞台、イベント、エッセイ、イラスト、はたまた折り紙など、幅広い分野で活躍、『鷗外の怪談』で第56回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第29回読売演劇大賞 優秀男優賞を受賞した松尾貴史さん。

老召使フィールス役は『獣唄 2021改訂版』『にんげん日記』にて第29回読売演劇大賞で優秀男優賞を受賞した稀代の名優の村井國夫さんが演じます。

PARCO劇場開場50周年記念シリーズ作品『桜の園』は8月8日よりPARCO劇場にて上演(8月7日プレビューオープン)。詳細は公式HPをご確認ください。

ミワ

人々に広く知られている作品の一つである『桜の園』。どのように現代の言葉へと書き換えられているのか、現在のロシアとウクライナの状況の中で本作を観て何を感じるのか、とても興味深く思います。