もしも音楽の天才が、音楽を禁じられたら?オースン・スコット・カードによる短編小説を原作に、演劇集団キャラメルボックスの代表作として愛されてきた作品を2024年にミュージカル化した『無伴奏ソナタ -The Musical-』。2026年の再演に先駆け、主人公のクリスチャン・ハロルドセンを演じる平間壮一さん、クリスチャンのハウスキーパー・オリビアほかを演じる真瀬はるかさんにお話を伺いました。
音楽を禁じられる感覚とは?

−平間さんは2度目の出演となりますが、前回の公演はいかがでしたか。
平間「辛かったです(笑)。でも最後は生きてて良かったと思える作品なんです。きっと何を受け取るかは1人ひとり違うと思うので、皆さんがどう感じられたのかが気になりますね」
−真瀬さんは作品にどんな印象を持たれていますか。
真瀬「映像を拝見して、明確な答えがないことが、この作品が何度も上演されている理由な気がしました。お客様にとっても何度も噛みしめたくなる作品だし、演じ手にとっても分からないことがあるからこそもう一度やりたくなるのかなと。
それに再演が重ねられると、お客様は人生のステップが進んで、見え方が変わることもあると思うんです。“あの時はここに涙したけれど、今はこの登場人物のこの台詞が胸に来る”とか、人生のタイミングでも感じ方が変わる作品だと思います。ある意味、すっきりと分からないことがこの作品の一番の魅力なのかなと感じました。だから私も分かったふりをせず、分からないことを大切に演じたいなと思っています」
平間「僕は前回、分からないことが嫌でずっと悩んでいたんです。そうしたらキャラメルボックスでクリスチャンを演じてこられた多田(直人)さんが“分からないまま本番に行っちゃいなよ”と言ってくれて、初めて分からないまま舞台に立ちました。その楽しさを学んだのが『無伴奏ソナタ -The Musical-』でした」
−クリスチャンは音楽の天才でありながら、音楽を禁じられるという壮絶な運命を辿ります。
平間「真瀬さんは食べ物で何が一番好きですか?」
真瀬「餃子とプリン!」
平間「合わない組み合わせ(笑)。それを目の前に出されて、一生食べないでって言われる感じです。うーってなりますよね」
真瀬「確かに…それはうーってなります」
平間「お芝居をしてはいけないと言われると、生きること自体が難しくなる気がします。生きていると自然とお芝居のような瞬間がありますから。言葉を発せなくなるだろうなと思うし、僕は我慢できないですね」
真瀬「クリスチャンにとっての音楽は、普通の会話以上に言語そのものだから、本当に言葉を禁じられているのが一番近い感覚かもしれないですね。私も無理だと思います」
平間「この作品ではみんなが幸せになるために幼少期のテストによって職業が決められる世界を描いていますが、恐らくそれでは幸せではないんですよね。競争がなくなると幸せだと言われているけれど、クリスチャンはバッハの音楽を聞いて初めて“自分ってまだまだなのかも”とか“こんなに素敵な曲が世の中にあるんだ、悔しい”という感情が生まれます。それは一見苦しいものだけど…自分の楽曲しか知らなかったらそれ以上のものは生まれなくて。人間には苦しみも必要なのかもしれないと思わされます。苦しいシーンを演じるのは辛いなぁと思うんですけどね(笑)」
クリスチャンが自分に重なる瞬間

