9.11の裏で起きた心温まる奇跡の実話をもとに作られたブロードウェイミュージカル『カム フロム アウェイ』。カナダにある小さな町・ニューファンドランドを舞台に、12名のキャストが約100役を演じる100分間のノンストップ・ミュージカルです。トニー賞、ローレンス・オリヴィエ賞、ニューヨーク・タイムズ紙の批評家賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞した本作が遂に2024年3月7日、日本初演を迎えます。

「最も過酷な稽古」を経て、「ファミリー」に

囲み取材には、オリジナル演出家のクリストファー・アシュリーさんと、安蘭けいさん、石川禅さん、浦井健治さん、加藤和樹さん、咲妃みゆさん、シルビア・グラブさん、田代万里生さん、橋本さとしさん、濱田めぐみさん、森公美子さん、柚希礼音さん、吉原光夫さんの12名のキャストが登場。

クリストファー・アシュリーさんは「この作品に9年間携わっている中で、この世界では大きな分断や紛争が起こっています。戦争やパンデミックがある中で、優しさと他人に対して寛容な思いを持つ作品に携わることが出来て幸せ」と本作の意義を語ります。また本作は実話をもとに作られており、出てくるキャラクターも実在の人物をモデルに構築されています。その方々は「創作時から協力的で、今やこの作品のファンとなり、世界中の公演を追いかけ回してくれている」のだとか。

日本初演キャストについては「この人たちが好きすぎて、今後のキャリアではこの人たちとしかお仕事しないと決めたところ」とお茶目に語り、シルビアさんは「絶対ですよ?(笑)」と念押し。深い信頼関係で結ばれているカンパニーであることが伺えました。

「約6ヶ月間に渡り、準備してきた」と語ったのは、安蘭けいさん。「密度の高いお稽古をさせてもらってきたので、きっと素晴らしい初日になる」と思いを込め、「日本人キャストにしか出せない味が皆様にお届けできたら」と意気込みます。

立ち位置が細かく決まり、次々に1人が何役もこなす『カム フロム アウェイ』を創り上げるため、約6ヶ月間、日々濃密で緻密な稽古を重ねてきたカンパニーの皆さん。橋本さとしさんは「これまでキャリアの中で最も過酷だった」と語り、森公美子さんは「“カムフロムアウェイ ダイエット”だった」と、なんと7kgも痩せられてしまったのだとか。

加藤和樹さんは「ミュージカル界のアベンジャーズのような皆さんと共演するということで稽古が始まる前はドキドキしていたんですけれど。稽古を重ねていく中で、みんなが同じ時間を共有して、失敗も笑いに変えて前に進んでいく感覚が、1つのカンパニーというよりファミリーという感じが凄くするんです。なので、不安ももちろんありますけれど、長い稽古期間で培ってきたものを舞台上で出して、日比谷界隈で一番エネルギーのある作品に仕上がっていると思いますので、ぜひ劇場に観にきていただけたら」と熱い意気込みを語りました。

シルビア・グラブさんは初めて日生劇場で照明等を含めての通し稽古を行なった際、「Somewhere in the Middle of Nowhere」で涙が溢れてきたそう。「これで最後のピースであるお客様が入った時にどれだけ冷静でいられるか分からないくらい、最高でした」と本作の魅力をひしひしと感じられていることを語ります。

吉原光夫さんは「3.11や地震がある日本で、また人が人を傷つけ合う時代に、この作品は穏やかな風を与えると思います」と本作の魅力を表現し、クリストファー・アシュリーさんも「穏やかな風、という言葉がこの作品を表している」と頷きました。

そして最後に町長役を務める橋本さとしさんが音頭を取り、キャストの皆さんで三三七拍子と「Welcome To The Rock!」の掛け声を。チームワークばっちり、笑顔溢れる囲み取材となりました。

小さな町に突如不時着した38機の飛行機

2001年9月11日、同時多発テロが起こったあの日、アメリカの領域が急遽閉鎖され、行き場を失った38機の飛行機と7,000人の乗客・乗員たち(と17匹の動物たち)。彼らはカナダのニューファンドランド島のガンダー国際空港に不時着します。

木々に囲まれたシンプルで美しいセットに置かれた、テーブルと椅子。そこはガンダーの人々が集まる集会所的な飲食店となり、不安な人々を乗せた飛行機になり、人々が交流する酒場になります。舞台セットの転換はなし、12名の役者たちは普段着のようなカジュアルな格好で、眼鏡や帽子をかけると瞬時に別人に。そうしてガンダーの人々になったり、乗客たちになったりしながら物語がスピーディに展開していきます。

人口わずか1万人の小さな町が一夜にして約2倍の人口に。地元のTVの新人記者ジャニスは戸惑いながらも取材を続け、小学校で働くビューラは人々に食料や宿泊先を用意します。乗客たちは28時間もの時間、飛行機に缶詰になり、電波も通じず、何が起こっているかも分からない不安な時間を過ごしていました。そんな彼らの気持ちを慮り、温かく出迎えるガンダーの人々。赤ちゃんのためにオムツを用意し、女性には生理用品を。動物愛護団体に所属するボニーは機内にいる動物たちを心配します。

乗客たちの中には様々な人種がいて、英語が通じない人も多くいます。言葉が通じず怯えるアフリカ人夫婦にガンダーの男性が指し示したのは、聖書の「思い煩うことなかれ」という言葉。それぞれの宗教によって異なる食べ物を用意したり、大切な人と連絡を取りたい乗客たちのために電話を用意したり。人種を超え、言語の壁を超え、宗教を超えて、人々を思いやり、尊重するガンダーの人々の温かさは、人間として本当に大切なことが何かを染み入るように教えてくれます。

また本作を語る上で欠かせないのが音楽。アコーディオンや民族楽器を舞台上で生演奏し、島に根付いた美しく心躍る音色を奏でます。オープニングナンバーの「Welcome To The Rock」では一糸乱れぬダンスで、厳しい気候の中を生き抜いてきたガンダーの人々の力強さを表現。

撮影:山本春花

アメリカ初の女性パイロット・ビバリーが歌う「Me And The Sky」では、濱田めぐみさんがしなやかな彼女の生き様と、愛する飛行機が凶器として使われた悲しみを歌い上げます。

人が人を傷つけあった痛ましい同時多発テロの衝撃は、今も多くの人の心に焼き付いています。しかし世界が悲しみや怒り、困惑に満ちた日、人種も宗教も超えて手を差し伸べ、助け合おうとした人々がいたのもまた事実。そのことを、シンプルなセット、たった12名の役者で、観客の想像力を信じた究極の演劇スタイルで魅せる『カム フロム アウェイ』。劇場には温かな希望と愛、力強さが満ち満ちています。

ミュージカル『カム フロム アウェイ』は3月7日(木)から29日(金)まで日生劇場で上演。その後、大阪・愛知・福岡・隈元・群馬公演が行われます。チケットの詳細は公式HPをご確認ください。

Yurika

「ミュージカル界のアベンジャーズ」でなければ成し得ない作品!次々と物語が展開するスピーディさと、音楽の美しさ、個性溢れるキャラクターたち、キレのあるダンスも見どころで、100分間があっという間。気づいたら湧き上がるような拍手喝采に包まれていることでしょう。