作・歌詞・音楽プロデュースを森雪之丞さん、演出を岸谷五朗さんが手がけ、屋良朝幸さんと中川晃教さんがブロードウェイでの成功を夢見る作詞・作曲家コンビを演じるミュージカル『SONG WRITERS』。2013年の初演、2015年の再演を経て、約10年ぶりに待望の復活公演が行われます。11月6日の初日を前に、囲み取材と公開ゲネプロが行われました。

2人の出会いは「運命的」。愛情溢れるカンパニーで再々演へ

囲み取材には、屋良朝幸さん、中川晃教さん、実咲凜音さん、武田真治さん、森雪之丞さん、岸谷五朗さんが登壇しました。

森雪之丞さんは「47年間、“ソングライター”をやっている森雪之丞です」とご挨拶。「ただミュージカルに目覚めたのは今世紀に入ってからなので、ちょうど20年になるんですけれども、色々な訳詞・作詞の仕事をしているうちに、自分で物語を書いた方が歌・芝居の流れが作りやすいだろうということで、日本のオリジナルミュージカルを作ってみようと思ったのが2013年でした。ブロードウェイを舞台にした作品というわけなんですけれども、岸谷五朗は僕のブロードウェイの先生で、2人で2〜3ヶ月一緒にブロードウェイで観劇三昧の日々を過ごした中から、この物語が生まれました」と本作の誕生を振り返ります。

再演にあたって「みんなに勇気を与えることができると思うので、クリエイターの方も制作陣の方も、そしてもちろんキャストの方も、勇気を持ってこれから日本のオリジナルに挑んでいただきたい」と日本のオリジナルミュージカルの先駆者としての想いが語られました。

演出の岸谷五朗さんは「10年以上前の作品の再演ができるというのはご褒美を頂いたような気持ちで、本当に明日の初日が楽しみです。こんなに初日が楽しみなことはなかなかないですね。いつもは不安の方が多いんですが、やっぱりこの素晴らしきキャストたちがめちゃくちゃ面白くて。雪之丞さんの書いたキャラクターたちが命をもらってキュートに輝いています」と笑顔で語ります。

屋良朝幸さんは「もちろんお客さんの前でパフォーマンスをするためにやっていたんですけども、稽古場が楽しすぎて稽古終わって欲しくないと思っちゃったんです。こんな気持ちになったことはないです。吾郎さんと稽古場で戦っている時間がむちゃくちゃ楽しくて、あと1ヶ月はそれで楽しめたんじゃないかな。そのぐらいのものが詰まった作品になっているんじゃないかなと思っています。公演を重ねるごとに、さらにブラッシュアップしていけると思うので、それが舞台の醍醐味でもあるし、千秋楽までにまた僕たちがどう変わっていくか、皆さんに観ていただきたい」と語り、稽古場で濃密な時間を過ごしたことが伺えました。

中川晃教さんは「2013年の初演の時を今も思い返しながら、一瞬一瞬が愛おしい、そんな日々を過ごさせていただいています。舞台っていうのはこんなにも愛おしいものなんだっていうことを教わっているような作品です」と愛を語りました。また囲み取材当日は中川さんの42歳のお誕生日。初演時には公演中に30歳から31歳になられたため、「自分の年代を振り返りながら、今という時間に感謝できる。それもまた、この作品や舞台、ミュージカルが私に教えてくれていることなんだなと。そういう全ての思いを込めて、愛おしい作品になっています」と本作との深い縁が明かされました。

実咲凜音さんは「始まるまでは不安や、自分がやることで一杯一杯になる部分もあるんですけれど、わくわくの方が断然大きくて。私は初めてこの作品に入らせていただくのですが、マリーは舞台上を駆け回っていて、こんなにハードだったんだと感じています。お三方(屋良さん・中川さん・武田さん)は本当に良い意味で、ワイワイしている姿が小学生みたいなんです(笑)。その心の若さが作品にパワーを与えてくださっていて、お稽古場も本当に楽しかったです」と笑顔で語り、屋良さんも「褒め言葉として受け取ります」と笑顔で応えられました。

武田真治さんも「稽古場がこんなに楽しい作品ってあるかなっていうくらい楽しい時間ですし、学びも多く、充実した稽古期間を過ごすことができました」と稽古を振り返り、本作の出演について「再演で自分自身はやりきったと思っていたんですけれど、雪之丞先生の綿密に練られた脚本はまだまだ深掘りするべきところがたくさんありました。キャストでもう一度そういうところを膝を突き合わせて探り合い、圧倒的なリーダーシップを持つ五朗さんに演出していただいて、パワーアップした舞台を届けられるのではないかと思います。ご期待ください!!」と力強く語りました。

2013年に本作の初演で出会った屋良朝幸さんと中川晃教さんはお互いの出会いについて「運命的」と口を揃えます。中川さんは「自分にないもの、そして自分が手にしたいと思うものをたくさん持っている運命の人」と愛情たっぷりに語り、屋良さんは照れながらも、「僕にないものを持っているというのは同じ。アッキーは器用じゃないからこそ綿密に台本を紐解いていって、分からないところがあるとストップするような動物的な感覚もあって。僕は分からなくても動けちゃう部分があったので、アッキーを羨ましく感じた部分がありました。アーティストとしてのアッキーも昔から知っていたので、2人が絡むとこんなに面白くなるんだという発見が多いし、同年代というのも大きいです」と想いを語りました。

