2021年にNetflixで公開されたミュージカル映画『チック、チック…ブーン!』。今年の映画賞シーズンはまだ始まったばかりですが、既にゴールデングローブ賞など多数の賞やノミネーションを獲得しています。

こちらの記事でご紹介した通り、名作ミュージカル『レント』を作詞作曲し、早くにこの世を去ったジョナサン・ラーソンの伝記映画とも言える本作。過ぎ去る年月に焦りながらも、溢れる才能を止めることができない天才の命の輝きを描いた作品です。

ミュージカル界に多大な影響を遺したラーソンに敬意を表し、本作には多くの有名人がゲスト出演しています。あのカットにも、あのシーンにも、あの客席にも。知れば『チック、チック…ブーン!』がもう少し面白くなるかもしれない、豪華ゲストの面々をご紹介します。※以下、演出や楽曲に関するネタバレを含みます。

ダイナーにレジェンド達が集結した”Sunday”

大忙しのダイナーで、少しの静寂を求めるラーソンの頭の中を覗くようなこちらのナンバー。余談ですが、この楽曲は作中のテレビで流れるミュージカル、『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』に出てくる”Sunday”という曲のパロディとなっています。

さて、このダイナーに訪れるブランチ客の中には実に個性豊かな面々が揃っていました。例えば「ユダヤ・パン」を注文するスーツ姿の男性は、『オペラ座の怪人』のファントム役で知られるハワード・マクギリン。お会計を無視される眼鏡の男性は『ウィキッド』初演時にオズの魔法使いを演じたジョエル・グレイ。

転職祝いにウォッカを注文する二人の女性は、『ハミルトン』でスカイラー姉妹を演じたフィリパ・スーとレネイ・エリース・ゴールズベリー。厨房でフライパンを振るうのは、本作の監督であり、『ハミルトン』の作詞作曲主演を務めたリン・マニュエル=ミランダ。

黒いジャケットに銀髪が美しい女性は『シカゴ』で知られるビビ・ニューワース。帽子の女性は『ウェスト・サイド・ストーリー』のアニータ役で知られるチータ・リベラ。

そして、最終的にステージと化したダイナーの上では、ラーソンの最高傑作となった『レント』のオリジナルキャストを務めたアダム・パスカル、ダフネ・ルービン=ヴェガ、ウィルソン・ジャメイン・ヘレディアの三人が歌っています。

他にも多くのスターが登場していますが、よく見るとそれぞれの代表的な役柄にちなんだ小物や仕草が取り入れられており、ブロードウェイ好きにはたまらない場面です。

実はビッグネームだらけのワークショップ

作曲家のためのワークショップに参加したラーソンは、そこで巨匠スティーヴン・ソンドハイムに貰った一言が大きな原動力となりました。その回想シーンでは、ワークショップに集まった「作曲家志望」の参加者たちが映されます。実は、この参加者たちを演じているのは作曲家志望どころかミュージカル界を代表する作曲家・作詞家の面々。

例えば『ウィキッド』『ピピン』等で知られるスティーブン・シュワルツ。『天使にラブソングを』『ヘアスプレー』等で知られるマーク・シャイマン。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』『アニー』等を手がけたジョージア・スティット。『ディア・エヴァン・ハンセン』の脚本を手がけたスティーブン・レベンソン。

また、中にはラーソン没後に設立された「ジョナサン・ラーソン芸術基金」によってミュージカル創作のための資金援助を受けた芸術家たちの姿も映っています。ラーソンの愛したミュージカル界を盛り上げ、発展に努める多くの才能がこの部屋に集結していたのです。

日本公演の映像も!散りばめられた『レント』の暗示

本作は『レント』以前のラーソンの半生を描いたものですが、名作誕生の予感は作中に散りばめられています。例えば、スーザンが篭りきりのラーソンに電話をかけ、部屋に押しかけてくる場面。ピアノに向かうラーソンは、『レント』に出てくる”One Song Glory”の冒頭の一節をまさに作曲している最中です。

さらに、ラーソンが住むアパートの屋上には「525600」という落書きがされており、『レント』の代表曲”Seasons of Love”に出てくる「525600分」という歌詞のオマージュとなっています。

また、本編の最後では『レント』が世界を席巻していく様子が実際の映像を交えて紹介されています。ここで、一瞬ですが日本公演の映像も流れ、マーク役の山本耕史さん、ロジャー役の宇都宮隆さんが映ります。

ラーソンに多大な影響を与えた人々

ジョナサン・ラーソンにとって大きな目標でもあったミュージカル界の巨匠、スティーブン・ソンドハイム。本作ではブラッドリー・ウィットフォードが演じていますが、最後に登場する重要な留守電メッセージはソンドハイム本人の声で録音されています。この映画のためにソンドハイムが吹き込んだものですが、2021年11月に亡くなったソンドハイムの最後の映画出演となりました。

また、本編最後の楽曲である“Louder Than Words”の場面では、客席にジョナサン・ラーソンの実姉ジュリー・ラーソンさんの姿や、舞台版『チック、チック…ブーン!』の監督を務めたスコット・シュワルツの姿が映っています。

Akane

ここでご紹介した以外にも、とても紹介しきれないほど沢山の遊び心やラーソンが遺したレガシーへの敬意が詰まった『チック、チック…ブーン!』。『レント』と共にNetflixで配信中です。