広告史に残る名作を数々生み出してきたCMディレクター山内ケンジ氏の劇団・城山羊の会。曰く「自粛とストレスで太ってしまった令夫人をめぐる艶笑譚」という2年ぶりの新作を観てきました。(2020年12月・小劇場B1)

上流階級のエロティックな戯れ

なんといっても気になるのがタイトル。色気薫る演技で定評のある石橋けいさんが出演されることで、日活ロマンポルノを意識して付けられたのだとか。タイトルが示すイメージ通り、情事にまつわる大人の性愛が間接的、直接的に描かれます。

登場人物は官僚やその妻、某広告代理店勤務と華やかな肩書ばかり。そんな彼ら上流階級たちの社会的な仮面をかぶった会話が、徐々にセクシャルの色を帯び、気がつけばあらゆる場面がいやらしく見えてくる。徹頭徹尾エロティックに彩られた舞台です。

現実の異常性を、性愛から照射する

物語の大筋は、石橋さん演じる自粛太りの官僚の妻が、性的に見えて仕方ないパーソナルトレーニングによってスリムになり、元気を取り戻すという身も蓋もないもの(笑)。

一方で、コロナ下(とは劇中では語られない)による心の抑圧が暗示され、辛い現実を忘れさせてくれる存在としての性愛が浮き彫りになっていきます。ラストシーン、夫人がパーソナルトレーナーに「触れてもらうだけで、なにも考えられなくなるから。毎日、触れてもらいたい」と涙ながらに語ります。現実の異常な日常を、性愛という側面から照射した、この時代ならではの作品です。

Shinpei

まだまだ伝えきれない城山羊の会の面白さ。後半の記事では、松尾スズキ氏から「黒い三谷幸喜」と表現された会話劇の魅力を紹介します。