それぞれがリスペクトし合う現場であることがひしひしと伝わる『SONG WRITERS』カンパニー。森雪之丞さんから、「クリエイターとしては僕がこの世にいなくなっても作品が残り、演じ継がれていくことが最高のことなのですが、今回本当に、このキャスト以外考えられないと思ったんです。ひょっとしたらもうこの作品はこれで終わってもいいのかなというくらい…困ったものです」と最大級の賛辞が贈られました。

「言葉が舞いあがるためには音楽っていう風が吹いてなきゃだめなんだ」

ブロードウェイでの成功を夢見る作詞・脚本家のエディ・レイク(屋良朝幸さん)と、作曲家のピーター・フォックス(中川晃教さん)。自信家なエディと気弱なピーターは正反対の性格ですが、幼馴染で運命的に出会い、作詞作曲に勤しんでいます。

ある日、音楽出版社のディレクターであるニック・クロフォード(武田真治さん)はボスが2人の楽曲「秘密があれば」を気に入り、契約しても良いと言っているという“グッド・ニュース”を持ってきます。しかし条件は、1年以内にミュージカルを完成させること、また「秘密があれば」を女性ヴォーカルで聴かせること。

そこにエディが偶然知り合ったマリー・ローレンス(実咲凜音さん)が現れ、「秘密があれば」を妖艶に歌い魅了します。彼らが求めていたディーバが見つかったは良いものの、彼女はニューヨークに出てきたばかりで、喋ると南部訛りが出てしまうのでした。

エディは本格的にミュージカル製作に取り掛かり、マフィアのボスであるカルロ・ガンビーノ(コング桑田さん)と、内通者の刑事ジミー・グラハム(相葉裕樹さん)、ジミーの元恋人で現在はカルロの情婦のパティ・グレイ(青野紗穂さん)の物語を描き始めます。しかしエディがハッピーエンドを書こうとしても、物語は勝手に悲劇へと進んでいってしまい…。

自信満々でお調子者のエディの人物像をダイナミックなダンスと共に創り上げる屋良さんと、心配性で愛らしいピーターをピアノ演奏と共にまさに「天使の歌声」で魅せる中川さん。お2人の魅力が楽曲とキャラクター性に詰め込まれた本作は、囲み取材でも語られた通り“運命的”だと感じます。異なる強みを持つ2人の才能が合わさった時の輝きは、本作の大きな軸となっているでしょう。

実咲凜音さん演じるマリーは“南部訛り”が可愛らしいコミカルな姿と、歌うと一変して艶やかさを魅せるギャップが魅力的。実咲さんの華やかな身のこなしに目を惹かれます。

武田真治さん演じるニックやコング桑田さん演じるカルロは個性たっぷりに、本作のユーモアさを牽引。本番ではアドリブ合戦になりそうなシーンも…!

一方で相葉裕樹さん演じるジミーと青野紗穂さん演じるパティの恋模様はしっとり切なく。と思いきや、エディの頭の中での脚本は行ったり来たりを繰り返すため、時にコミカルな一幕もあります。

相葉裕樹さんは数々のミュージカル作品に出演してきた経験値の高さ、歌唱力・演技力の安定感が抜群。青野紗穂さんはダンスのキレの良さや歌唱力の高さが光ります。青野さんは14歳、中学生の頃にアポロシアターで優勝した経験を持ち、アーティストとして活動。2015年に藤田俊太郎さん演出の『人魚姫』で初舞台・初主演を務め、2017年にミュージカル『RENT』でミミ役を務めています。ジミーとエディの2人のシーンの数々からも、本作には歌・ダンスの才能あふれるキャストが集結しているのだと改めて感じさせられます。

そして本作は作曲をKO-ICHIROさん(Skoop On Somebody)、さかいゆうさん、杉本雄治さん、中川晃教さんが担当し、振付を藤林美沙さんが担当。キャストだけでなく、クリエイター陣も多彩な才能を持つメンバーが集い、唯一無二の作品性を創り出しています。

楽曲はミュージカルソングながらも歌謡曲のような馴染み深さもあり、体を揺らして聴きたくなる楽曲ばかり。キャッチーなメロディーに、本作のキャッチコピーとしても使用されている「この世に100の悲しみがあっても101個目の幸せを書き足せばいい」というフレーズを始め、「言葉は翼 音楽は風」、「愛はいつも愚かなもの その痛みで愛があったと気付く」など珠玉の歌詞が散りばめられています。

藤林美沙さんの振付は、屋良さんはもちろん、実咲凜音さんの実力を遺憾無く引き出し、お2人を筆頭にキャスト陣が怒涛のダンスナンバーで魅了します。カラフルな衣装や、岸谷五朗さんらしいエネルギッシュでエモーショナルな演出も、本作の魅力です。

現実を忘れる華やかな世界を堪能した後、劇場を出て“現実の国”に戻る私たち。それでもきっと現実でも「ハッピーエンドが待っている」と信じたくなるような、温かく私たちに寄り添ってくれる作品となっています。

ミュージカル『SONG WRITERS』は11月6日(水)から11月28日(木)まで日比谷シアタークリエにて上演。その後、12月7日(土)8日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホール、12月11日(水)に愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホールにて上演されます。公式HPはこちら

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Yurika

コミカルで華やかで楽しい時間が続きながらも、ホロリと泣きそうになる温かさもあるからこそ、多くの観客に愛される作品なのだと感じました。