2019年に公開されたミュージカル映画である実写版『アラジン』。ランプの魔人ジーニーをウィル・スミスが演じたことでも話題となりました。日本語吹き替え版ではアラジンを俳優・中村倫也さんが務められ、その美声に驚いた方も多いのでは。そんな本作で、オリジナル版にない新曲として登場したのがジャスミンの歌う「Speechless(スピーチレス)」。今回は日本語版の歌詞には訳されていない英語詞を細かにご紹介。この楽曲に込められた女性像や豊かな表現を紐解きます。

01 波に飲まれそうなジャスミン

まず「Speechless(スピーチレス)」の冒頭の歌詞、「Here comes a wave/Meant to wash me away」に着目してみましょう。日本語版では「取り残されそうなの 暗闇にひとりで」という歌詞になっています。「wave」は“波”、「wash」は“洗う”を意味するので、「波がやってきて、私を洗い流してしまいそうだ」といった意味になります。

さらに続く歌詞が「A tide that is taking me under」。「tide」は“潮”を意味し、時に時代の風潮などとしても使われます。直訳すれば「私を引きずり下ろそうとする潮」となりますが、「時代の風潮が私を下に引きずり下ろそうとする」とも取れるのです。自由と自立を求める彼女に対して、親である王や王の座を狙うジャファーは理解を示しません。「外は危険だ」「女は黙ってろ」といった周囲の声と、そこに立ち向かうジャスミン。その状況を波の比喩を使って表現しているのです。

02 石に刻まれた、何世紀も変わらない言葉たち

「Speechless(スピーチレス)」の2番でも、多彩な比喩によって彼女は女性への偏見と既成概念に疑問を呈します。「Written in stone/Every rule, every word/Centuries old and unbending」という歌詞は、直訳すると「石に書かれたあらゆるルールや言葉は、何世紀も昔から確固たるものだ」といった形でしょうか。

これは女性に対しても、様々な差別に対しても、社会のあらゆる固定概念に対しても、言えることかもしれません。「昔からそうだから」という理由で続いてきてしまった、時代に合わない慣習や偏見。「But now that story is ending」、でも今その物語を終わりにしようと、ジャスミンは決意します。

03 壊れた翼を持って、空を駆け抜け燃える

「I won’t go speechless」、私はもう無言ではいないと宣言するジャスミン。「Let the storm in/I cannot be broken」(嵐を呼び入れればいい、私は壊れたりしない)、「Try to lock me in this cage/I won’t just lay me down and die」(牢屋に閉じ込めてみなさい、私は横たわって死んだりしない)と様々な比喩を用いてその強い意志を示します。

そして、ジャスミンは自分の力で世界に羽ばたくことを誓う。それを表す歌詞が、「I will take these broken wings/And watch me burn across the sky」。私なりに訳すと、「私は壊れた翼を持っていく、そして空を駆け抜け燃える私を見るがいい」。

どんなに傷つけられても、それ以上の情熱を持って、燃えるように空を駆けていく。それはまるで、自ら炎に飛び込み再生すると言われる不死鳥のよう。彼女はこの曲を通して、「男性の言うことを聞く」「自分の意見は言わない」といった凝り固まった女性像に苦しんできた自分を捨て、自分の意思と共に自由に生きる新しい女性として生まれ変わったのかもしれません。

Yurika

“王子様が姫(女性)を連れ出してくれる”物語の代表作である『アラジン』に、強い女性像を豊かに描いた新曲を加えた実写版。時代を見極め、作品をリニューアルさせるディズニーに感嘆させられました。 「Speechless(スピーチレス)」の歌詞を考察した上で、改めて実写版『アラジン』を見返してみてはいかがでしょうか。実写版『アラジン』はディズニープラスAmazon Primeで観ることができます。