脚本 アーロン・ティーレン、作曲・作詞 マイケル・マーラーによるオリジナルミュージカル『ヒーロー』。翻訳・訳詞・演出に上田一豪さん、主演に有澤樟太郎さんを迎え、2月6日(木)からシアタークリエにて上演されます。初日を前に、囲み取材と公開ゲネプロが行われました。
「前に進みたくても進めない人」に贈りたい作品
囲み取材には、主人公ヒーロー・バトウスキーを演じる有澤樟太郎さんと、ヒロインのジェーン・フォスターをWキャストで演じる山下リオさん、青山なぎささんが登壇しました。
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上田一豪さんの演出作品に3度目の出演となる有澤さんは「人の内面や人間ドラマを描く作品が一豪さんにすごく合っています。ミルウォーキーという馴染みのない地や習慣、雰囲気を言葉や体、全身全霊で伝えてくれて、不安だったところも和むし、楽しみになる稽古場づくりをしてくれたので、たくさんの方に観ていただきたい作品になりました」と稽古を振り返ります。
役柄については「色々なものを背負っている役。そういう役をやってみたかった」と語り、「今まではカンパニーを盛り上げる元気な役が多かったのですが、今回はエネルギーのない諦めてしまっている役柄なので、普段は役に影響されるタイプではないのですが凄くテンションが上がらなくて(笑)。皆さんに本当に助けてもらいました」とヒーロー役にのめり込んでいる様子を明かします。
山下さんは「ミュージカルは3度目の出演なんですけれど、今まではファンタジー作品が多かったので、等身大の現代もののミュージカルというのは初めてで、難しい」と感触を語りつつも、ジェーン役について「自分に起きた物事を受け入れて、環境を変えて戻ってくる姿は強くて逞しいです。引きずっていない、風のような強さを持っている人で、ヒーローにとっても押し上げていくような人物になるんじゃないか」と語りました。
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青山さんは「初ヒロインを演じさせていただくことになって稽古場でガチガチだったんですけれども、カンパニーの皆さんが優しく積極的に話しかけてくださったり、一豪さんは面白い動きを交えながら教えてくださったりして、心がほぐれて楽しく稽古をすることができました。仲の良さも皆さんに伝わると良いなと思っています」とカンパニーの和やかな雰囲気と結束力もアピールします。
ジェーン役については「芯のしっかりした女性で、過去に色々あったけれど前向きに物事を捉えられるからこそ、ヒーローも背中を押されるような形でどんどん物語がポジティブになっていくんじゃないかなと思っています」と語りました。
最後に有澤さんから「個性的なキャラクターが多いのですが、みんなが自然体で生きています。ヒーローとして最後に救われるお話になっていますし、観ている皆さんの中にも前に進みたくても進めない人がいると思うのですが、前向きになれる作品だと思っていますので、たくさんの方に届けたいと思います」とメッセージが贈られ、会見が締め括られました。
奇跡はすぐそこにある−
漫画家志望のヒーロー・バトウスキー(有澤樟太郎さん)は父親のアル(佐藤正宏さん)とウィスコンシン州のミルウォーキーで暮らしながら、実家のコミックショップで働いています。さらに夜遅くまでバーで働き、冴えない日々を送るヒーロー。
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そんな彼のささやかな楽しみは、日常をコミック風に描いた日記をしたためること。日記ではコミックショップにやってくる常連客や父のアル、従兄弟で親友のカーク(小野塚勇人さん)らがアメコミのヒーローたちのように描かれ、色鮮やかな世界が広がっています。アルは日記を漫画出版社に送るように言いますが、自分にはそんな才能はないと取り合いません。
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ある日、ヒーローは高校時代のガールフレンド・ジェーン(青山なぎささん)と再会。10年前に街を出て行った彼女が、戻ってきたのです。カークの助けもあり、当時の誤解を解いて仲を深めていく2人。彼女との出会いによって前を向き始めたヒーローは、日記を出版社に送る決意をします。
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オープニングからコミックの鮮やかな世界観が映像やセットで表現される本作は、まさしくコミックのページをめくるような高揚感に包まれます。特にコミックショップの色鮮やかなセットは、常連客が入り浸る理由が頷ける空間。歌詞や台詞に「スパイダーマン」「バットマン」「スターウォーズ」などの単語が散りばめられているだけでなく、アメコミ好きにとっては様々な作品を彷彿とさせるシーンも。
