『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『メリー・ポピンズ』『マリー・アントワネット』『マチルダ』『ベートーヴェン』など数々のミュージカル作品に出演する小野田龍之介さん。3月12日に開幕するミュージカル『20世紀号に乗って』では主人公オスカー・ジャフィに振り回されながらも彼を支え続けるオリバー・ウェッブを演じます。作品の魅力や、小野田さんだからこそ出来る役作りの仕方、今後の展望まで、たっぷりとお話を伺いました!

ザ・ブロードウェイなコメディミュージカル。“ミュージカルやっているな!”と感じます

−ミュージカル『20世紀号に乗って』のお稽古が進んできていると思います。どんな作品になりそうでしょうか。

「ブロードウェイ版や日本でも宝塚版・宮本亜門さん演出版などがありますが、今回はクリス・ベイリー演出版として新たに作り直しているので、ほぼ初演を作っているような感覚ですね。幕の始まり方もこれまでのものとは異なります。昔ながらのコメディミュージカルで、一生懸命生きているだけで面白いキャラクターたちが集まった作品なので、馬鹿馬鹿しい感じを楽しんでもらえれば良いなと思っています」

−オスカー役の増田貴久さん、オリバー役の小野田さん、オーエン役の上川一哉さんを始め、役のこれまでのイメージよりも若いキャストが多いですよね。

「そうですね。だからズッコケ3人組みたいな感じで(笑)、よりドタバタ感は出るんじゃないでしょうか。増田くんはザ・天然な雰囲気を持っているし、その中でカッコつけたり、エンターテイナーな部分を出したりしているので、それがまたマネージャー役のオリバーとしてはツッコミ甲斐がありますよね。普段の彼の持っている人の良さや明るさが役にも出ているので、“しょうがないな”と思いながらサポートしています」

−増田さんと小野田さん、お二人のコンビネーションはいかがでしょう。とっても相性が良さそうなお2人に思えるのですが。

「お互い喋るタイプなので、芝居以外でもたくさんお話ししていますね。“そろそろお腹すいたよね。◯◯が食べたいなぁ”って言うと、“お腹空いたの?”って買ってきてくれるので、おねだりしながら(笑)仲良くさせて頂いています」

−増田さんの歌声に刺激を受けられることはありますか?

「これまでのオスカーは朗々と歌う、男性の強さみたいなものが強い俳優さんが演じられてきたと思うのですが、増田くんならではの軽やかさみたいなのがあるんですよね。それは彼が持っている、ミュージカル発声とは違うポップス的な歌い方と、昔ながらのミュージカル音楽とが融合しているからだと思うんです。それによってオスカーが自分に酔っている感じがより出たりするので、面白いですよね。『20世紀号に乗って』のプリンシパルキャストは普段僕が出ているミュージカル作品とは異なるバックグラウンドを持つ方が多いので、刺激になるし、勉強にもなります。自分にできる事ではないからこそ、1人の観客としても面白く見ていますね」

−小野田さんが演じられるオリバーはどんなキャラクターだと捉えていますか?

「結構そのままの僕でいる感じです。オリバーはせっかちで神経質なところがあって、僕もせっかちなので似ているんですよ。それに今回はコメディですから、演出のクリスにも“あまり考え込まないで芝居しましょう”と言われるんです。なので、増田くんとも上川くんとも普段の関係性のまま、セリフや音楽が助けてくれて役柄になっていくという感覚が強いです」

−今回は増田さんがオスカーを演じることでダンスシーンも増えると伺っています。

「そうですね。増田くんとクリスは『ハウ・トゥ・サクシード』を一緒にやられていますから、彼が元々持っているエンターテイナーな部分を生かしたいということはあったようで、僕もそれでお話を頂いたんです。クリスに“僕は踊れないですよ”と言ったら、“いや、『メリー・ポピンズ』出ていますよね”って(笑)。僕はマネージャー役なので基本踊らないですが、ザ・ブロードウェイミュージカルらしい、歌いながら踊るというシーンもあるので、“ミュージカルやっているな!”という感じはありますね。最近そういった歌って踊るミュージカルに出ていなかったので。昔のミュージカルっぽいナンバーもあるし、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』のようにセリフから歌に展開していくビックナンバーもあるので、色々なミュージカルのエッセンスが入った作品になっています」

−それは楽しみです…!海外のコメディ作品を日本語でやることには難しさも多いのではないでしょうか。

「難しいですね。アメリカンジョークや言葉遊びが伝わりにくいのはもちろんそうですし、スピーディにセリフのやり取りが行われるから面白い場面でも、日本語になると説明的になってセリフが長くなってしまうこともあるんです。ただクリスは俳優を信頼して聞いてくださるので、僕も“英語版と比べてここが長い気がする。もっとキャッチボールが早く出来た方が面白いんじゃないか”と伝えることもありますし、みんなでディスカッションしながら、毎日試行錯誤していますね」

−意味の分かる日本語にすることと、音やリズムに乗せることの双方が求められるので、難しいと思います。でもそれを俳優も含めてディスカッションできるカンパニーなんですね。

