イギリスの劇作家アラン・エイクボーンによる戯曲で、高速でクロスカットするシーン展開や登場人物の人間関係から見えてくる孤独を描く『Private Fears in Public Places』。日本初演として元吉庸泰さんが演出を手がけ、5月24日(日)までシアター代官山にてチーム制での1ヶ月の上演が行われています。◆チームで本作に出演する駒田一さん、彩輝なおさん、原田優一さんにお話を伺いました。
エイクボーンの深みと伏線、ユーモアセンスが光る

−今、本作の魅力をどのように実感されていますか。(取材時は稽古中)
彩輝「知れば知るほど深い、掘り下げれば掘り下げるほど深みのある作品です。色々な仕掛けが散りばめられていて、それが繋がっていくのが面白いですね。元吉さんが戯曲を読み解き、私たちを導く情熱がすごく素敵です。2004年当時のロンドンの状況を踏まえた生活感と共に、各キャラクターの年齢や立場ならではの悩みが描かれているんですが、真面目にやればやるほど笑えてきたりするんですよ。そういう意味でも深いです」
駒田「最初に戯曲を読んだ時とは全く印象が変わってきました。最初はそこまで読み込めていなかったです。読めば読むほど、やればやるほど、話を聞けば聞くほど深くて面白くて、伏線があって、エイクボーンのユーモアセンスが凄いなと思いましたね」
原田「2004年にイギリスで上演された作品なので、現代からすると懐かしいなと思うような時代かも知れません。でも今の日本の現状にとても近い時代でもあるので、今、日本のお客様に観ていただくにあたってすごく刺さる部分があると思います。また個々のキャラクターが抱える孤独や闇は、大きな波としては描かれていないのですが、それぞれの中では結構大きなもので。人から見たら大事ではなくても、自分の中ではすごく抱えているものが大きいというのは、よくあることじゃないですか。それがチラリと見えた時に、共感していただける作品なんじゃないかと思います」
駒田「人間、誰しもが孤独や恐怖を抱えていますよね。それを持っていない人は1人もいないと思う。面白いのは、例えば僕が演じるダンという役は、自分なりの解釈で恐怖や孤独を演じるわけだけれども、★チームの鈴木壮麻さんが演じると同じ台詞でもまた違って見えるんです。お客様も1人1人がそれぞれの見方をできる、お芝居の面白さが詰まった作品だと思います」
原田「先日稽古で一度、★チームに駆り出されたことがあったんですけど、本当に違って見えるんですよね。同じ台詞でも、それぞれ役者さんが今までどういう経験を積んできたのか、どういう人生を生きて、どんな価値観なのかによって、刺さる場所や捉え方が違う。その面白さを実感しました」
いつはけてもOK?!元吉庸泰が創るシームレスな舞台空間

−タイトルにもある通り、“私的な恐怖”が1つ大きなテーマになっている作品ですよね。
駒田「登場人物6人6通りの悩みや孤独、恐怖が描かれています。でもそれがバラバラではなく、繋がっていくので、エイクボーンってすごいなと思いますね」
彩輝「最初に読んだときはその繋がりが分からなくて、元吉さんが演出をつけてくださって、なるほど!と面白さを実感しました。そこから自分の役に没頭できるようになりました」
原田「50以上のシーンが展開していて、ここまで場面数がある芝居は初めてですね。映画のようにシーンがどんどん切り替わる作品なので、脚本を読んだ時はこれをどうやって舞台上で表現するんだろう?と思いましたが、元吉さんが見事に表現してくださいました」
駒田「場面がどんどんクロスしてクロスして…。役者はどこではけても自由で、お客さんと絡んでも良いと言われているんです。俳優と観客を隔てる“第四の壁”が取り払われ、劇場全体が一体化しています」
原田「それが取り払われるとやりようがいくらでもあって、選択肢がありすぎて迷うのですが、でもそれを考えるのが楽しくてワクワクします」
彩輝「お客様に作品をお見せするというより、一緒に存在する、参加してもらう感覚です。垣根がないので不思議な感じがします」
原田「芝居をしていない時も舞台上の後ろにいるので、半分自分であり、半分キャラクターであり…すごくシームレスですね。お手洗いに行きたかったら行っても良い(笑)」
彩輝「色々準備をしたり慌てたりしている様子も丸見えというのは、初めての経験です(笑)」
原田「どこで芝居をする、という決まりも少ないので、この前の稽古では、増田(有華)さんと稲垣(成弥)さんが言い合う芝居をしている時、真ん中に彩輝さんが挟まれちゃったんだよね(笑)」
彩輝「後ろでガサゴソ準備をしていて、振り返ったら挟まれてました(笑)」
駒田「次の日は彩輝さんその場からいなくなっていたね(笑)。元吉さんとしてもすごく挑戦的な演出だと思います。さらに公演が1ヶ月あるので、毎日違う部分がたくさんあると思います」
聖書とお酒とポルノは、人が動く三大アイテム

−3人が演じる役柄についてもお聞かせください。
駒田「僕が演じるダニエル(ダン)は元軍人で、父も祖父もみんな軍人の、お堅い家の出身です。なのにダンだけ何らかの理由で除隊させられ、プライドがダーッと落とされてしまいます。彩輝さん演じる婚約者のニコラには愛はもちろんあるんですけれど、煮え切らない葛藤を抱えています。自分の生活の中で抑圧されたものを、原田さん演じるバーのバーテンダー、アンブローズに対しては少し開けるので、愚痴を聞いてもらっています。ダンは元軍人ですが、お堅い人間には作りたくなくて、“こういう人いるよね”と愛着を持ってもらえるような、内側の人間性を出せると良いなと思っています」

