2024年1月1日。穏やかな元日に地震が発生しました。能登地方の広い範囲で大きな傷跡を残したこの災害は、「令和6年能登半島地震」と呼ばれています。今回、地震からの復興を願い、舞台『まつとおね』が上演されることになりました。この記事では、舞台のあらすじや作品に込められた想いをご紹介します。

戦国時代に平和な世を願った2人の妻

舞台『まつとおね』は、吉岡里帆さん演じる「まつ」と、蓮佛美沙子さん演じる「おね」の2人芝居です。「まつ」は前田利家の妻(のちの芳春院)、「おね」は豊臣秀吉の妻(のちの高台院)を指します。

加賀藩主・前田氏の祖である前田利家と、天下統一を達成した豊臣秀吉は、ともに織田信長の家臣でした。そのため、まつとおねは同じ長屋に住んでいた時期があり、親しい関係を築いていたそうです。しかし、本能寺の変(1582年)で織田信長が亡くなると、家臣同士の関係も変化していきます。そんな時代の政変に翻弄されながらも、平和な世を願って行動した妻たちを描くのが『まつとおね』です。

平和な日々を揺るがす事態の只中にある2人の女性。光を見据えて進んでいくその生き様をどう表現するのでしょうか?

自然と舞台が一体化した日本唯一の場所

本作が上演される能登演劇堂は、仲代達矢さんが率いる「無名塾」と七尾市中島町の交流がきっかけで、1995年に誕生した演劇専用ホールです。舞台奥の大扉を開くと、能登の雄大な自然が広がっています。自然と舞台が一体化した舞台機構は世界的にも珍しく、日本では唯一の場所です。

吉岡さんは能登演劇堂について「舞台が外の世界につながって、夢みたいに思っていた世界が現実と地続きなんだと思える演出ができる劇場にすごく惹かれる」と魅力を語ります。蓮佛さんも「あんな風に自然と劇場が一体になった場所は日本で唯一だと伺っているので、歴史ある素晴らしい劇場でお芝居をできるのが一役者として今からすごく楽しみ」とワクワクを覗かせました。

延期を経て実現した復興祈念公演

本作は以前から準備が進められていましたが、令和6年能登半島地震によって能登演劇堂も被災したため、上演が延期されました。しかし劇場の修繕が無事に進んだため、復興祈念公演として上演が決定したのです。

スタッフには被災地を地元とする人もいます。本作のプロデューサーを務める近藤由紀子さんは石川県七尾市出身。地震発生後しばらくは「被災した方々が生き抜くために必死な中、舞台をやっていいのか」と自問自答を繰り返していたそうです。しかし次第に「舞台を通じて感動や笑顔を届けられたら、ふるさとの人に喜んでもらえるのではないか」と、舞台の実施に意義を見出すようになりました。

演出を担当するのは、本作で演出家デビューを果たす歌舞伎俳優の中村歌昇さん。舞台の上演を前に、中村さんは能登の被災地へ足を運び、そこに息づく歴史や生活をあらためて実感したそうです。伝統の世界に生き、確かな実績を積み上げてきた彼が、新たなキャリアのスタートとともに届ける『まつとおね』に期待が高まります。

作品を通じて届けたいのは「あたたかな希望」

吉岡さんは当初、復興の流れのなか、舞台のために能登を訪れることへためらいがあったと話します。しかし、ドキュメンタリー番組などを通じて、日々を懸命に過ごす人々の想いを知ったそうです。「なにかのきっかけをもたらすのが俳優の仕事」「復興に向かって進んでいることを広く知ってもらえるチャンスなのではないか」と考えながら、作品に取り組んでいると語りました。

蓮佛さんにも、同様の迷いがあったようです。震災から約半年が過ぎたころ、復興よりも復旧が追い付いていないという報道を目にした蓮佛さん。「エンターテイメントを届けるのはまだ早いのではないか」と不安に感じていました。

そんなときに出会ったのが、能登で長くボランティア活動に取り組んだ方でした。「まだ復旧していない部分はあるけれど、来てくださる方には希望を持ってきてほしい」という被災者の気持ちを教えてもらい、蓮佛さんはハッとしたそうです。「寄付や物資を送ること以外の形でも、作品を通じて希望をお届けできる可能性があるなら、持てる限りの希望を持って能登に行きたい」とコメントしています。

群雄割拠の時代を生きた妻たちを通じて、震災からの復興を祈念する『まつとおね』。託された想いが羽ばたき、観る者の心にあたたかな希望を灯すことを願っています。

令和6年能登半島地震復興祈念公演『まつとおね』は、2025年3月5日(水)から23日(日)まで、石川県七尾市の能登演劇堂で上演されます。詳しい情報は公式サイトでご確認ください。

さよ

本作のプロモーションドキュメンタリー映像を拝見して、吉岡さん・蓮佛さんをはじめとする関係者の方々がどれだけ能登に心を寄せているか知りました。作品に込められた想いを肌で感じたい方は、ぜひドキュメンタリー映像もチェックしてみてくださいね。