「やっぱりセリフを実際に喋ってみて気づくこともあるので、限られた時間の中でそこを改善していくのは大切ですよね。あと、役者の引き出しも重要だと思うんです。例えば“ありがとう”という言葉でも、色々な音色の“ありがとう”を言えるか。別に言葉を変えなくても、トーンを変えることで成立させられることもあると思う。そこは役者の勝負だし、力の見せ所だと思っています」

演劇やミュージカルを愛してきたというプライドと意地があるのは、僕の武器

−小野田さんは『マチルダ』のトランチブル校長や『ピーター・パン』のフック船長など、作品の中では悪役的な立ち位置でも、その役柄に対して深く共感し、理解されているように思います。

「そうですね。普段自分が生きている中で、こう生きてやろうと思って生きることってないじゃないですか。それと一緒で、“この生き方が当たり前で、自分はこうなんで”というある種の人間の開き直りが舞台上に出ていると思うんです。人間を拡大したものが舞台に乗るものだと思うので、一回その役を現実に戻って考える、ということはよくやりますね。現実で考えてみて、これは当たり前にやっているんだろうなと思ったら自分も当たり前だと思って演じるし、故意的だなと思ったら故意的にやる。舞台の上は特別な空間に見えるし、特別な空間ではあるんだけれど、あくまでも日常にその役がいた時の拡大であるということは心がけていますね」

−だからどの役にも人間味が感じられて、キャラクターを愛おしく感じられるのですね。

「『マチルダ』のトランチブル校長の反響は凄かったですよね(笑)。『マチルダ』に関しては、元々すごく好きな作品だったので、日本での上演を待ち望んでいたんですよ。でもトランチブルなんて僕には出来ないと思っていたのですが、オーディションに受かって出る以上は、あの時感動した自分を裏切れないという思いはありました。どんな俳優より、僕は演劇やミュージカルを愛してきた人生だった。そのプライドと意地があるのは僕の武器だと思っています。それに日本初演のオリジナルキャストに選ばれてしまった以上は、作品に泥を塗るわけにはいかない。お客様が受け入れてくださるかどうかはまた別なのですが、自分が持っている技量の中で、やり切らないといけないというのは思いました」

−そして今年は『氷艶2024 −十字星のキセキ−』へのご出演も決まっていますね。

「昨年アイスショー『プリンスアイスワールド』にゲスト出演させて頂いて、フィギュアスケートの美しさを改めて実感した時のオファーだったので、全ての仕事を蹴ってでも受けたいという思いでしたね。それに演出の宮本亜門さんから直接お電話頂いたので、もう断れないですよね(笑)。でも新しいことをやるってすごく楽しいし、しかも自分が魅了されたものへの挑戦だったので、嬉しいし楽しみです。ただスケート靴履いて歌えるのかな?とか現実的な不安が最近ありますね(笑)」

−ミュージカルのお客さんは、初めて生でフィギュアスケートを観るという方も多いと思います。

「生で見ると凄いスピードなんですよ。普段劇場では見られない、氷の上で人知を超えたスピード感で展開されるドラマというのを味わって頂きたいですね。フィギュアスケートを普段見ているお客様には、セリフや音楽の融合でまた違う感動を味わってもらえたら嬉しいです」

−今年は新たな挑戦の多い年になりそうですね。

「同じミュージカルというカテゴリーの中でも、全然違う環境でまだまだあるんだなって思うし、そこに出会えるって凄く幸せですね。年齢も30歳を超えて大人な役柄もあって、でも若い役もあって、色々な選択肢が増えてきて楽しいですよ」

−作品や役との出会いは偶発的なものも多いとは思いますが、今後こうなって行きたい、といったビジョンを描かれたりはされるのでしょうか。

「僕自身は本当に、自分が主役でこの作品をやりたい、といった願望があまりないんですよ。たまたまその役が主役だったというのはあると思うのですが、主役をやりたい、というのがなくて。この役を小野田がやってよかったなって思ってもらえる役との巡り合わせをしていきたいという思いが強いです」

−いつかこの役をやりたい、というのは…?

「それは色々ありますよ。例えば『シラノ』は最近日本でも上演がないからやってみたいし、若いうちにやった後に、年齢を重ねてもう一度出る、というのも良いなと思います。あとは『ジキル&ハイド』『サンセット大通り』とか、『アナスタシア』のグレブや『レベッカ』のマキシムもやってみたいですね。ただその役に巡り会えるかどうかは自分ではどうしようもできない部分も多いので、人間力と演劇力を深めておくしかないですね」

撮影:山本春花

ミュージカル『20世紀号に乗って』は3月12日(火)から31日(日)まで東京・東急シアターオーブ、4月5日(金)から10日(水)まで大阪・オリックス劇場にて上演が行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

観客として演劇・ミュージカルを愛するからこそ、役者としても観客の自分を裏切らないように向き合う。小野田さんらしい役との向き合い方にとても感動しました。増田貴久さんとのコンビネーションもバッチリのようで、上演が楽しみです!