−再びクリスチャンを演じるにあたって、大事にしたいことはありますか。
平間「まず主演で再演のお話をいただくことが当たり前ではないと思います。本来はお話をいただいた瞬間に、“もちろんやりたい、絶対やらせてくれ”と言わなければいけなかったけれど、正直辛い作品ではあったので、色々と悩んでしまったんです。でもそれ自体が間違っているなと思い直しました。観たいと思ってくれている人がいて、再演が決まったなら、もちろんやりますと答える自分でありたいと思いました」
真瀬「でもしんどかったなと思うくらいご自身を作品に捧げて、そのエナジーがお客様の心を動かしたんだと思いますよ」
平間「いやいや、でも自分に重なってしまう瞬間もある作品なんです。僕は中学2年生で上京したので、14年くらいしか親元にいなかったわけですよね。すごく申し訳ないことをしたなと思う瞬間があります。クリスチャンはさらに幼い頃に親元を離れてしまうので、もっと家族と一緒の時間があったら良かったのにと思うと、すごく辛いです。でも頑張ります」
−真瀬さんはオリビアのほか複数役を演じられます。
真瀬「複数役あるというのが楽しみです。やっぱり役者ですから、色々な役をやらせていただけるのが嬉しいです。私はキラキラした2枚目の役だけをやっていたいタイプでもないので、2幕で色々やらせていただけるのをすごく楽しみにしています。
オリビアについてはこれからお稽古で探していくところですが、目に見えない絆をコネクトしていく役だから、お客様に舞台上では描かれていない時間を感じていただけるよう、大切に作っていきたいです」
平間「オリビアはクリスチャンにとっても大事な役なので、ご一緒するのが楽しみです」
真瀬「平間さんは前回も演じられていますし、そもそも俳優さんとして本当に素晴らしい方だということはいつも舞台で拝見して思っているので、きっと平間さんからいただけるものがたくさんあるんだろうなと今からワクワクしています。私もしっかりとクリスチャンが心の旅路を辿っていけるよう、影響を与えていきたいですし、その役割を果たしたいと思います」
心に残る、“持ち帰れる音楽”

−本作は元々演劇集団キャラメルボックスの代表作として愛された作品をミュージカル化しています。杉本雄治さんが手がける音楽の魅力についてもお聞かせください。
真瀬「私は“僕はこの手で”と歌う楽曲(「音楽は僕のすべて」)がずっと残っています。リプライズでも使われていて、帰り道にはみんなが心の中で歌って帰れる。そういうミュージカルが大好きなんです。それって何よりもお客様へのお土産になると思うから。テーマ曲となる楽曲が作品の柱になっているのが印象深いですし、自分も好きなタイプの作品です。私は2幕では音痴な役があるので、稽古が楽しみです(笑)」
平間「僕は音楽を禁じられているのにみんなに“歌って”と促される楽曲が怖いです(笑)。きっと潜在的にクリスチャンが求めていることだからこそ、みんなは“歌っちゃいなよ、何かあったら守るよ”と言ってくれるんだと思うんですけれど、それは法律を犯すことであって、他人だから言えることだなと。歌ったらその瞬間は楽しいけれど、その後のことは、みんなは責任を取れない。人間って残酷だなと感じる瞬間です。
1幕でクリスチャンが作る音楽は“天才が生み出す誰も聞いたことのない音楽”なので、前回の公演では様々なこだわりと苦労がありました。でも2幕で彼が生み出し、人々に歌われていく楽曲はまた違うもので、良いバランスで杉本さんに作っていただいたなと思います」
−成井豊さんの演出はいかがでしたか?
平間「演出家でありながら、観客目線で作品を楽しまれているのが印象的でした。誰よりも大きい声で笑ってくれるし、かなり自由に動かせてもらいましたね」
真瀬「そうなんですね!初めて演出を受けるので、すごく楽しみです。色々試せるのは嬉しいですね」
平間「その中で、成井さんがこだわられているポイントももちろんあります。印象的だったのは、原作者のオースン・スコット・カードさんの作品はギフテッド(才能)について描いた作品が多いということ。特別な才能を受け取った時、みんなは天才だと持て囃すけれど、本当にその能力が欲しいと思うのか。それは本当に素晴らしいものなのか。そういったことを大切にされていると感じます」
色々な面があるから安心してね、と伝えられたら

