2024年12月11日(水)~15日(日)まで東京の中野ザ・ポケットにて上演された舞台『苦闘のラブリーロバー』。佐野瑞樹さんのプロデュース企画SitcomLabの第6弾となるワンシチュエーションコメディ作品です。12月15日に、お試し価格のワンコインチケットで観劇した筆者がレポートをお届けします。

ワンシチュエーションコメディで日本一を狙う 佐野瑞樹 脚本・演出作品

『苦闘のラブリーロバー』は2010年に演劇集団イヌッコロによって初演されたワンシチュエーションコメディ。その後、さまざまな劇団で上演されてきました。初期の脚本・演出は羽仁修さんとなっていますが、これは当初佐野瑞樹さんが非公開としていたペンネーム。2022年に公開されてからは佐野瑞樹の名義で活動しています。

ワンシチュエーションコメディとは、ひとつの場所や状況で物語が完結するコメディのこと。佐野さんは、ワンシチュエーションコメディをメインに脚本を書いており、このジャンルでの日本一を密かに狙っているそうです。『苦闘のラブリーロバー』は作品のファンも多く、再演のたびに違うキャストで楽しめるのも魅力です。

シェアハウスで起こるすれ違いと勘違いの90分

『苦闘のラブリーロバー』はシェアハウスで起こるすれ違い・勘違いと、そこに忍び込んだ泥棒の密かな格闘を描いたワンシチュエーションコメディ。

クリスマス前夜、6人が住むとあるシェアハウスの共用のテレビが壊れていまいます。タイミング良く、隣の家から盗んだ液晶テレビを抱えた泥棒がシェアハウスに侵入。ばったり住人のひとりであるゆっきーに遭遇してしまいますが、ゆっきーは泥棒を電気屋と勘違い。その後も入れ替わって遭遇する住人たちの勘違いとすれ違いに合わせながら、泥棒は自分の身を守ろうと一人で格闘します。

脚本の素晴らしさに感動し、最終的にどう終わるのか気になりながらも目の前で繰り広げられる勘違いの連続には笑いがこらえきれません。何重にもなる嘘に、泥棒自身も自分の設定が整理できなくなり、「そんなのもあった」と思い出すシーンには爆笑してしまいました。またシェアハウスの住人は、個性豊かなキャラクターばかり。今回筆者は初めて知る役者さんばかりでしたが、それぞれのキャラが活かされ皆さんが適役だったと感じるほど、シェアハウスの住人に愛着が湧きました。

お試し価格の500円チケットで観劇!

筆者が今作を知ったきっかけは、1995年にドラマ『金田一少年の事件簿』に出演されていた佐野瑞樹さんが、現在ワンシチュエーションコメディの脚本・演出・出演までこなしているという情報を見つけたこと。しかし実際に観劇に行こうと背中を押されたのは、500円という破格のチケット代金でした。

今回上演された『苦闘のラブリーロバー』のチケット代金は、プラチナ席(特典付き)12,000円、S席(特典付き)5,000円、A席2,000円、ワンコイン席500円という価格設定。小劇場といえども500円で観劇できる機会にはなかなか巡り合えません。sitcomLabでは応援招木カードや応援お弁当、グッズ販売などでこのA席やワンコイン席を支えているとのこと。作品に興味を持った方に入りやすい扉を作ることで筆者のように新しい観客が増え、そこから作品のファンが増えていくのは素晴らしいことだと感じました。

登場人物がロビーで怪しいパワーグッズを物販!?

『苦闘のラブリーロバー』を観劇して、筆者が心を惹かれた企画がもうひとつあります。それは作品内に登場する人物が実際に、開演前のロビーでグッズを販売していたことでした。今作に登場するシェアハウスの住人ごとぅは、独特な空気を放ち怪しいパワーグッズを高く売りつける詐欺師のような人物。滅多に部屋から出て来ないため、住人の中でもレアキャラとして扱われていました。そんなごとぅを演じたのは今作の脚本・演出を手がけた佐野瑞樹さん。

佐野さんは開演20分前になるとごとぅの衣装を身にまとい、隣人の菜月役を演じた小澤暢子さんと共にロビーに登場。並んでいる購入者のことを信者と呼び、ごとぅの世界観を崩さない佐野さんにロビー内にも笑いが起こります。販売されている天使の羽根、パワーブレスレッド、光の石は500円~5,000円と意外にも良心的なお値段。購入すると佐野さんが演じるごとぅに、「必ず神のご加護があります!」と謎めいたセリフを言われます。そして購入したグッズは佐野さんが身に付けたままお芝居をして、90分のパワーを溜めて終演後に返却してくれるという仕組みです。このおもしろい企画に筆者も便乗し、天使の羽根を購入しました。終演後はパワーアイテム、そして思い出として大切に保管してあります。

さまざまなアイデアが満載だった今作。たくさん笑ってさっぱりした気分だったのですが、帰宅後にシェアハウスの住人たちが恋しくなり、またいつか会いたいという気持ちにさせられました。

sitcomLabは次回作として、2025年3月5日(水)~16日(日)まで中野ザ・ポケットにて『ご町内デュエル』を上演。詳細につきましては、sitcomLabのLit.Linkをご確認ください。

かずちぃ

佐野瑞樹さんプロデュース企画のsitcomLabの次回作『ご町内デュエル』も、ワンコインではありませんが2,000円で観劇できるチケットが販売されています。興味のある方は是非一度中野ザ・ポケットまで足を運んでみてはいかがでしょうか。