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コミックショップではヒーローの父アルと、コミックオタクで若いネイト(吉田日向さん)、そして常連客らが年齢やそれぞれの事情を超えてアメコミのオタク話で盛り上がり、その温かな絆に癒されます。大好きなものを語る楽しさ、そこで繋がる人々。それは観客の私たちも大いに共感できることでしょう。
また本作で強烈な個性を放つのが、ヒーローの従兄弟カークと、ヒーローとジェーンの高校時代の同級生で、ジェーンの同僚であるスーザン・シュミッティ。
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女性たちを魅了し、失敗を恐れない陽気なカークはヒーローと正反対。ヒーローを街に連れ出し、ジェーンとの恋を後押しします。小野塚勇人さんはカークのコミカルさを全身で演じきり、次にどんなパフォーマンスが飛び出るのかワクワクさせられます。
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そんなカークと恋に落ちるスーザンを、宮澤佐江さんが熱演。マイペースで独特な彼女の魅力がどんどんと引き出され、カークと最高のコンビネーションを発揮する頃には、2人の魅力の沼にハマってしまっています。小野塚さんと宮澤さんの息の合ったダンスも楽しく、「カラオケ」シーンでは客席も一緒になって盛り上がれそうです。
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周囲が個性的で陽気なキャラクターたちに溢れる中、ヒーローはとても身近な人物。辛いことがあると誰にも頼れずに自分を責め、殻に閉じこもってしまう姿はもどかしさもありながら、自身を見ているような感覚に陥る人も多いはず。有澤樟太郎さんはヒーローの繊細さと、家族への深い愛情を丁寧に表現していきます。暗闇から光を求めて手を伸ばすような眼差しと、伸びやかな歌声が魅力的です。
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ジェーンに電話をかけるべきか否か、悩みながらもカークに背中を押されて電話をかける「PHONE BOOTH」はキャッチーで楽しいナンバー。失敗しながら何度もかけ直す不器用なヒーローの恋を、思わず応援したくなる微笑ましさが印象的でした。
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ジェーン・フォスター役の青山なぎささんは、明るく芯のある歌声でジェーンのキャラクター性を表現。ヒーローを前に引っ張っていく彼女の姿は、コミックに登場するような華やかなヒロイン的存在感がありつつも、自らが進んで心を開き、現実と向き合っていく強さも感じさせます。
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そしてヒーローの父アルを演じるのは、佐藤正宏さん。息子を心配しながらも優しく見守り続けるアルの深い愛情が、本作の大きな柱となっています。彼が作ったコミックショップは、常連客やヒーローと同様、観ている私たちにとっても特別な居場所となっていきます。
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「奇跡はすぐそこにある−」。漫画のようには上手くいかない現実に寄り添いながらも、日常の小さな奇跡を愛したくなる、心温まる作品です。
ジェーン・フォスター役は青山なぎささんとWキャストで山下リオさん、
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カーク役は小野塚勇人さんとWキャストで寺西拓人さん、
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ネイト役は吉田日向さんとWキャストで木村来士さんが演じます。
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ミュージカル『ヒーロー』は2025年2月6日(木)から3月2日(日)までシアタークリエにて上演。公式HPはこちら
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有澤さんがインタビューでアメコミは「人間味がある」と仰っていましたが、本作にもそういったアメコミヒーローへの愛を感じました。寒い冬にホッと心温まり、明日を生きる力をくれる作品です。