約100年前、世界ではスペイン風邪によるパンデミックが起こりました。日本の女優第一号とも言われる松井須磨子も、愛する人をスペイン風邪で失った1人。それでも彼女は舞台に立ち続けました。彼女が舞台に立ち続けた理由とは、芸術の意義とは?今だからこそ考えさせられるリーディング演劇『日本一わきまえない女優「スマコ」~それでも彼女は舞台に立つ~』がYouTubeで無料公開されています。(2021年4月27日~ 2021年12月31日まで)

コロナ禍で重なる、スマコの生き様

世界に大きな変化をもたらした新型コロナウイルス。多くの命が失われ、“不要不急”を控えるようにと呼びかけられました。演劇やミュージカルなどのエンターテイメント業界は延期・中止や客席数を抑えてのチケット販売を余儀なくされ、“エンターテイメントは不要不急なのか?”と議論が巻き起こることも。リーディング演劇『日本一わきまえない女優「スマコ」~それでも彼女は舞台に立つ~』の舞台である大正7年も、今と同様に世界中がスペイン風邪によって多くの命を失った年でした。世界の死者数は、約5,000万人とも言われています。そんな中で、松井須磨子は愛する劇作家・島村抱月をスペイン風邪で亡くします。抱月には妻子がありながらも、演劇への熱い思いで繋がっていた二人。世間の風当たりが冷たい最中、それでも舞台に立とうとします。

須磨子を演じるのは、大和田美帆さん。母の岡江久美子さんを2020年4月に新型コロナウイルスで亡くした彼女が表現する須磨子は、強さの裏に悲しみや戸惑いが見え隠れします。それでも須磨子は、抱月への愛を演劇に打ち込むことで証明しようとする。そこに刑事や役場の人間、本妻が作品の中止を求めて押しかけてきます。彼らから見れば、須磨子は愛する人を失っても身勝手に演劇を続ける、奔放な女に映っていたのでしょう。しかし彼女は、愛する人を失った孤独が大きいからこそ、必死に舞台に立とうとしていたように思えます。まさに、命がけで。コロナ禍においても、そうやって舞台に立ち続ける俳優が数多くいるのだと、実感させられます。

総合演出は宮本亞門!緊迫感の伝わる映像に注目

作品の総合演出を務めたのは、現在『ベスト・キッド』のブロードウェイ・ミュージカル化に挑んでいることでも話題の宮本亞門さん。須磨子と登場人物たちの鬼気迫る演技が、シンプルかつリアルに伝わってきます。演劇好きだけでなく、多くの方に見てほしいとの思いから作品はYouTubeで無料公開中。クラウドファンディングで資金を調達し、予算の少ない中でも世界観のある作品に仕上がっています。大和田さんのほか、福士誠治さん、波岡一喜さん、堀井新太さん、まりゑさん、水谷あつしさん、西岡德馬さんがご出演。ナレーターとして津田寛治さんも登場します。

Yurika

不安なニュースも多い中で、須磨子から生きていく強さをもらえる作品。自分が命がけで成し遂げたいことは何か?愛するものは何か?と考えさせられました。登場人物それぞれの角度から、考えを深められる作品となっています。