彩輝「ダンとニコラは家柄上、子どもの時から許嫁のような関係性だったのだと思います。でもニコラは年齢を重ねて、多くの女性と同じように、プライベートな悩みに直面します。結婚するのか、子どもを作るのか、働き続けるのか。その一歩をどう行くかによって、人生が大きく変わってくる。たった一歩だけれど、人生を変える一歩をどう進んでいくか、彼女の悩みを濃厚に表現していきたいです。決断する時は孤独ですが、日々様々な人との関わりによっても影響を受けていきます。人からの影響も素直に舞台上で受け、表現していければ、共感していただけるんじゃないかと思っています」

原田「ダンとニコラの喧嘩やすれ違いは、両親を見ているような既視感がありますね(笑)。アンブローズは家で父の介護をしていて、父との確執も抱えています。でも父がいなくなってしまうと孤独の淵に立たされる。そんな複雑な心境をヘルパーのシャーロットには見透かされて、今まで言えなかったことも吐露します。その中でのアイテムとして聖書があります。
バーは彼にとっては仕事場なので、プライベートとは違う一面がありますが、ダンの話を聞くと父親との関係性に共感できる部分もあって。そこにはお酒というアイテムが絡んできます。本作ではプライベートと仕事、PrivateとPublicが描かれますが、人間誰もが様々な顔を持っていると思うので、二面性ではなく、多面性を表現できればと思っています」
駒田「エイクボーンの作品の多くには、聖書とお酒とポルノ、人が動く三大アイテムが描かれているそうです」
原田「日本文化には馴染みのないものもあると思うんですけれど、どうしてこう言ったんだろう?と思ったものがあれば、観た後に調べてみていただくと面白いと思います」
変わりゆく時代の中、おざなりになる自分の孤独を見つめる
−この作品を今この時代、日本で上演することで、どのようなことが映し出されるでしょうか。
駒田「20年前のイギリスは、時代がぐわんと変わってしまう過渡期にあって、それは今の日本と重なるかもしれません。ただこれから日本がどう変わるのか、前は変わっていなかったのか?と考えると、意外と毎年何かは変わっているような気もしますね」
彩輝「今を生きていると、日常の変化には気付きづらいですけれど、振り返るとこんなにも変わっていたんだなと思うことも多いです。でも根本的にはどの国でも、どの時代でも、人間が抱える孤独や悲しみ、喜びというのは共通しているものだと思います。置かれた環境によってどれかが強かったり、少し欠けていたりすることはあっても、人間の孤独、闇と、それを乗り越えて光に向かう力は誰もが持っている。それがこの作品の核となっているので、すごく魅力的なのだと思います。だからこそ垣根のない演出になっているし、嘘のないように物語の中を生きたいです」
原田「過渡期において、周りが変化していくと自分自身の核となるものをおざなりにしがちなのかなと思います。本当は悲しいのに、本当は孤独なのに、本当は怖いのに、それが見えなくなってしまう。プライベートゾーンから外に出た時に、隠の部分というのは見えにくいものです。でも自分の中で起こっていることって実は大きいことで、一度立ち止まって見つめてみることは、自分にしかできないこと。そういうことの大切さが伝わって、劇場を出た時にちょっと景色が変わって見えたら良いなと思います」
−SNSを通して多くの人と繋がる機会が増えた一方、孤独を感じることも増えた今の世の中だからこそ、刺さるものもあるかもしれませんね。
駒田「僕はやっぱり直接会ってお話をしたり、舞台を観に来ていただいて、温度感を感じる、生の空間で同じ空気を吸うということが大切に感じます。僕ら役者も、お客様の温度というのは必ず感じるものですから。特に今回のように約120席というキャパであれば、より体感できると思います。お客様とキャッチボールするような空気感ができれば面白いですね」

−最後にメッセージをお願いします。
駒田「★チームと◆チームで全く違う作品になるくらいの面白さがあると思います。どちらかを観たら、もう一方も観たくなるような作品だと思います。人間の表と裏が非常によく描かれていて、別々ではなく、そこかで線が繋がっていく楽しみもあります。人によって感情移入できるキャラクターも異なると思うので、そういうところも楽しんでいただければ、観る甲斐があるんじゃないかと思います」
彩輝「多面的にお楽しみいただける部分がたくさんあるので、何度でもご覧になっていただきたいです。遊びに行くような、劇場を覗いてみるような、気軽な気持ちでお越しいただきたいですね。誰もが持っている人間の内面に共感していただけると思います。劇場でお待ちしております」
原田「誰かの家に遊びに行くような感覚で来ていただいて、ホームだと思っていただけたら嬉しいです。派手なエンターテイメントというわけではないけれども、そこには日常で皆さんが感じられている心の葛藤や波が描かれています。僕らのチームはとても個性が強めなので(笑)、それぞれの個性が噛み合った時、とても大きなパワーになるんじゃないかと思います。それを観に来ていただければ嬉しいです」
『Private Fears in Public Places』は2026年4月24日(金)から5月24日(日)までシアター代官山にて上演されます。公式HPはこちら
人間の孤独というのは、誰かと簡単に繋がれる時代だからこそ、深まっているように思います。スマホに目が行って目の前の人に伝えられていないことがあったり、スマホの中ではとんでもない方向からやってくる火の粉が降りかからないよう、何も言えなくなったり。3人のお話を伺って、そんな私たちの今の孤独に、そっと寄り添ってくれる作品になっていくと感じました。



