−本作ではクリスチャンが「幸福法」と呼ばれる法律によって罰せられる度、“あなた方の幸せを守るため”だと語られます。突飛な法律に見えて、今の社会に重なる瞬間がありますね。
真瀬「幸せの定義は難しいですよね。特に今の世の中では情報が溢れていて、信じ込みすぎるのは怖いことだなと思います。例えば“バズっているから良い化粧品に違いない”と思い込んで買っても、自分の肌に合っているかは分からない。どんな物事でも多面性が絶対にあって、色々な角度から見る必要があると思います。今、この作品を上演する意義を感じます」
平間「最近は、旅先の写真をアップしているSNSの投稿を見て、絶望してしまう子がいると聞きました。自分は旅行に行けるような家庭じゃないと悲観してしまうそうです。でも華やかに見える生活ばかりが良いとは限りません。都会に住んでいる人が緑を求めるように、真逆の状況が良く見えることもあります。そういうことを知ってほしい。色々な面があるから安心してね、と伝えられたら良いなと思います」
−作品を通して印象的なキーワードやシーンはありますか。
真瀬「クリスチャンの“僕はこの手で作りたい”という言葉が印象的です。誰かではなく、“この手で”という言葉が私にとっては3Dのように浮き出て見えます。私でなければできないことは何だろう、というのは、真瀬はるかとしてもずっと探し続けていることだから。私が役に選ばれた意味は何なのか、私を通過してお客様に役を観ていただく意味を持ちたい。それをずっと探しているので、“この手で”という言葉の強さを感じます」
平間「僕はバー&グリル店主のジョーとのシーンが好きですね。クリスチャンと確執が生まれてしまうのも、もっと素直に言ってくれれば解決できたかもしれなところも、すごく人間らしいなと思います。子どもの頃はもっと素直に思いを言えていたのに、とか。素直になれないから勘違いや争いが生まれるのかな、とか。やっぱり人間の色々な面が描かれた作品ですね」
新しい風を入れ続けたい

−2年ぶりの上演にあたって、ご自身の中で変化したことはありますか。
平間「楽しいからやっているはずのお芝居が、辛い瞬間も多くて、楽しいかどうか分からなくなったこともあったんです。でも今は、僕たちの仕事は皆さんの代わりでもあるのかなと思っています。日常ではどこかに理性を保ちながら生きていかなければいけない中、理性が外れた瞬間を描いたり、辛い人生の役を背負ったりすることで、それを観て泣いてスッキリしてもらう。明日も頑張ろうと思ってもらう。そういう仕事なんだなと自信を持てるようになりましたし、そのために思いきり演じたいです」
−真瀬さんは宝塚、劇団四季でご活躍され、新たなフェーズで挑む作品となりますね。
真瀬「私は音楽も大好きですけれど、お芝居が好きなので、サンシャイン劇場のように密な空間でお芝居できることが本当に楽しみです。色々な役を演じながら作品を作るというのもワクワクします。また今回は初共演の方が多く、キャラメルボックスの皆さんとご一緒できるのも嬉しいです。
私が俳優として大切にしていることの一つとして、“新しい風を入れ続ける”ということがあります。今年ちょうど20周年を迎えるのですが、やっとスタートラインに立ったような、ずっと新入生のような気持ちなんです。新たな節目の年に、新しい方たちと出会ってやれる作品なのが嬉しいですし、自分にとっても成長できる作品にしていきたいです。私が作品にどう貢献できるか分からないですけれども、皆さんからたくさんのものを頂きながら、自分にできることを頑張りたいと思います」
−最後にメッセージをお願いします。
真瀬「白黒はっきりしない部分もあるので、皆様が何を噛みしめてくださるか、持ち帰るものがそれぞれ違うと思います。違うことを楽しみにしていただきたいですし、何を感じたのか、ぜひお手紙などで教えて欲しいです。皆さんがこの作品を観て何を受け取ってくださるのか知りたいですし、私自身も演じながら毎日違う発見があると思います。お客様と俳優の発見が重なって、この作品がまたさらにたくさんの方に愛していただけるよう、お互いに育てていける作品になったら面白いと思うので、ぜひ作品を育てに劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです」
平間「受け取ってもらうものはそれぞれで良いと思っています。人は小さな当たり前の幸せをすぐに忘れてしまいます。目が見えていること、息ができていること、味がすること。大げさに幸せだと感じなくても良いけれど、当たり前じゃないなと思い直させてくれる作品になっています。生きてて良かった、生きようと思える作品にしたいと思いますので、観に来てください」

『無伴奏ソナタ -The Musical-』は2026年7月17日(金)から26日(日)までサンシャイン劇場、8月8日(土)から9日(日)までクールジャパンパーク大阪 WWホールにて上演されます。公式HPはこちら
とても明るく朗らかにお話ししてくださったお二人。その中には常に作品から社会を見つめる視点や、役者として様々なことを自問自答しながら芝居と向き合い続ける熱い姿勢があって、お二人が本作で起こす化学反応がとても楽しみになりました。



















